- 契約書に調印する際にハンコがない場合、捺印はサインによる押印(書き判)でも法的に有効となり、契約は成立するのでしょうか?
- 契約書への調印の際、氏名欄を直筆のサインで書いた場合(署名の場合)、そもそも捺印や押印が無くても契約自体は有効に成立します。このため、ハンコがない場合であっても、捺印や押印は必要ないですし、サインで印影を書いた「書き判」でも問題ありません。
このページでは、契約書の署名者・サイナー向けに、印鑑・ハンコがない場合の署名押印の仕方や書き判の書き方について解説しています。
契約書にサインをする際、うっかり会社に印鑑・ハンコを忘れてしまうことがあります。
この場合、わざわざ印鑑・ハンコを取りに戻ると時間がかかりますし、場合によっては契約書への調印のスケジュールを延期しなければならなくなることもあります。
しかし、本来、契約書への調印は、署名だけで問題はなく、契約も法的に有効に成立します。
このため、契約書への調印には、法的には、印鑑・ハンコは必要ありません。
ただ、形式的な必要性や、一種の儀礼として、印鑑・ハンコによる押印・捺印の代わり・代用として、サインによる押印、いわゆる「書き判」を書くことがあります。
このページでは、こうした捺印をサインで書く方法や書き判の法的効果について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 「捺印はサインでもいい」とされる根拠。
- サインによる捺印=書き判の書き方。
- 捺印と押印の違い。
捺印はサインでもいい
契約は、民事訴訟法第228条により、「署名」(自著・自筆のサイン)だけで契約は有効に成立します。
民事訴訟法第228条(文書の成立)
(途中省略)
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5(省略)
このため、通常の契約実務では、印鑑が無い状態であっても、自筆・自著による署名(サイン)だけがあれば、契約は有効に成立します。
つまり、契約書への調印の際には、捺印そのものが必要ありません。
この点から、署名がある場合は、「捺印はサインでもいい」、つまり書き判による捺印でも問題ない、ということになります。
サインの捺印(書き判)の書き方
念のため署名だけでなく書き判や拇印の押印を求める
このように、契約書に調印する際には、自筆・自著による署名があれば、契約は有効に成立し、捺印は必要ありません。
ただ、契約実務上は、署名だけでなく、念のため、書き判(サインの捺印)や拇印による押印が求められることがあります。
これは、後日「押印がないから無効である」と主張されないようにするためです。
また、調印の際に、「印鑑(実印や認印)が無いから」という理由で、契約書への署名を拒否されないためにも、書き判や拇印が求められることもあります。
書き判とは?
自著・自筆・サインの捺印のことを、一般に「書き判」といいます。
より正確には、契約書に印鑑を押す代わりに手書きで印影を記載することをいいます。
【意味・定義】書き判とは?
書き判(読み方:かきばん)とは、印鑑の押印の代わりに、手書き・サインで書かれた印影をいう。
つまり、書き版は「手書きの判子」のことですので、書き版の読み方は「かきはん・かきばん」となります。
書き判には証拠能力がない
書き判は、誰にでも書けますので、いわゆる三文判等の認印と同程度の効力・法的効果とされています。
【意味・定義】認印とは?
認印とは、実印として登録されたもの以外の印鑑をいう。三文判ともいう。
つまり、書き判には、実印とは異なり、署名者本人を特定する証拠能力はほとんどありません。
ただし、本人による筆跡は残るため、市販の三文判に比べると、証拠能力は高いといえます。
また、花押のように、独創性の高い独特のデザインであれば、署名者本人を特定する証拠能力が極めて高いと判断される可能性はあります。
書き版につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
サインの捺印(書き判)の書き方
書き判の書き方には、特に法律で決まったルールはありません。
書き判には、法的な効果はほとんどありません(後述)ので、その書き方も法的には決まっていません。
一般的な書き方としては、縦書きにした姓(名字)を丸で囲んで書きます(下図参照)。
当然ながら、消えないように、署名・サインと同じく、消えないボールペンで書きます。
なお、書き判は、色が朱肉と同じ赤・朱色である必要はありません。
このほか、書き判の書き方につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
拇印とは?
拇印は、指紋による押印のことです。
【意味・定義】拇印とは?
拇印とは、指紋に朱肉をつけて契約書に押し当てて押印することおよびその印影をいう。
拇印は、本人唯一の指紋による押印であため、本人を特定するという意味では、極めて証拠能力が高いです。
このため、拇印は、実印に次ぐ証拠能力がある押印です。
こうした事情があるため、やむを得ず実印の押印がされないような状況では、書き判ではなく、拇印を押印してもらったほうが、より証拠能力が高いといえます。
捺印・押印とは?
捺印=「署名捺印」の略称
捺印は、いわゆる「署名捺印」の略称とされています。
つまり、捺印とは、署名の際に押された印鑑の印影や、署名の際に印鑑を押すことを意味します。
【意味・定義】捺印とは?
捺印とは、署名の際に押された印鑑の印影をいう。また、署名の際に印鑑を押す行為をいう。なお、一般に、署名の際に限らず、印鑑の印影や印鑑を押す行為を意味する場合もある。
また、捺印は、一般に、押印と同様に、印鑑を押す行為と同じ意味で使われることもあります。
なお、すでに述べたとおり、民事訴訟法第228条により、署名のみで私文書は真正に成立しますので、法律上は、「署名捺印」という表現は滅多に使いません。
わずかに、外国人の署名捺印について、次のような規定があるだけです。
明治32年法律第50号(外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律)第1条
1 法令ノ規定ニ依リ署名、捺印スヘキ場合ニ於テハ外国人ハ署名スルヲ以テ足ル
2 捺印ノミヲ為スヘキ場合ニ於テハ外国人ハ署名ヲ以テ捺印ニ代フルコトヲ得
押印=「記名押印」の略称
これに対し、押印は、いわゆる「記名押印」の略称とされています。
つまり、押印とは、記名の際に押された印鑑の印影や、記名の際に印鑑を押すことを意味します。
【意味・定義】押印とは?
押印とは、記名の際に押された印鑑の印影をいう。また、記名の際に印鑑を押す行為をいう。なお、一般に、記名の際に限らず、印鑑の印影や印鑑を押す行為を意味する場合もある。
また、一般に、記名の際に限らず、単に印鑑の印影や、印鑑を押す行為を意味する場合もあります。
なお、「署名捺印」とは異なり、「記名押印」は、現在の法律上も、広く使われている表現です。
捺印と押印の違いは?
このように、捺印と押印は、ともに「印影」や「印鑑を押す行為」として使われる表現です。
捺印と押印の違いは、署名の際のものか記名の際のものか、という点にあります。
捺印と押印の違い | ||
---|---|---|
捺印 | 押印 | |
署名・記名の別 | 署名の際に押された印鑑の印影や署名の際に印鑑を押す行為のこと。 | 記名の際に押された印鑑の印影や記名の際に印鑑を押す行為のこと。 |
ただし、一般的なビジネスシーンでは、特に区別されて使われていないことも多いです。
また、仮に誤った使い方をしたとしても、実害は少ないと言えます。
署名・記名とは?
署名とは?
署名は、いわゆる直筆(自著)で書いた氏名・名称(商号・屋号)のことです。
【意味・定義】署名とは?
署名とは、直筆で記載した氏名・名称(商号・屋号)等をいう。
通常、サインといえば、こちらの署名のことを意味します。
署名は、直筆でのサインであるため、筆跡が残ります。
このため、署名の証拠能力はきわめて高く、契約書に署名した場合は、すでに述べた民事訴訟法第228条により、その本人が契約を締結した証拠となります。
記名とは?
記名とは、印刷・ゴム判等の署名以外の方法で記載された氏名・名称(商号・屋号)のことです。
【意味・定義】記名とは?
記名とは、印刷・ゴム印等による押印等や他人の代筆等の署名以外の方法で記載された氏名・名称(商号・屋号)をいう。
他人(秘書、夫、妻、親、子など)に氏名を書いてもらうことも、記名となります。
記名は当事者の筆跡が残らないため、署名に比べて証拠能力が著しく劣ります。
というよりも、記名だけでは、まず契約が有効に成立したことは認められません。
このほか、契約書の署名欄のサインのしかた・書き方・押印のしかたにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
捺印によるサインに関連するQ&A
- 印鑑の代わりにサインする書き方はどのようなものでしょうか。
- 印鑑の代わりにサインする書き判の書き方は、縦書きの姓(名字)を丸で囲むように書きます。
- 書き判にはどのような法的な効果がありますか?
- 書き判は、誰でも書けるものであるため、契約書の署名者本人を特定する法的な効果は、ほとんどありません。
- ハンコがない場合、代わりに何を使う?
- 契約書を取り交わす際にハンコがない場合は、署名(サイン)だけで問題ありません。