こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

本日(2018年9月26日)、株式会社エイチ・アイ・エス(以下「H.I.S.」とします)の募集したハワイでの結婚式のツアーについて、解約騒動が起こっているという報道がありました。

H.I.S.ハワイ結婚式“ドタキャン”260件で大トラブル | 文春オンライン

このページでは、一連の報道で槍玉に挙げられている、「当社の関与し得ない事由」という表記が妥当であったかどうか、検証してみたいと思います。

なお、本件につきましては、H.I.S側から、次のプレスリリースが発表されています。

本日の一部の報道について

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「当社の関与し得ない事由」が独り歩きしている

週刊文春の報道によりますと、H.I.S側から旅行者がされた書面には、次のような表記があったとされます。

本来であれば「当社の関与し得ない事由」に該当する事案でございますが

そして、この表記については、旅行者の方の反応として、次のように報道されています。

「そこには〈本来であれば「当社の関与し得ない事由」に該当する事案でございますが〉などと書かれており、謝罪の言葉もありません」

確かに、一見すると「当社の関与し得ない事由」という表現は、木で鼻を括ったような表現であり、あまりいい印象を持たれないと思われます。

しかしながら、わざわざカギ括弧つきで「当社の関与し得ない事由」と表現したのは、実は、法律的な理由があります。

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旅行の契約は「旅行業約款」で規定する

H.I.S.は独自の旅行業約款を定めている

結論を言えば、H.I.S.の側には、契約を変更する場合、旅行者に対し、「当社の関与し得ない事由」であることを説明する義務・責任がある、という事情があります。

具体的な説明に入る前に、まずは、旅行業者と旅行者との契約関係について整理しておきましょう。

旅行業者と旅行者との間の契約内容は、旅行業者が旅行業約款において定め、観光庁長官から認可を受けなければなりません(旅行業法第12条の2第1項)。

これにより、H.I.S.は、次のとおり、旅行業約款を定めています。

H.I.S. 旅行業登録票、旅行業約款、旅行条件書

一般的な旅行業者は標準旅行業約款を使う

ちなみに、旅行業者独自で旅行業約款を定めて観光庁長官の認可を受けているのは、少数派です。

一般的には、観光庁長官及び消費者庁長官が定める「標準旅行業約款」を使用しています(旅行業法第12条の3)。

いずれにせよ、今回問題となっている部分については、H.I.S.の旅行業約款と、標準旅行業約款の内容は、同様の内容となっています。

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「当社の関与し得ない事由」を伝える義務がある

「契約の変更」では「当社の関与し得ない事由」を伝えなければならない

さて、今回問題となっている「当社の関与し得ない事由」ですが、おそらく今回のツアーに該当するであろう募集型企画旅行に関するH.I.S.の約款には、次のとおり規定されています。

旅行業約款 募集型企画旅行契約の部 第13条(契約内容の変更)

当社は、天災地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令、当初の運行計画によらない運送サービスの提供その他の当社の関与し得ない事由が生じた場合において、旅行の安全かつ円滑な実施を図るためやむを得ないときは、旅行者にあらかじめ速やかに当該事由が関与し得ないものである理由及び当該事由との因果関係を説明して、旅行日程、旅行サービスの内容その他の募集型企画旅行契約の内容(以下「契約内容」といいます。)を変更することがあります。ただし、緊急の場合において、やむを得ないときは、変更後に説明します。

(※「募集型企画旅行契約の部 株式会社エイチ・アイ・エス沖縄」の第13条も同一の規定となっています。また、標準旅行業約款も同様の規定となっています)

この規定にあるとおり、「運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止」その他の「当社の関与し得ない事由」が発生した場合において、契約を変更するときは、H.I.S.の側から、「当該事由が関与し得ないものである理由及び当該事由との因果関係を説明」する義務があります。

H.I.S.は約款にもとづいて通知しただけ?

このように、H.I.Sの側としては、「当社の関与し得ない事由」にもとづき契約を変更する場合、その旨を、旅行者の側に通知する義務があります。

ですから、「当社の関与し得ない事由」という、一見して木で鼻を括ったような表現は、実は、法的な説明責任を果たすための表現だったともいえます。

H.I.S.の側としては、約款にもとづいて説明責任を果たしていたつもりなのでしょうが、結果として、こうした表現が、火に油を注ぐ形となったわけです。

もちろん、もっと表現に配慮する必要があったのでしょうが、こうした事情も背景にはあるわけです。

契約解約でも「当社の関与し得ない事由」を説明する必要はある

ちなみに、旅行業約款第13条では、あくまで契約の変更について規定されたものであり、契約解除については、別に規定があります。

実は、契約解除の規定では、特に「当社の関与し得ない事由」に関する説明責任は規定されていません。

ただし、「理由を説明して」という規定があります(H.I.S.旅行業約款第17条・第18条)。

この点について、次の理由により、契約解除の際にも、「当社の関与し得ない事由」であることを説明する義務があるものと思われます。

契約解除でも「当社の関与し得ない事由」を説明する理由

  • 契約解除は広い意味での「契約の変更」に含まれるとも解釈できるから。
  • 契約解除よりも責任の程度が軽い契約の変更ですら「当社の関与し得ない事由」を説明する義務がある以上、契約解除でも、少なくとも同等以上に説明の義務があるから。
  • 「理由を説明して」の理由に「当社の関与し得ない事由」であることが含まれるから。

まとめ

管理人も、第一報を受けて、H.I.S.側の対応は、いかがなものかと感じました。

ただ、わざわざカギ括弧付きで「当社の関与し得ない事由」と表現しているあたり、「何か裏があるのでは?」とも思いました。

そして旅行業約款を見てみたところ、案の定、旅行業者側には、こうした「当社の関与し得ない事由」についての説明義務が課されていました。

一連の対応全体で、H.I.S.の側に何らかの責任があったのかもしれませんが、現時点では、詳報がありませんので、判断しかねます。

しかしながら、少なくとも、旅行者側への通知の中で使われた「当社の関与し得ない事由」という表現は、旅行業約款で規定された旅行業者の説明義務を果たした表現です。

レピュテーションリスクがありえる状態で、本来であれば、「当社の関与し得ない事由」などとは表現したくなかったのではないかと推察されます。

ただ、こうした背景を把握したうえで報道に接すると、また違った見方になるのではないでしょうか。