このページでは、契約書の雛形を修正・調整する際の注意点として、法律用語・契約文書の使い方について解説しています。
契約書の専門家は、契約書を読むと、その作成者がプロかそうでないかと、たちどころに見破ることができます。
というのも、契約書の書き方には、決まった法律こそありませんが、独特の慣習があります。
また、専門的な法律用語や契約文章の言い回しがあります。
このため、実は一般的な日本語と契約書の文章は、似て非なるものなのです。
契約書の雛形を修正・調整する際には、こうした独特の法律用語や契約文章を駆使する必要があります。
このページでは、こうした法律用語・契約文章を使った修正・調整の重要性について解説します。
雛形のいい加減な修正・調整はデメリットだらけ
契約書の雛形はそのまま使ってはいけない
契約書の雛形は、そのまま使っていいものではなりません。
理由は様々ありますが、主な理由としては、雛形の契約書は、原理的に実際の取引の内容と一致することがあり得ないからです。
この他、雛形の契約書をそのまま使うデメリットにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
このため、雛形の契約書を使うのであれば、何らかの形で、修正・調整をする必要があります。
いい加減に雛形を修正するリスク・デメリットは?
ところが、この修正・調整は、いい加減にしてしまうと、次のようないろんなリスク・デメリットとなります。
契約書の雛形の修正・調整のリスク・デメリット
- 定義が定まった正確な法律用語を使わないと、相手方と用語の解釈を巡ってトラブルとなる。
- 論理的な整合性がつかなくなり、機能しなくなる。
- 知らず知らずのうちに、自社にとって不利な内容の契約書にしてしまう。
- 違法な契約内容となってしまう。
- 専門家がチェックすると、どの箇所を修正したのかがバレる。
- 相手方に、自社の社内には契約実務に精通した法務部がないことがバレる(少なくともそのような印象を与える)。
- 相手方に、顧問弁護士・法律事務所がついていないことがバレる(少なくともそのような印象を与える)。
専門家の契約書と一般の方の契約書の違い
このように、いい加減な契約書の修正・調整は、非常に大きく、様々なスク・デメリットを伴います。
これは、言い換えれば、専門家による契約書の作成・修正・調整と一般の方による契約書の作成・修正・調整の違いであるともいえます。
専門家 | 一般の方 | |
---|---|---|
使用する用語 | 法律用語または定義条項で明確に定義づけた単語。 | 一般的な日本語・定義条項で定義づけていない単語。 |
文章の論理性 | ひとつの条項の文章としても、全体的な文章としても、論理的で整合性が取れている。 | 部分的に修正・調整した結果、他の条項との関係などの全体的な整合性がつかなくなることがある。 |
内容の有利・不利 | なるべく自社・依頼者にとって有利な内容の契約書にする。 | 自社にとって有利な内容の契約書にしようとするが、結果的にそうなっていないことがある。 |
法令遵守・コンプライアンス | 知りうる限りの法令に適合した契約書とする。 | そもそも規制の根拠を知らないことが多いため、結果的に違法な契約内容となることが多い。 |
網羅性 | すべての契約条項をチェックし、全体を見ながら修正・調整をするため、全体的な違和感がない。 | 部分的な修正・調整にとどまることが多く、統一感のなく、違和感がある。 |
統一性 | 用語の使い方、送り仮名、漢字・平仮名、ですます調などを統一して使う。 | 送り仮名や漢字・平仮名が統一いないことや、ですます調ですら統一されていないこともある。 |
相手方(特に専門家)に伝わる印象 | 専門家が作成したことが伝わる。 | 少なくとも専門家が作成していないこと、契約実務に精通した法務部や社員がいないこと、顧問弁護士・法律事務所(およびこれらに依頼する資金的余裕)がないことが伝わる。 |
契約書の雛形の修正には法律用語を使う
慣例に従った法律用語・契約文章で修正・調整する
以上のように、文章の書き方ひとつとっても、プロと素人の間には大きな差があります。
このため、契約書を修正・調整する際には、ヘタに手を加えてしまうと、意外なリスクが伴うことがあります。
この点から、契約書の雛形を修正・調整する際には、本来は非常に慎重な対応が必要となります。
最低限、慣例に従った法律用語と契約文章を使って修正・調整するべきです。
不明確な用語は使わない・定義づける
また、定義が明確でない用語や、解釈が分かれそうな用語については、契約書では使うべきではありません。
例えば、一般的に契約書で使われそうな用語でも、実は定義が明確に決まっていないものもあります。
定義があいまいな用語
- 納入:何をもって納入といえるのかは明確ではない。
- 納期:納入期限か納入期日のどちらとも解釈できる。
- 検収:物品等の受領なのか、検査なのか、その両方なのか、検査完了を意味するのかが明らかではない。
- 営業日:会社によって定義が違う。
- 業務委託:法律的な定義はない。
こうした定義があいまいな用語は、契約書では、できるだけ使わないようにします。
このような用語をどうしても使う必要がある場合は、定義づける必要があります。
ポイント
- 契約書の雛形は、慣例に従った法律用語・契約文章を使って修正・調整する。
- 一見して定義があるような用語も、実は定義がはっきり決まっていないものも多い。このため、契約書では、不明確な用語は使わない、または定義づけて使う。
契約書の修正はコピペでは対応できない
契約条項のコピペは調整が前提
なお、契約書の雛形を修正する場合、いわゆる「コピペ」で済まそうとすることもあると思います。
何も、すべての契約条項をベタ打ちで作成するべきで、というわけではありません。
このため、調整することが前提であれば、契約条項をコピペするのは構いません。
ただ、契約条項を単に貼り付けるだけで、まったく調整しない修正では、その契約書が機能しなくなるリスクがあります。
契約条項は他の条項と連動することが多い
契約条項は、それ単体で独立して機能している場合もありますが、そうでない場合もあります。
つまり、前後の条項との関係があってはじめて機能する場合があります。
こうした条項は、機能する前提となる他の条項や、逆にその条項が影響を与える他の条項があるからこそ、意味がある場合が多いです。
にもかかわらず、他の契約書から部分的に切り取って、雛形に貼り付けただけでは、本来意図した機能が発揮されない可能性があります。
そもそもコピーした契約条項が正確とは限らない
また、そもそもの問題点として、コピーした契約条項が、正確に間違いなく規定されているとは限りません。
間違った契約条項をコピペした場合、当然ながら、間違った状態で契約書を修正することになります。
こうした間違いに気づいたうえで、後から修正・調整をする前提でコピペするのは構いません。
また、単にコピペしただけでは、その部分だけ、全体的な文体や表現との統一感がなくなり、「浮いて」しまいます。
これは、すでに述べたとおり、相手方の専門家に、修正した箇所を見抜かれるリスクとなります。
ポイント
- 契約条項のコピペは、修正・調整をして、契約書全体が齟齬を生じないようにするのが前提。単に貼り付けるだけでは、かえって契約書が機能しないリスクとなる。
- 契約条項は、単にその契約条項単体では機能しないことが多いため、それ単体で貼り付けても意味がないこともある。
- コピーした契約条項は、必ずしも正確な表現・内容であるとは限らない。
法律用語・契約文章の覚え方は?
法律用語・契約文章の習得には近道はない
それでは、実際に契約書の雛形を修正・調整するため法律用語・契約文章を覚えるにはどうしたらいいのでしょうか?
答えは、正しい法律用語・契約文章をひたすらインプットすることに尽きます。
残念ながら、こればかりは近道はありません。
では、具体的に法律用語・契約文章を覚える方法について、紹介します。
【方法1】専門書・実務書を読む
1つ目の方法は、契約実務の専門家が執筆した、契約書に関する専門書・実務書を読むことです。
最も古典的な方法ではありますが、効率よく、法律用語・契約文章について学ぶことができます。
注意する点としては、購入前に、必ず著者の経歴を確認し、ビジネスの現場で契約書の作成やリーガルチェックの経験がある著者の専門書・実務書を読むことです。
必ず著者の経歴を確認する
契約書の専門書・実務書とはいえ、必ずしも正確な法律用語・契約文章が書かれているとは限らない。このため、必ず、ビジネスの現場での実務経験がある著者の専門書・実務書を購入すること。
残念ながら、契約書に関する専門書・実務書でも、必ずしも法律用語や契約文章の書き方が正確とはいえない、という実態があります。
このため、いくら出版されている専門書・実務書とはいえ、鵜呑みにしないことが重要です。
【方法2】なるべく新しい法律を読む
2つ目の方法が、なるべく新しい時期に成立した法律を読むことです。
法律の表現と契約書の表現の慣習・ルールは、完全に一致するわけではありませんが、多くの部分が共通しています。
なお、法律とはいっても、古い法律は現代語化されていないことが多いため、現代の契約書の書き方の参考にはなりません。
このため、なるべく新しい法律を読むべきです。
古い法律の表現は参考にならない
古い法律は、文語体を使っている場合や、現代語化されていても現在の契約文章には馴染まないものが多いため、なるべく新しい法律を参考にする。
この際、たくさんの解説書や、役所の公式の解説があるような、メジャーな法律のほうが、参考になります。
こうした解説と突き合わせて法律を読むことにより、法律用語の使い方や契約文章の表現の技法を学ぶことができます。
【方法3】たくさんの契約書を読む・書く
3つ目の方法が、なるべくたくさんの契約書を読む・書くことです。
やはり最後にモノをいうのは、契約書の現物の読み書きの量です。
ただし、これは、ある程度知識をつけてから取り組むべき方法です。
というのも、実際の契約書の中には、明らかに間違った法律用語や契約文章の使い方・書き方のものも多いものです。
契約書には参考にならないものも多い
一般的に手に入る契約書には、間違った法律用語や契約文章の使い方・書き方をしているものが多いため、参考にならない。
こうした間違った契約書は、法律用語や契約文章の使い方・書き方参考になりません。
それどころか、間違った「お手本」を参考にしてしまうと、かえって間違った知識を習得してしまうことになります。
ポイント
- 法律用語・契約文章の習得は手間がかかるもの。近道はない。
- 専門書・実務書を読む場合は、必ず実務経験豊富な著者のものを選ぶ。
- 法律を読む場合は、なるべく現代語化している新しい法律の中でも、解説書が豊富なものを読む。
- 契約書を読む際は、あつ程度の知識をつけてからにする。
専門家への依頼が結果的に効率的
このように、契約書の雛形を修正・調整のしかたを習得するには、それなりに手間・時間・費用がかかります。
このため、専門家に依頼したほうが、結果的には効率的に契約書の雛形の修正・調整ができます。
質が高い雛形を用意できるのであれば、専門家に修正・調整を依頼したとしても、最初からすべて作るよりは、お得な場合もあります。
もっとも、これはあくまで修正・調整に値するレベルに達している雛形に限った話であり、修正・調整に値しない雛形であれば、作り直したほうが早い場合もあります。
ポイント
結局、専門家に頼んだほうが安上がり。