このページでは、契約書の署名欄の書き方や注意点について解説しています。

契約書の末尾の署名欄には、住所と氏名・名称(商号・屋号)の記名または署名をし、押印をします。

契約書の署名欄は、契約の成立を確定させる、非常に重要な部分です。

このため、重要な契約書ほど、厳格な手続きのもとで、署名または記名押印をします。

このページでは、こうした署名欄での署名・記名押印のしかたについて、解説します。




契約書の署名欄とは?

署名欄は、契約書の末尾(または冒頭・表紙・鑑)にある、契約当事者が署名する欄です。

【意味・定義】署名欄(契約書)とは?

契約書の署名欄とは、契約書の末尾または冒頭・表紙・鑑の部分にあるものであって、契約当事者が署名・記名押印等をする欄をいう。

一般的な契約書の署名欄は、契約書の末尾にあることが多いですが、必ずしも署名欄を契約書の末尾とする必要はありません。

大量に印刷する一般消費者向けの契約書などでは、契約事務を効率化するため、表紙などの書きやすい場所を署名欄にすることもあります。





契約書の署名欄の書き方・具体例

一般的な株式会社同士の契約書では、署名欄は、次のような記載とします。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】署名欄

2022年4月30日

東京都◯◯区◯◯町◯◯

株式会社佐藤商事

代表取締役 佐藤 一郎 

神奈川県◯◯市◯◯区◯◯町◯◯

鈴木工業株式会社

代表取締役 鈴木 太郎 

(※商号・人名は架空のものです)

日付を左に寄せたり、署名欄を右によせたりするのは、特にルールとして決まっているわけではありません。

このため、すべて左や右に寄せても構いません。ただし、見やすいように、多少の調整はするべきです。

また、見やすいように、枠を設定したり、破線・点線や下線を設定して、サインしやすいようにしてもかまいません。

この他、株式会社による契約書への署名・サインのしかたの解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

株式会社による契約書への署名・サインのしかたは?





契約書における住所の書き方は?

住所は契約当事者を特定するために必ず記載する

理論上、住所の記載が契約書になかったとしても、契約自体は成立します。

ただ、契約実務上は、住所は契約当事者を特定する要素となるため、必ず記載してもらいます。

個人名にせよ、法人名にせよ、同姓同名や同一の名前・名称となることは十分にありえます。

住所を記載することで、こうした同姓同名の個人や、同一の名称の法人について、区別できるようになります。

個人事業者の場合は事業所の住所を記載する

相手方が個人事業者の場合で、自宅と事業所が別々のときは、事業所のほうの住所を記載します。

また、名称の部分は、「◯◯(屋号)こと(◯◯)氏名」という記載にします。

こうすることで、消費者としてではなく、(個人)事業者として契約を締結したことを明らかにします。

具体的には、次のような記載とします。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】署名欄

平成30年4月30日

東京都◯◯区◯◯町◯◯

株式会社佐藤商事

代表取締役 佐藤 一郎 

埼玉県◯◯市◯◯区◯◯町◯◯

高橋商店こと高橋 一雄

代表 高橋 一雄    

(※商号・屋号は架空のものです)

この他、個人事業者・フリーランスによる契約書への署名・サインのしかたの解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

個人事業者・フリーランスによる契約書への署名・サインのしかたは?

ポイント
  • 理屈のうえでは、住所の表記がなくても、契約は有効に成立する。
  • ただし、住所は、契約当事者を確定させるために、必ず記載する。
  • 個人事業者の場合は、屋号+氏名と事業所の住所を記載することで、事業者として契約を締結したことを明らかにする。





契約書における署名(サイン)と記名のしかたは?

署名(サイン)と記名の2種類のしかたがある

サインには、署名と記名の2種類があります。

署名は、いわゆる直筆(自著)で書いた氏名・名称(商号・屋号)のことです。

【意味・定義】署名とは?

署名とは、直筆で記載した氏名・名称(商号・屋号)等をいう。

通常、サインといえば、こちらの署名のことを意味します。

記名は、印刷・ゴム判等の署名以外の方法で記載された氏名・名称(商号・屋号)のことです。

【意味・定義】記名とは?

記名とは、印刷・ゴム印等による押印等や他人の代筆等の署名以外の方法で記載された氏名・名称(商号・屋号)をいう。

署名・サインは契約の成立を意味する

民事訴訟法第228条により署名・サインで契約が成立する

署名は、直筆でのサインであるため、筆跡が残ります。

このため、署名の証拠能力はきわめて高く、契約書に署名した場合は、その本人が契約を締結した証拠となります。

誤解されがちですが、実は、署名さえあれば、特に押印がなくても、契約は有効に成立します。

実際、私文書である契約書については、民事訴訟法第228条第4項において、次のように規定されています。

民事訴訟法第228条(文書の成立)

(途中省略)

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

5(省略)

もちろん、これは「推定」となっていますので、反証があれば、覆すことはできます。

しかしながら、余程の証拠がない限り、直筆のサインがニセモノであることを立証するのは、非常に困難です。

実務上は署名に加えて書き判や拇印による押印をしてもらう

繰り返しになりますが、上記の民事訴訟法の規定により、押印がなくても署名があれば契約は成立します。

ただ、契約実務上は、実際にサインしてもらう際には、念のため、書き判(印鑑の代わりにサインする印影。姓・名字を◯で囲んだもの)や拇印による押印もするようにします。

これは、後日「押印がないから無効である」と主張されないようにするためです。

【意味・定義】書き判とは?

書き判(読み方:かきばん)とは、印鑑の押印の代わりに、手書き・サインで書かれた印影をいう。

書き判の書き方につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

印鑑の代用でサインする書き方は?ハンコを忘れた場合の書き判について解説

記名はそれだけでは契約が成立しない

記名単体では証拠能力がない

記名は、署名以外の氏名・名称(商号・屋号)の記載のしかたです。

具体的には、ゴム印やワープロソフトによって印刷された印字による氏名・名称(商号・屋号)などです。

また、他人(秘書、夫、妻、親、子など)に氏名を書いてもらうことも、記名となります。

記名は当事者の筆跡が残らないため、署名に比べて証拠能力が著しく劣ります。

というよりも、記名だけでは、まず契約が有効に成立したことは認められません。

記名には実印が必須

では、記名に記載された契約書を有効なものとするためには、どうしたらいいのかといえば、「押印」をすることです。

すでに触れた民事訴訟法台228条第4条では、「署名又は押印があるときは」となっています。

このため、押印があれば、記名であっても契約は成立します。

なお、ここでいう押印は、いわゆる「実印」によるものと、とそれ以外の押印について、区別されていません。

ただし、実務上は、ここでいう押印は、実印であることが必須となります(後述)。

ポイント
  • 署名欄への氏名・名称(商号・屋号)の記載は、署名(サイン)と記名の2種類のしかたがある。
  • 直筆による署名・サインは契約の成立を意味する。
  • 記名はそれだけでは契約が成立しないため、なるべく実印による押印をしてもらう。





5種類の押印と契約書へのサインのしかたは?

押印は、実印によるものと、それ以外の4種類の合計5種類あります。

押印の種類
  • 実印:個人の場合は市区町村、法人の場合は法務局に登録された、登録印のこと。
  • 認印:実印として登録されたもの以外の印鑑のこと。三文判ともいう。
  • シャチハタ:インクが充填された、いわゆる「インク浸透印」のこと。
  • 書き判:姓・名字を◯で囲んで書いた押印のこと。
  • 拇印:指紋による押印。

それぞれ、詳しく見ていきましょう。





契約書にはなるべく実印を押印してもらう

【押印1】実印は最も法的証拠能力が高い

実印とは、個人の場合は市区町村、法人の場合は法務局・登記所に登録されている印鑑のことです。

【意味・定義】実印とは?

実印とは、市区町村(個人のもの)または法務局・登記所(法人のもの)に登録された印鑑をいう。

実印は、押印の中では最も証拠能力が高いとされます。

実印を契約書に押印するメリット・デメリット・リスクは?

実印の押印があれば、たとえ直筆の署名ではなく記名であっても、契約は成立します。

この際、印鑑登録証明書を併せて提出してもらえば、その押印が実印のものであることの証明となります。

このため、契約書への調印における、最も厳格な手続きは、「本人や代表取締役による署名+実印の押印+印鑑登録証明書の提出」となります。

以上の点から、比較的規模が大きな事業上の契約や、継続的な事業上の契約では、実印の押印と印鑑登録証明書の交付がおこなわれることがあります。

【押印2】認印は証拠能力は著しく低い

記名+認印では契約は有効に成立しない

認印とは、実印以外の印鑑のことです。三文判ともいいます。

【意味・定義】認印とは?

認印とは、実印として登録されたもの以外の印鑑をいう。三文判ともいう。

認印は、実印と違って役所に登録されていません。

このため、誰でも手に入れることができます。

こうした点から、認印は著しく証拠能力が低く、署名がない=記名+認印の押印では、契約は、まず有効に成立しません。

有効に押印された認印の立証は極めて難しい

もっとも、認印も、一応は、民事訴訟法第228条第4項の「押印」になります。

しかしながら、記名がある相手方から、「その認印の押印は私のものではありません」と否認されると、契約の証拠としては機能しません。

仮にその認印が普段から相手方によって使われているのであれば、契約が有効に成立した証拠となります。

ただ、そのためには、別の証拠、例えば、自筆の署名と認印の押印がある別の書類によって、その認印が普段から相手方によって使われていることを立証しなければいけません。

このように、認印による押印は、契約実務上は、契約の成立が否定されるリスクが非常に高いため、署名とセットでない限り、使いません。

【押印3】シャチハタは証拠能力はない

シャチハタは、いわゆる「インク浸透印」のことです。

【意味・定義】シャチハタとは?

シャチハタとは、インクが充当されたインク浸透印の一般的な呼称をいう。

シャチハタは、実印とは違うため、広い意味では認印の一種ともいえますが、認印とは決定的に違う点があります。

それは、シャチハタは、経時劣化による損耗によって、印影が変わってしまうことがある、という点です。

この点から、シャチハタは、正式な契約書の押印としては、認印以上に認められることはありません。

せいぜい、社内での(しかも重要度が低い)決裁文書の決裁の際に使われる程度です。

【押印4】書き判は認印と同一の法的効果

書き判は、署名した際の筆記用具で、姓・名字を◯で囲った押印のことです。

【意味・定義】書き判とは?

書き判とは、筆記用具で姓・名字を◯で囲った押印をいう。

実印以外の押印という意味では、書き判は、認印の押印と効果は同じですが、直筆の「押印」であるため、認印に比べると、署名者を特定できます。

書き判は、主に、契約書に署名した際に、手元に認印がない場合に、念のために記載してもらう「押印」です。

直筆の署名があれば、理屈のうえでは契約は有効に成立します。

ただ、後で「押印がないから契約は無効である」と主張されないように、書き判であっても、念のため記載してもらうべきです。

この他、印鑑の代わりにサインする書き判の書き方や法的効果につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

印鑑の代用でサインする書き方は?ハンコを忘れた場合の書き判について解説

【押印5】拇印は証拠能力が極めて高い「認印」

拇印は、指紋による押印のことです。

【意味・定義】拇印とは?

拇印とは、指紋に朱肉をつけて契約書に押し当てて押印することおよびその印影をいう。

拇印は、本人唯一の指紋による押印であため、本人を特定するという意味では、極めて証拠能力が高いです。

このため、拇印は、実印に次ぐ証拠能力がある押印です。

こうした事情があるため、やむを得ず実印の押印がされないような状況では、契約書の署名欄へのサインは、署名+拇印の押印とします。

こうすることで、署名+実印(+印鑑登録証明書)に次ぐ証拠能力の契約書を作成することができます。

ポイント
  • 実印は、もっとも証拠能力が高い押印。できれば印鑑登録証明書を提出してもらう。
  • 認印は、役所に登録されていないため、証拠能力が著しく低い。実際の裁判では「認印を使っていたこと」を立証しなければならないため、契約書の押印としては、直筆の署名を併用しない限り使わない。
  • シャチハタは経時劣化によって印影が変わるため、証拠能力はない。
  • 書き判は、認印と同一の法定効果だが、認印に比べると、筆跡による証拠能力がある。
  • 拇印は、認印と同一の法的効果だが、本人唯一の指紋による押印のため、証拠能力が極めて高い。





契約締結の権限がある役職とは?

法人や個人事業者など、事業者が契約書にサインする場合、署名欄には、役職を記載することとなります。

この役職は、署名者個人ではなく、「事業者としてサインしていること」を意味するものです。

なお、通常は、以下の者が契約締結の権限を有しているとされています。