契約書と注文書はどう使い分ければよいですか?
契約書は、主にそれぞれが原本を1部づつ保有する場合に使用します。これに対し、注文書は、注文請書とセットで使うことで、注文書は受注者が保有し、注文請書は発注者が保有する場合に使用します。
このため、契約書と注文書の使い分けとしては、契約書は重要な取引き、注文書は日常的な取引きに使われることが多いです。ただし、印紙税・収入印紙については、契約書は、注文書・注文請書に比べて、2倍発生します。

このページでは、主に事業上の契約当事者の双方向けに、契約書と注文書・注文請書の使い分けについて解説しています。

事業上の契約では、契約の締結の際に、契約書または注文書・注文請書のいずれかを使うことが多いです。

この契約書と注文書・注文請書ですが、一般的には、契約書は重要な取引きで使われることが多く、注文書・注文請書は日常的な取引きに使われることが多いです。

このページでは、こうした契約書と注文書・注文請書の使い分けについて、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 契約書と注文書の使い分け方。
  • 契約書と注文書の違い。
  • 契約書と注文書・注文請書の印紙税・収入印紙の違い。




契約書と注文書は取引きの重要度に応じて使う

契約書・注文書の使い方にはルールはない

契約書や注文書の使い方には、特に法的な決まりやルールはありません(法律に特別な規定がある場合は別です)。

というよりも、いわゆる「契約自由の原則」により、契約書や注文書を使うかどうかを含めて、契約当事者が自由に決められます。

【意味・定義】契約自由の原則とは?

契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則をいう。

【改正民法対応】契約自由の原則とは?4つの分類と例外をわかりやすく解説

このため、契約を締結する際には、契約書や注文書は、どちらを使っても構いません。

契約書=重要な取引き・注文書=日常的な取引きに使う

ただ、一般的な企業間取引や企業法務の実務では、契約書は重要な取引きに使われ、注文書は日常的な取引きに使われることが多いです。

これは、通常、契約書は当事者の数(通常は2者分=2部)だけ作成され、当事者それぞれに原本と証拠が残るからです。

これに対し、注文書は、契約書よりも手続きが簡単ではあるものの、発注者の手元には原本が残らないため、発注の記録が残りません。

このため、注文書・注文請書は、どちらかといえば、比較的重要度が低い日常的な取引きに使われることが多いです。

ただし、発注者の手元には、通常は注文請書、注文書のコピーや複写式の控えなどが残るため、まったく証拠や記録が残らないわけではりません。

注文書と契約書の違い(証拠の場合)
注文書契約書
契約の成立注文書は発注者の手元に残らないため、発注者にとっては証拠にならないが、受注者にとっては証拠になる。
発注者にとっては、注文請書が証拠になる。
契約書は原本が証拠になるため、2部作成して注文者・受注者が相互に保存した場合は、注文者・受注者の双方にとって証拠になる。

注文書・注文請書は原則として基本契約書とセットで使う

なお、注文書・注文請書は、単体で使うこともできますが、基本的には、基本契約書とセットで使います。

【意味・定義】基本契約・取引基本契約とは?

基本契約・取引基本契約とは、継続的取引の基本となる契約であって、個々の個別契約に共通して適用される契約条項が規定されたものをいう。

基本契約・取引基本契約とは?

注文書・注文請書は、通常は1枚程度で作成されますので、両面に契約条項を印刷したとしても、極めて少ない契約条項しか規定できません。

これでは、事業上の取引きの契約の内容としては、不十分になってしまいます。

このため、注文書・注文請書の契約(=個別契約)では、あくまで個々の取引き特有の契約内容(商品や役務の内容、納期、料金、支払期限)だけを規定し、他の共通の契約内容については、基本契約で規定します。

【意味・定義】個別契約とは?

個別契約とは、基本契約を締結したうえで締結される、個々の取引に関する個別の契約のことをいう。主に、個々の取引きの契約成立日、商品や役務の内容、納期、料金、支払期限について規定する。

なお、個別契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

個別契約とは?基本契約との違いや個別契約書の使い方について解説





契約書とは?

契約書とは、契約の成立の証拠となる書面のことです。

【意味・定義】契約書とは?

契約書とは、契約の成立を証する書面であって、契約内容が記載されたものをいう。

このため、広い意味では、注文書も契約書の一種と言えないわけではありません。

ただし、通常は、注文書だけでは契約は成立しません(後述)。

このため、一般的には、契約書と注文書は、別々の意味で使います。





注文書とは?

注文書=契約の申込みを証する書面

注文書とは、契約の申込みを証する書面のことです。

発注書も、ほぼ同一の意味となります。

【意味・定義】注文書・発注書とは?

注文書・発注書とは、契約の申込みを証する書面をいう。

注文書は、あくまで発注者が受注者に対し、一方的に契約の申込みだけをするための書面です。

このため、注文書単体では、原則として契約は成立しません。

注文書=申込みに対する承諾を証する書面=契約の成立を証する書面

契約の申込みがあった場合、承諾があってはじめて契約が成立します。

第522条(契約の成立と方式)

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

このため、通常は、申込みに対する承諾を証する書面である注文請書(受注書・発注請書)が受注者から交付されることにより、契約が成立します。

【意味・定義】受注書・注文請書・発注請書とは?

受注書・注文請書・発注請書とは、契約の申込み=発注・注文に対する受注・請負を証するための書面をいう。

なお、すでに述べたとおり、注文書は基本契約とセットで使われます。

この場合は、注文書は、発注者からの個別契約の申込みのために使われます。





補足:個別契約書とは?

ちなみに、個別契約の成立を単独で証する書面として、個別契約書があります。

個別契約書は、文字どおり個別契約の契約書であり、単体で個別契約の成立の証拠となる書面です。

【意味・定義】個別契約書とは?

個別契約書とは、個別契約の成立を証する書面であって、個別契約の内容が記載されたものをいう。

このため、注文書と個別契約書の違いは、注文書は、それ単体では個別契約の申込みの証拠にしかならず、個別契約の成立の証拠とはならないのに対し、個別契約書は、それ単体で個別契約の成立の証拠になります。

注文書と個別契約書の違い(契約の成立の場合)
注文書個別契約書
契約の成立原則として、単体では個別契約は成立しない。
注文請書による承諾があることで個別契約が成立する。
単体で個別契約が成立する。





契約書と注文書の違いは?

契約書と注文書は、ともに契約当事者の意思表示の証拠となる書面です。

注文書は、すでに述べたとおり、注文者から受注者に対する契約の申込みの証拠となる書面です。

このため、注文書単体では、原則として契約は成立しません。

この場合、すでに述べたとおり、通常は、注文請書(受注書・発注請書)が受注者から交付されることにより、契約が成立します。

これに対し、契約書は、すべての当事者(通常は2者)による、相互の契約の締結の証拠となる書面です。

このため、契約書単体で、契約は成立します。

注文書と契約書の違い(契約の成立の場合)
注文書契約書
契約の成立原則として、単体では契約は成立しない。
注文請書による承諾があることで契約が成立する。
単体で契約が成立する。

なお、商法第509条による場合や、基本契約において個別契約の成立について特殊な契約条項を規定している場合は、注文書単体で契約が成立する場合もあります。

商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)

1 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。

2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。

このほか、注文書・発注書と注文請書・受注書の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

注文書・発注書や注文請書・受注書は契約書?その違いは?





印紙税・収入印紙を節税したい場合は注文書または電子契約サービスを使う

注文書には印紙税は発生しないが注文請書には印紙税が発生する

注文書は原則として課税文書に該当しない

すでに触れたとおり、注文書は、単に契約の申込みの書面でしかありません。

このため、実は、注文書は課税文書ではなく、原則として収入印紙を貼る必要がありません。

[平成29年4月1日現在法令等]

 契約とは、申込みとその申込みに対する承諾によって成立するものですから、契約の申込み事実を証明する目的で作成される単なる申込書、注文書、依頼書等(以下「申込書等」という。)は、通常、課税対象にはなりません。(以下省略)

注文請書は課税文書に該当する

これに対し、注文請書は、申込みに対する承諾によって契約の成立を証する書面であるため、印紙税法上は契約書と同じく、課税文書となります。

…契約書とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含みます。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」といいます。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することになっているものも含まれます。

なお、印紙税法では、印紙税の納税義務者は、課税文書の「作成者」となっています。

印紙税法第3条(納税義務者)

1 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

2 1の課税文書を2以上の者が共同して作成した場合には、当該2以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。

このため、注文請書は、受注者が収入印紙を貼って印紙税を納税しなければなりません。

完全自動成立の注文書は課税文書

もっとも、注文書を送付しただけで自動的に契約が成立する手続きとした場合、その注文書は、課税文書となります。

[平成29年4月1日現在法令等]

(途中省略)次に掲げるものは、一般的に契約書に該当するものとして取り扱われています。

(1)契約当事者の間の基本契約書、規約又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものは除かれます。

(2)(以下省略)

このため、注文書の送付により完全に自動的に契約が成立する手続きでは、印紙税の節約のメリットはありません。

個別契約書には両方の原本に印紙税が発生し収入印紙を貼る必要がある

なお、個別契約書は、一般的な契約書と同様で、原本の数だけ印紙税が発生し、収入印紙が必要となります(ただし、1号文書や2号文書などの課税文書である場合に限ります)。

このため、注文者・受注者の2者間の個別契約であれば、それぞれ保管する原本の双方=2部に印紙税が発生し、収入印紙が必要となります。

つまり、注文書・注文請書を使う場合に比べて、原本を2部作成する個別契約書の場合は、2倍の印紙税が発生し、2倍分の収入印紙が必要となります。

注文書・注文請書と個別契約書の印紙税法における違い
注文書・注文請書個別契約書
印紙税・収入印紙の発生・金額原則として、注文書には印紙税が発生せず、収入印紙は不要。
注文請書には印紙税が発生し、収入印紙が必要。
原則として、個別契約書には印紙税が発生し、収入印紙が必要(課税文書の場合)。
個別契約書の原本が2部作成された場合は、注文請書の2倍の印紙税が発生し、収入印紙が必要。

このため、紙の注文書・注文請書や個別契約書を作成する場合は、注文書・注文請書のほうが、発注者は印紙税・収入印紙の負担がありません。

電子契約の場合は収入印紙は不要

なお、電子契約で契約を締結する場合は、契約書は紙ではなく電磁的データであるため、そもそも課税文書に該当しません。

このため、電子契約サービスを使用して契約を締結する場合は、契約書の形式でも、注文書・注文請書の形式でも、印紙税は発生せず、収入印紙は不要となります。

この場合、契約書を使う場合であっても、注文書・注文請書を使うであっても、契約当事者は、電子契約のサービスにおいて契約の申込みと承諾をおこなうこととなります。

また、証拠についても、一般的な電子契約サービスでは、注文者・受注者の双方が注文書・注文請書のいずれをも閲覧できます。

このため、電子契約サービスでは、契約書、注文書・注文請書のどちらを使っても構いません。





契約書と注文書の使い分けに関するよくある質問

注文書は契約書の代わりになる?
注文書は、単体では契約の申込みの証拠に過ぎませんので、単体で契約の成立の証拠となる契約書の代わりになりません。
注文請書は契約書ですか?
注文請書は、単体では契約の申込みに対する承諾の証拠に過ぎませんので、厳密には契約書ではありませんが、契約の成立の証拠となりますので、契約書と同様の証拠能力があります。
注文請書は法的効力がありますか?
注文請書は契約の成立の証拠となりますので、契約書と同様の法的効力・法的拘束力があります。