このページでは、契約実務の担当者向けに、「特別法優先の原則」についてわかりやすく解説しています。

特別法優先の原則とは、法律の原則のひとつであり、一般法と特別法が共通して適用される分野のなかでも、特定の事項については一般法よりも特別法が優先する、という原則です。

特別法優先の原則は、ある事項について一般法が適用されるのか、または特別法が適用されるのかに関わってくるため、極めて重要な原則であると言えます。

このページでは、こうした「特別法優先の原則」や、一般法と特別法の優先順位について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 特別法優先の原則の定義。
  • 一般法と特別法の優先順位。
  • 「特別法は一般法に優先する」「特別法は一般法を破る」の意味。
  • 一般法の定義。
  • 特別法の定義。
  • 一般法と特別法の具体例一覧。




特別法優先の原則とは?

特別法優先の原則=特定事項について一般法よりも特別法が優先される原則

特別法優先の原則とは、一般法と特別法が共通して適用される分野のなかでも、特定の事項について、一般法よりも特別法が優先して適用されることを意味します。

【意味・定義】特別法優先の原則とは?

特別法優先の原則とは、特定の事項について、特別法が一般法に優先して適用される原則をいう。

なお、あくまで「特定の事項」とあるとおり、すべての事項について、一般方よりも特別法が優先するわけではありません。

このため、実務上は、どういった事項について一般方が適用されるのか、特別法が適用されるのかを見分けることが重要となります。

特別法優先の原則の具体例は?

例えば、企業間取引の場合については、契約全般については民法(一般法)が適用されますが、一部の特定の事項については商法(特別法)が適用されます。

より具体的な例としては、契約の成立については、民法第522条が適用されます。

第522条(契約の成立と方式)

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

しかしながら、一部の取引きについては、商法第509条が適用されます。

商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)

1 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。

2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。

この商法第509条は、平常の取引き=いわゆる基本契約(取引基本契約)に適用される極めて重要な規定です。

「特別法は一般法に優先する」「特別法は一般法を破る」の意味は?

このような「特別法優先の原則」の性質から、一般法と特別法の優先順位について、「特別法は一般法に優先する」と表現することがあります。

また、同様に、「特別法は一般法を破る」と表現することもあります。

ただし、すでに述べたとおり、特別法は、一般法のあらゆる部分よりも優先するわけではありません。

あくまで特別法が一般法に優先するのは、特定の事項に限ります。

「特別法は一般法に優先する」理由は?

特別法が一般法に優先する理由は、一般法だけです全般的な事項と特定の分野にたけ適用される事項について規定してしまうと、条文の数が非常に多くなります。

このため、特定の分野にだけ適用される事項については特別法として規定することで、法律や条文として整理されることとなるからです。

こうした特別法と一般法の優先順位を明確にして別々の法律にすることで、法律実務において効率的に運用できるようになります。

また、法律を所管する官庁としても、役割分担が明確になります。

ポイント
  • 特定の条件のもとでは特別法が優先して適用される。





一般法と特別法は相対的な関係

なお、一般法と特別法の関係は、絶対的なものではなく、相対的なものです。

つまり、ある法律が絶対的に一般法であるとか、特別法であるとかいうように決まっているものではありません。

このため、法律Aと法律Bの関係が一般法(法律A)と特別法(法律B)の関係であっても、法律Bと法律Cの関係が一般法(法律B)と特別法(法律C)であることがあります。

一般法と特別法の相対性の具体例

同じ独占禁止法でも、関係性によっては、一般法になり、特別法にもなる。

  • 独占禁止法の一部の規定は、民法の特別法。この関係では独占禁止法が特別法であり、民法は一般法。
  • 下請法の一部の規定は、独占禁止法の特別法。この関係では独占禁止法は一般法であり、下請法は特別法。

なお、法律間の優劣については、明文で規定されていないこともありますので、常に気をつけなければなりません。

ポイント
  • 一般法と特別法は相対的なものであり、それぞれの関係性によって、ある法律が、一般法となることもあれば、特別法になることもある。





一般法とは?

一般法とは、ある事項全般について一般的に適用される法律のことです。

【意味・定義】一般法とは?

一般法とは、ある事項全般について、一般的に適用される法律をいう。

例えば、私人間の民事上の事項全般については、民法が一般法として適用されます。

これが、民法が「私法の一般法」といわれる理由です。

一般法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

一般法とは?具体例・一覧・特別法との関係や優先順位について解説





特別法とは?

特別法とは、ある特定の事項について、一般法よりも優先して適用される法律のことです。

【意味・定義】特別法とは?

特別法とは、ある特定の事項について、一般法よりも優先して適用される法律をいう。

例えば、商人による取引については、民法の特別法として、商法が優先して適用されます(商法第1条)。

商法第1条(趣旨等)

1 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。

2 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治29年法律第89号)の定めるところによる。

特別法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

特別法とは?具体例・一覧・一般法との関係や優先順位について解説





一般法・特別法の具体例・一覧

一般法・特別法の具体例としては、以下のものがあります。

一般法・特別法の具体例一覧
  • 民法(一般法)<商法(商人の取引に適用される特別法)
  • 民法(一般法)<労働基準法や労働契約法(事業者と労働者の雇用契約・労働契約に適用される特別法)
  • 民法(一般法)<借地借家法(土地・建物の賃貸借契約に適用される特別法)
  • 民法(一般法)<独占禁止法(主に企業間取引に適用される特別法)
  • 民法(一般法)<建設業法(建設工事請負契約に適用される特別法)
  • 民法(一般法)<労働者派遣法(労働者派遣契約に適用される特別法)
  • 独占禁止法(一般法)<下請法(企業間取引のうち、資本金に差がある事業者による一部の取引に適用される特別法)
  • 独占禁止法(一般法)<フリーランス保護法(企業間取引のうち、受託者がフリーランスの場合に適用される特別法)

また、契約実務においては、特に次の(民法の)特別法が重要です。

契約実務で重要となる特別法の具体例一覧
  • 商法
  • 会社法
  • 建設業法
  • 労働者派遣法
  • 労働基準法・労働契約法
  • 独占禁止法
  • 下請法
  • フリーランス保護法
  • 借地借家法
  • 消費者契約法
  • 特定商取引法
  • 金融商品取引法
  • 利息制限法
  • 貸金業法





特別法優先の原則に関連するQ&A

特別法と一般法ではどちらが優先されますか?
特別法と一般法では、特別法に規定がある事項については特別法が優先され、それ以外は一般方が適用されます。
「特別法は一般法を破る」とはどういう意味ですか?
「特別法は一般法を破る」とは、特別法優先の原則を言い換えた表現で、特定の事項については、一般法よりも特別法が優先的に適用される、という意味です。