- 契約書の署名欄では、住所を省略しても問題なく契約が成立するのでしょうか?
- 契約書の署名欄で住所を省略した場合、契約当事者を特定できなくなり、契約が有効に成立しない可能性もあります。このため、通常は、契約書の署名欄では、住所を明確に記載します。
一般的な契約書の署名欄では、個人の場合は契約当事者の住所・氏名、事業者の場合は契約当事者の商号等の名称・住所・署名者の役職・署名者の氏名を記載します。
例えば、個人と株式会社との契約書では、署名欄は、次のような記載とします。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】個人と株式会社が取り交わす契約書の署名欄
2024年10月1日
東京都◯◯区◯◯町◯◯
佐藤 一郎 ㊞
神奈川県◯◯市◯◯区◯◯町◯◯
鈴木工業株式会社
代表取締役 鈴木 太郎 ㊞
(※商号・人名は架空のものです)
このように、契約当事者が個人であれ事業者であれ、一般的には、署名欄に住所を記載します。
他方で、民事訴訟法第228条第4項により、署名または記名押印は必要とされていますが、住所の記載は必要とされていません。
民事訴訟法第228条(文書の成立)
(途中省略)
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5(省略)
このため、契約書の署名欄で住所を省略したとしても、あくまで理論上は契約は成立したものと推定されます。
【意味・定義】推定するとは?
推定するとは、ある事実があった場合に、反証がない限り、法律上、そのような効果を認めることをいう。このため、その事実とはことなる反証があった場合は、その反証が認められる。
しかしながら、通常の契約実務では、わざわざ契約書の署名欄に住所を記載します。
その理由は、契約当事者を特定するためです。
氏名や商号は、同姓同名の人物や同じ商号の会社が存在する可能性があります。
このため、同姓同名や同じ商号が無い唯一の氏名・商号の当事者でない限り、署名欄に住所を記載しないと、契約当事者を特定したことになりません。
このため、住所を省略した契約当事者が「そのような契約を締結した覚えはない」と主張した場合、その契約書では、契約が有効に成立した証拠にならない可能性があります。
他方で、同じ住所には、同姓同名・同じ商号の個人や会社が所在することはまず考えられません。
このため、契約書の署名欄に住所を記載することにより、契約当事者を特定することができます。
なお、明らかに当事者を特定できる場合は、都道府県を省略する程度であれば、問題はありません。
この他、契約書への署名・記名押印のしかたにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
まとめ
- 理論上は、署名または記名押印があれば、住所の表記がなくても、民事訴訟法第228条第4項により、契約は有効に成立する可能性はある。
- ただし、契約書の署名欄に住所の記載が無い場合、契約当事者を特定したことにならず、その契約書は契約が有効に成立した証拠にならない可能性が高い。
- このため、一般的な契約実務では、必ず署名欄に住所を記載する。