こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

本日付の日経新聞の報道によると、消費者庁が、いわゆる「アフィリエイトプログラム」による広告について、広告主への責任の追求を問い始めた、という報道がありました。

アフィリエイト、広告主の責任重く 消費者庁が追及

このページでは、この報道における景品表示法の適用について解説と、アフィリエイター・広告主への影響について、検証してみたいと思います。




アフィリエイター・広告主への影響は?

一般的なアフィリエイターへの影響はない

先に結論を申し上げますと、まず、ASPとだけやり取りをしている、一般的なアフィリエイターには、短期的には影響はありません。

他方、いわゆる特単の交渉をした場合や、ASP・広告代理店・広告主から直接指名があってサイトを作成した場合のように、何らかの形で広告主と接点があるアフィリエイターには、広告主との関係で影響が出る可能性があります。

なお、これはあくまで景品表示法の適用に関して検討した場合の話です。

他の広告規制、例えば健康増進法、医薬品医療機器等法(薬機法)、医療法のように、規制対象を「何人も」としている法律による規制とは別の話です。

一般的な広告主への影響は短期的にはない

また、広告代理店やASPとだけやり取りをしている、一般的な広告主にも、短期的には大きな影響はないでしょう。

他方、アフィリエイターに対して、積極的に指示を出している広告主には、直ちに影響が出る可能性があります。

こうした報道が出るということは、すでに消費者庁による活動や内偵が進んでいる可能性も視野に入れるべきでしょう。

このため、アフィリエイターに対し、サイト運営や広告の表示について指示を出した広告主は、すぐにでも景品表示法上の問題がないかどうか、検証し、対策するべきです。

ポイント
  • ASPとだけやり取りをしている、一般的なアフィリエイターには、短期的には影響はない。
  • 何らかの形で広告主と接点があるアフィリエイターには、広告主との関係で影響が出る可能性がある。
  • 広告代理店やASPとだけやり取りをしている、一般的な広告主には、短期的には大きな影響はない。
  • アフィリエイターに対して、積極的に指示を出している広告主には、直ちに影響が出る可能性がある。
  • これらは、あくまで景品表示法における話であり、別の広告規制、特に「何人も」規制対象にしている健康増進法、医薬品医療機器等法(薬機法)、医療法等の法律は、別の話。





消費者庁による排除命令の概要

広告主による積極的な関与があったかどうかがポイント

本件の報道の発端になった排除命令は、次のものです。

株式会社ブレインハーツに対する景品表示法に基づく措置命令及び課徴金納付命令について

この排除命令のポイントは、次の部分です。

ブレインハーツは、自社ウェブサイトにおいて対象表示を行っていたほか、本件商品①、本件商品③、本件商品④及び本件商品⑤については、広告代理店を通じて、アフィリエイトサイト(ブログ、口コミサイト等のウェブサイトの運営者が広告主からの依頼により当該広告主が供給する商品又は役務の紹介、バナー広告等を当該ウェブサイトに掲載し、当該ウェブサイトを通じて広告主の商品又は役務の購入等があった場合に、当該ウェブサイトの運営者に対し、広告主から成功報酬が支払われる仕組みを有するウェブサイトをいう。)の運営者に対し、これらの商品に係る自社ウェブサイトを提示するなどして、当該自社ウェブサイトの記載内容を踏まえたこれらの商品に係る口コミ、ブログ記事等を作成させ、当該自社ウェブサイトへのハイパーリンクと共に当該アフィリエイトサイトに掲載させていた。

広告主による積極的な関与が「初の排除命令」につながった?

つまり、この案件では、広告主が、アフィリエイターのサイト運営に積極的に関与し、サイトを作成させ、広告を掲載させていたわけです。

大多数のアフィリエイターのサイト運営には、広告主が積極的に関与することは、まずありません。

例外的に、多数の報酬の発生がある一部のアフィリエイターに対しては、”適法な”表示のための広告の修正要求などの「消極的な関与」はあります。

逆にいえば、広告主が積極的に”違法な”サイト運営に関与するような、例外中の例外の案件だったからこそ、「初の排除命令」に至ったものと思われます。





景品表示法によるアフィリエイトの規制の概要

アフィリエイトとは?

このページをご覧になっているほとんどの方(特にアフィリエイターの方々)は、アフィリエイトについてはすでにご存知と思われます。

ただ、広告主の方や、これからアフィリエイトによる集客を検討されている企業担当者の方のために、アフィリエイトの定義について確認しておきます。

アフィリエイトプログラムとは、インターネットを用いた広告手法の一つである(以下、広告される商品・サービスを供給する事業者を「広告主」と、広告を掲載するウェブサイトを「アフィリエイトサイト」と、アフィリエイトサイトを運営する者を「アフィリエイター」という。)。アフィリエイトプログラムのビジネスモデルは、ブログその他のウェブサイトの運営者が当該サイトに当該運営者以外の者が供給する商品・サービスのバナー広告等を掲載し、当該サイトを閲覧した者がバナー広告等をクリックしたり、バナー広告等を通じて広告主のサイトにアクセスして広告主の商品・サービスを購入したり、購入の申し込みを行ったりした場合など、あらかじめ定められた条件に従って、アフィリエイターに対して、広告主から成功報酬が支払われるものである。アフィリエイトプログラムで用いられる広告は「成功報酬型広告」と呼ばれる。

非常に冗長ではありますが、消費者庁による定義ですので、念のため引用しました。

ざっくりと表現すれば、インターネット上の代理店がアフィリエイターであり、成果報酬のアフィリエイターからの取次ぎにより、商品・サービスを販売するビジネスモデルが、アフィリエイトプログラムです。

アフィリエイターは景品表示法の表示規制の対象外

実は、アフィリエイターのサイトにおける表示は、景品表示法によって、直接規制されるものではありません。

というのも、景品表示法で不当な表示を禁止している第5条では、あくまで、事業者による「自己の供給する商品又は役務の取引」だけを規制しています。

景品表示法第5条(不当な表示の禁止)

事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

(以下省略)

アフィリエイターは、商品や役務(サービス)を、直接エンドユーザーに供給するものではありません。このため、アフィリエイターは、景品表示法の表示規制の対象外です。

この点については、次のとおり、景品表示法のガイドラインについても確認されています。

(2) 景品表示法上の問題点

アフィリエイターがアフィリエイトサイトに掲載する、広告主のバナー広告における表示に関しては、バナー広告に記載された商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。
広告主のサイトへのリンク(バナー広告等)をクリックさせるために行われる、アフィリエイターによるアフィリエイトサイト上の表示に関しては、アフィリエイターはアフィリエイトプログラムの対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、景品表示法で定義される「表示」には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない。

広告主=事業者は当然に景品表示法の規制対象

エンドユーザーに商品・サービスを供給する広告主は規制対象

また、一般的な広告主は、商品や役務(サービス)をエンドユーザーに直接供給する立場にあることから、景品表示法における「事業者」に該当します。

このため、広告主は、当然、景品表示法の表示規制の対象となります。

もっとも、いわゆる「比較サイト」や「一括見積り」の広告主の場合、必ずしもエンドユーザーに対して、直接、商品や役務(サービス)を提供しているとはいえない場合もあります。

この場合、広告主は、景品表示法の「事業者」に該当しない場合もあると思われます。

アフィリエイトのサイトが事業者による「表示」に該当するリスク

ただ、アフィリエイターによるサイト運営が、景品表示法第5条の規制対象となっている、事業者による「表示」といえるかどうかが問題となります。

この点については、すでに触れたとおり、今回の排除命令を受けた広告主が、アフィリエイターのサイト運営に対し積極的に関与した点が、一種の事業者による「表示」とみなされた原因であると思われます。

このため、今後は、広告主として、アフィリエイトによる集客の検討や実施をする際、アフィリエイターに対する関与のあり方として、広告規制を遵守する・遵守させる体制・方法が非常に重要となります。

ドロップシッパーは景品表示法の表示規制の対象

なお、余談ですが、ドロップシッパーについては、(特に)商品や役務(サービス)を、直接エンドユーザーに供給するものです。このため、ドロップシッパーは、景品表示法の表示規制の対象です。

この点については、次のとおり、景品表示法のガイドラインについても確認されています。

(2) 景品表示法上の問題点

ドロップシッパーは、仮に個人であったとしても、景品表示法に定める事業者に当たると考えられる。このことから、ドロップシッピングショップで販売される商品に係る表示により、当該商品の内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される場合には、景品表示法上の不当表示として問題となり、ドロップシッパーは事業者として責任を負うことになる。





今後の消費者庁による規制の影響について

アフィリエイターへの影響は?

アフィリエイターへの影響は短期的には少ない

今回の排除命令において、アフィリエイターに対し、何らかの処分があったのかは、必ずしも明らかではありません。

ただ、すでに触れたとおり、景品表示法では、アフィリエイターは規制対象外ですので、おそらく、何も処分はなかったものと思われます。

日経新聞の報道でも、「アフィリエイトについて広告主の責任を積極的に追及していくメッセージと受け取ってもらって構わない」という発言(大元慎二消費者庁表示対策課長)がありましたが、アフィリエイターについての言及はありません。

これは、裏を返せば、現行の景品表示法では、いかにアフィリエイターを直接規制することが困難であるか、という点の表れといえます。

このため、単にASPとだけやり取りをしている、一般的なアフィリエイターには、今回の排除命令は、(少なくとも短期的には)ほとんど影響はないものと思われます。

広告主と接点があるアフィリエイターは突如収益が激減することも

ただし、今回の排除命令の案件のように、広告主から何らかの形で、関与を受けているアフィリエイターは、要注意です。

こうした案件では、景品表示法をはじめとした、各種広告規制を遵守しないと、ある日突然、広告主が行政処分を受けてしまう可能性があります。

こうした行政処分があった場合、アフィリエイターの側が勝手に広告規制に違反する表示をしたときは、広告主の側から、成果報酬を支払われないばかりか、場合によっては損害賠償請求をされる可能性があります。

また、仮に広告主の側から積極的な指示等があったうえで、広告規制に違反した表示をした場合であっても、そもそもその指示自体が違法であることから、公序良俗(民法第90条)違反となります。

こうなると、広告主との契約自体が無効となり、成果報酬の支払いを請求できなくなります。

長期的にはアフィリエイターにも影響が出る可能性もある

現在のように、アフィリエイターによる表示が規制対象外(あくまで景品表示法によるもの)となっている状態が、消費者にとって好ましいとはいえません。

このため、今後は、広告主やASPから、サイトの表示について、より厳しい要求がなされる可能性があります。

また、不適切な表示をしている場合は、ASPの利用規約により、成果が承認されなかったり、承認後に取り消されたり、支払いが止められる可能性もあります。

それでも状態の改善が見込めない場合は、景品表示法の改正がなされ、アフィリエイトによるサイトの表示も、表示規制の対象となる可能性があります。

実際に、医療関係の広告については、同様の流れで、(消費者庁の管轄ではなく厚生労働省の管轄ですが)医療法の改正につながった経緯があります。

広告主への影響は?

ASP・広告代理店へ丸投げしている場合は影響は少ない

すでに触れたとおり、今回の排除命令は、あくまで、広告主がアフィリエイターのサイト運営に積極的に関与している案件です。

こうした積極的な関与があった点が、景品表示法における「表示」の規制に抵触した理由であると思われます。

このため、アフィリエイトの広告について、ASPや広告代理店に丸投げしている広告主には、今回の排除命令は、直ちに影響があるとは思えません。

もっとも、広告について、ASPや広告代理店に丸投げするのは、コンプライアンスの観点はもとより、効果的な広告の運用という点でも、好ましいとは思われません。

アフィリエイターのサイト運営に関与している場合は直ちに対処するべき

他方、アフィリエイトの広告について、ASPや広告代理店のみならず、アフィリエイターのサイト運営にまで積極的に関与している広告主は、直ちに対処するべきです。

具体的には、運営に関与しているサイトについて、景品表示法のみならず、消費者契約法、特定商取引法、商標法、不正競争防止法、健康増進法、薬機法、医療法など(これらに限りません)、あらゆる広告規制に抵触していないかどうか、確認するべきです。

そのうえで、サイトの表示について、なんらかの広告規制への抵触が発覚した場合は、表示の修正や、場合によっては広告の不掲載、提携の見直しなども視野に入れて、検討するべきです。

今回のような報道があるということは、消費者庁としては、規制を強化できるだけの体制を構築し、場合によっては、すでに内偵を進めている可能性もあります。このため、直ちに動き始めるべきです。

アフィリエイターのサイト運営の関与のしかたは?

関与・指示は記録が残る方法(電子メール・契約書等)でする

また、今後、アフィリエイターのサイト運営に積極的に関与する場合は、より慎重な対策が求められます。言うまでもなく、広告規制を遵守するような形で、関与するべきです。

また、関与のしかたとしても、口頭の打合せや指示は、記録に残りません。

このため、仮に関与や指示自体が適法であったとしても、証拠が残っていなければ、アフィリエイターが勝手に違法な表示をした場合は、広告主の側に何らかの責任が発生する可能性があります。

そこで、関与や指示は、最低限、記録が残る電子メールや、編集ができないまたは編集履歴が残るチャットツールなどを使い、場合によっては、契約書などの書面を取り交わすべきです。

こうした記録や契約書があれば、万が一、アフィリエイターが成果目当てに勝手に違法な表示をしたとしても、消費者庁などの役所に対し、広告主が違法な表示を主導していない証拠の一部となります。





判例(東京高裁判決平成20年5月23日)について

なお、日経新聞の報道において、「08年に東京高裁が出した景表法を巡る判決」とありますが、これは、おそらく次の判例と思われます。

東京高裁判決平成20年5月23日

私見ですが、この判決をアフィリエイトについて適用するのは、無理があると思われます。

確かに、この判例は、景品表示法における「事業者」や「表示」を巡る判決です。

ただ、実店舗における衣料の原産国の表示とインターネット上でのアフィリエイトの表示は、同一視できるほど、性質が似ているとは思われません。





大元慎二(消費者庁表示対策課長)氏について

余談ですが、日経新聞の報道に登場した、消費者庁表示対策課長の大元慎二氏は、景品表示法に関する書籍を出版しています。

法律実務において、規制当局またはその担当者が出版する書籍は、規制当局や担当者の考え方を理解する上で、もっとも重要な手がかりとなります。

このため、こうした規制当局やその担当者が出版する書籍は、実務に関わる者であれば、「オススメ」ではなく「必携」の書籍といえます。

本書についても、アフィリエイターの方はともかく、広告主の担当者の方は、まだお持ちでない場合は、ぜひ本書をご一読ください。

なお、法律実務の書籍は、購読者が限られていることから、困ったことに「重版されにくい」という特徴があります。

このため、「後で買おう」と思っていた書籍が、気がついたら絶版になっている、ということがよくありますので、ご注意ください。





まとめ

日経新聞の見出しを見て、管理人は、「ついにアフィリエイターに景品表示法が適用されたか!?」と驚きましたが、実際は、広告主への規制を強化するようです。

この記事を執筆するにあたって、調べれば調べるほど、現行の景品表示法では、アフィリエイターの表示の直接規制が非常に難しいことが、よくわかりました。

ただ、記事中でも触れていますが、アフィリエイターの表示の規制が難しいのは、あくまで景品表示法による場合です。

他の法律による広告規制では、アフィリエイターは、直接の規制対象になり得ます。

最近では、医療法の改正によって、アフィリエイトによる広告も規制対象であることが明確化された点は、記憶に新しいかと思われます(『医療広告ガイドライン』p.4)。

何より、消費者にとって不利益が多いアフィリエイトのサイトが存続するようであれば、いわゆる「健康アップデート」のときのように、Googleの検索アルゴリズムにも影響を与えかねません。

アフィリエイター・広告主とも、こうしたリスクも考慮のうえ、サイト運営や広告の表示について、再度検討していただければ幸いです。