- 株式会社等が契約を締結する場合、署名欄において役職名がない契約書では、契約は有効に成立しますか?
- 株式会社等が契約を締結する場合、役職名なしの契約書のときは、契約が有効に成立しない可能性が高いです。ただし、一部の法律によって、役職名なしの契約書であっても、有効に契約が成立する場合もあります。
株式会社等が契約を締結する場合、その契約を有効に成立させるためには、署名者・記名者に契約締結権が必要となります。
逆に言えば、署名者・記名者に契約締結権が無いと、その署名者・記名者による署名や記名押印があったとしても、その会社による契約とは認められず、契約が有効に成立しないことがあります。
つまり、契約書の署名欄に書かれる役職名は、契約締結権があるものでなければなりません。
この点について、契約締結権は、通常は、以下の者が有しているとされています。
契約締結の権限がある者の具体例
- 株式会社・有限会社の代表取締役
- 株式会社・有限会社の取締役
- 専務・常務・支店長・営業所長
- 課長・係長
- 個人事業者・フリーランスの本人=代表
- 特定の法律(旅行業法、金融商品取引法、商品先物取引法)による契約締結の権限がある社員(外務員)
このため、そもそも署名者・記名者の役職名がない場合、契約締結権の有無が判断できないため、その契約書は契約が成立した証拠とはならず、契約が有効に成立しない可能性が高いと言えます。
ただし、上記の具体例にもあるとおり、一部の法律には、外務員という制度があります。
例えば、以下のとおり、金融商品取引法において、金融商品取引業の外務員は、(特定の行為に関し)「一切の裁判外の行為を行う権限を有する」とされています。
金融商品取引法第64条の3(外務員の権限)
1 外務員は、その所属する金融商品取引業者等に代わつて、第64条第1項各号に掲げる行為に関し、一切の裁判外の行為を行う権限を有するものとみなす。
2 (省略)
このように、外務員は、たとえ役職がない場合であっても、法律によって、一定の契約締結権が認められています。
このように、一部の法律によって契約締結権が認められている場合は、たとえ役職名なしの署名・記名押印であったとしても、契約は有効に成立する可能性が高いです。
もっとも、このような場合であっても、以下の文例のように、所属の部署や外務員である旨(役職名として「外務員」という表記)があったほうが望ましいと言えます。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】署名欄
2024年4月1日
東京都◯◯区◯◯町◯◯
株式会社日本証券 本店営業部 営業1課
外務員 佐藤 一郎 ㊞
神奈川県◯◯市◯◯区◯◯町◯◯
鈴木工業株式会社
代表取締役 鈴木 太郎 ㊞
(※商号・人名は架空のものです)
この他、株式会社による契約書への署名・サインのしかたにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
まとめ
- 契約を有効に成立させるためには、契約締結権がある署名者・記名者による署名・記名押印が必要。
- 契約締結権を有するには一定の役職(最低限、係長以上)が必要。
- 役職名なしの署名・記名押印では、契約締結権の確認ができないため、原則として契約が有効に成立した証拠にはならない。
- ただし、一部の法律によって契約締結権が認められた外務員による署名・記名押印の場合は、契約が有効に成立する可能性はある。