個人事業者・フリーランスが契約書の署名欄にサイン・署名・記名押印をする場合、屋号(会社名)なしでも契約は有効に成立しますか?
個人事業者・フリーランスが屋号(会社名)なしでサインをしたとしても、代表個人による契約書への署名または記名押印があれば、契約自体は有効に成立します。しかしながら、屋号(会社名)がない場合は、事業者ではなく消費者として契約を締結したとみなされる可能性があります。

屋号とは、個人事業者やフリーランスが使用する事業上の名称のことです。

【意味・定義】屋号とは?

屋号とは、一般に、個人事業者が使用する事業上の名称をいう。

屋号は、個人事業者が開業する際に、税務署に提出する開業届に記入します。

ただ、屋号は、商号とは異なり、法律上の制度はありません(屋号を商号として登記できる制度はあります)。

また、個人事業者やフリーランスが屋号を名乗ること自体は、法的な義務ではありません。

このため、税務署に開業届を提出する前の個人事業者には屋号がないことがありますし、それ自体は違法ではありません。

他方で、民事訴訟法第228条第4項により、契約書が有効となるには、署名または記名押印は必要とされていますが、屋号の記載は、契約の成立のためには必須ではありません。

民事訴訟法第228条(文書の成立)

(途中省略)

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

5(省略)

このため、個人事業主・フリーランスが契約書にサインする場合に、屋号なし・会社名なしだったとしても、契約そのものは有効に成立します。

しかしながら、少なくとも屋号がある場合は、個人事業者・フリーランスによる署名・記名押印には、必ず屋号を記載します。

というのも、屋号の記載は、一般消費者ではなく、「事業者として契約を締結した」証拠となるからです。

消費者として契約を締結したのか、事業者として契約を締結したのかは、次のとおり、適用される法律がまったく違ってきます。

消費者と個人事業者・フリーランスに適用される法律の違い
消費者個人事業者
売買契約等民法、消費者契約法、特定商取引法等民法、商法、(一部)特定商取引法等
業務委託契約等民法、(場合によって)労働基準法、労働契約法等民法、商法、フリーランス新法(保護法)、下請法、独占禁止法
建設工事請負契約等民法、消費者契約法、特定商取引法、(一部)建設業法民法、商法、建設業法、フリーランス新法(保護法)、(場合によって)下請け法

このため、同じ個人であっても、消費者ではなく「事業者」であることを明確にするためにも、屋号の記載は極めて重要となります。

特に、契約相手が個人事業者である場合、後から消費者である旨を主張されると、上記の各種法律によって、極めて強力に保護される可能性もあります。

このため、契約相手が個人事業者である場合は、必ず屋号を書いてもらうべきです。

具体的には、個人事業者やフリーランスが署名欄に署名または記名押印をする際には、次のとおり、住所、屋号、役職(代表)、個人名を記載します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】個人事業者と株式会社が取り交わす契約書の署名欄

2024年10月1日

東京都◯◯区◯◯町◯◯

佐藤商店こと佐藤一郎

代表 佐藤 一郎 

神奈川県◯◯市◯◯区◯◯町◯◯

鈴木工業株式会社

代表取締役 鈴木 太郎 

(※屋号・商号・人名は架空のものです)

なお、どうしても屋号がない個人事業者と契約を締結せざるを得ない場合、「事業者として契約を締結した」ことを明確にするために、契約書の前文、本文、後文等の箇所において、屋号がない契約当事者が「個人事業者であること」と「事業者として契約を締結したこと」をはっきりと明記しておきます。

まとめ
  • 屋号がない個人事業者であっても、代表個人の署名または記名押印があれば、契約は有効に成立する。
  • 屋号がない署名または記名押印は、事業者として契約したのか、消費者として契約をしたのかが分からなくなるリスクがある。
  • 事業者として契約したことを明確にするため、個人事業者には必ず屋号を記載してもらうべき。
  • 屋号がない個人事業者が契約当事者となる場合は、契約書において、個人業者である旨と事業者として契約した旨を明記する。