こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、いわゆる「売上金の失効」が問題となっているメルカリの一連の騒動について、メルカリの利用規約の内容をもとに、違法か適法かを分析し、わかりやすく解説をおこなっています。

参照1:メルカリで「売上金が失効するかも」と不安の声 運営元は対応方針明かさず
参照2:メルカリ、失効した売上金は「本人確認後に補填する」 対応方針明らかに

なお、メルカリの利用規約につきましては、次のページで全文を解説していますので、併せてご参照ください。

注意

  • ※1 本件につきまして、個別の相談等は承っておりませんので、あらかじめご承知おきください。ただし、ページの記載内容に関するご質問につきましては、お問合わせフォームからお寄せください。
  • ※2 本ページの内容は、あくまで弊所の私見を記載したものであり、正確性を保証するものではありません(参照:免責事項)。
  • ※3 このページを引用する場合は、著作権法その他の法令を遵守のうえ、適法におこなってください(参照:著作権等の知的財産権について)。
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騒動の概要―出品者の「売上金の失効」が発生

メルカリのビジネスモデル(利用規約)の概略


(※画像をクリックすると大きな図が閲覧できます)

出品者の売上金が「失効」する

メルカリのサービスの説明については、いまさら不要かと思われますが、いわゆる「フリマアプリ」であり、CtoC(=消費者間)の売買契約のプラットフォームサービスです。

今回騒動になっているのは、出品者が商品を売却して得た売上が、メルカリから引き出すことができずに「失効」してしまう現象が発生している、という点です。

「売上金の失効」の原因

  • 出品者は、取引完了時、180日以内に「引出申請」をしなければならない。
  • 「引出申請」の際、メルカリは出品者の本人確認をすることがある。
  • 本人確認が終了するまでの間、メルカリは、「引出し」を留保することができる。
  • 取引完了時から180日経過するまでの間に本人確認が終了しない場合、売上金が”失効”する。

(※ただし、この処理自体、利用規約、民法、消費者契約法に違反する可能性があります。後述)

こうした騒動について、メルカリのユーザー(特に出品者)からは、SNS等で不満や不安が投稿されています。

そこで、このページでは、メルカリによる「売上金の失効」について、果たして適法なことなのか、それとも違法なことなのか、利用規約にもとづいて検証してたいと思います。

【結論】売上金の失効は違法・無効の可能性が高い

「売上金の失効」が違法・無効である3つの理由

結論をいいますと、メルカリによる「売上金の失効」は、消費者契約法や民法に違反し、無効となる可能性が高いといえまます。

その理由は、様々ありますが、以下の3つに集約されます。

売上金の失効が違法・無効である3つの根拠

  • 【理由1】「売上金の失効」に関する利用規約の条項は、消費者契約法違反で無効となるから。
  • 【理由2】利用規約では、メルカリは、出品者に対し、売上金を支払う義務があるから。
  • 【理由3】売上金はメルカリが所有するものではなく、購入者から「代理受領」するものだから。

それぞれ、簡単に解説してきます。

【理由1】「売上金の失効」は消費者契約法第10条違反で無効

消費者の権利は消費者契約法により強力に保護される

「売上金の失効」が違法・無効である理由の1つ目は、そもそも「売上金の失効」という現象自体が、消費者契約法第10条に違反し、無効となるからです。

消費者契約法第10条は、次のとおり、「消費者の利益を一方的に害する条項」を無効にする条文です。

消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

非常に難しい表現ですが、この騒動では最も重要な法律の条文ですので、あえて掲載しました。

消費者契約法第10条は、わかりやすくいえば、「法律の規定よりも、消費者の権利を制限する条項や、消費者に義務を加える条項は無効とする」法律です。

なお、消費者契約法は、あくまでBtoCの契約にだけ適用されるものですので、出品者=ユーザーが事業者の場合は、消費者契約法は適用されません。

「売上金の失効」の根拠となる利用規約の規定は?

「売上金の失効」は、正確には、出品者によるメルカリに対する商品代金の支払請求権の放棄(利用規約第13条第2項第1号)のことと思われます。

該当する利用規約の箇所は、次の部分です。

第13条 利用料等及び売上申請

2.引出申請

(1)出品者は、出品した商品の売買契約が成立し、当該売買契約に関する支払及び商品の発送ならびに出品者及び購入者による相互の評価が行われ取引が完了した場合、当該取引完了時から180日以内に当該商品の商品代金の引出申請を行うものとします。なお、商品代金の引出申請に当たっては、弊社所定の本人確認を求めることがあり、確認が終了するまでは、引出しを留保させていただくことがあります。弊社が商品代金の引出申請を求めたにもかかわらず、出品者が当該取引完了時から180日を経過しても、当該商品の商品代金の引出申請を行わなかった場合には、弊社は、速やかに、当該出品者が登録した金融機関の口座に、当該商品代金を含むその時点でユーザーが保有する売上金の全額を振り込む方法により支払います(ガイドに定める振込手数料が差し引かれます)。なお、本項に基づき、弊社が振込手続を行ったにもかかわらず、弊社の責めに帰すべき事由なく振り込みが正常に完了しない場合には、弊社は、当該出品者が、当該商品代金相当額の支払請求権を放棄したとみなすことができるものとします。

こちらも非常にわかりづらい内容ですが、ポイントは、次の4つです。

「売上金の失効」の4つのポイント

  • 【ポイント1】出品者は、「取引完了時から180日以内に当該商品の商品代金の引出申請を行う」義務がある。
  • 【ポイント2】メルカリは、出品者に対し、「本人確認を求めることがあり、確認が終了するまでは、引出しを留保」できる権利がある。
  • 【ポイント3】出品者が引完了時から180日を経過しても商品代金の引出申請を行わなかった場合、メルカリは、速やかに、出品者の金融機関の口座に、売上金の全額を振り込む方法により支払う義務がある。
  • 【ポイント4】メルカリが振込手続を行ったにもかかわらず、メルカリの責めに帰すべき事由なく振り込みが正常に完了しない場合には、メルカリは、出品者が当該商品代金相当額の支払請求権を放棄したとみなすことができる権利がある。

このうち、最も重要なポイントは【ポイント4】の後半の部分で、利用規約の表現では、「弊社は、当該出品者が、当該商品代金相当額の支払請求権を放棄したとみなすことができるものとします」となっている部分です。

メルカリからの公式の発表はありませんが、おそらく、利用規約のこの部分が、「売上金の失効」の根拠となります。

ただ、この部分は、出品者(=消費者の場合)の権利を「制限する」どころか放棄させるものであり、すでに触れた消費者契約法第10条により、無効です。

ポイント

出品者の「債権放棄」は消費者契約法第10条の違反により無効。

【理由2】メルカリは出品者に対し売上金を支払う義務がある

利用規約ではメルカリには売上金を支払う義務がある

「売上金の失効」が違法・無効である理由の2つ目は、メルカリは、出品者に対し、売上金を支払う法的な義務があるからです。

【ポイント3】で触れたとおり、利用規約にもとづき、メルカリは、取引完了時から180日を経過した時点で、出品者からの引出申請がない場合は、出品者に対し、売上金を支払わなければなりません。

すでに触れたとおり、そもそも「売上金の失効」の根拠となる規定は、消費者契約法第10条に違反し、無効です。

また、【ポイント4】にある出品者の債権放棄は、あくまで、「弊社が振込手続を行ったにもかかわらず、弊社の責めに帰すべき事由なく振り込みが正常に完了しない場合」に限った話です。

ですから、仮に消費者契約法第10条に違反しない場合であっても、メルカリが振込手続きもせずに、勝手に「債権放棄」とみなすることはできない利用規約となっています。

メルカリが留保できるのはあくまで「引出し」

なお、【ポイント2】には、今回の騒動で問題となっている、「本人確認」についての規定があります。

これは、出品者による引き出しの際、メルカリが本人確認をし、本人確認が終了するまでの間、メルカリが「引出し」を留保できる内容です。

ここで注目して欲しいのは、メルカリが留保できるのは、あくまで(出品者による)「引出し」であって、(メルカリによる)「商品代金の支払い」ではない、という点です。

つまり、出品者からの本人確認が終了せずに取引完了時から180日経過した場合は、メルカリは、「出品者からの引出し」は留保できますが、「出品者に対する商品代金の支払い」を留保できないのです。

ですから、本人確認が終了せずに取引完了時から180日経過した場合は、利用規約では、「売上金の失効」とはならずに、自動的に出品者の口座に売上金が振り込まれなければいけないのです(この利用規約の規定が消費者契約法第10条に違反せずに有効だったとしてもです)。

ポイント

  • 本人確認が終了するまでの間、メルカリが留保できるのは、あくまで出品者による「引出し」だけ。
  • 出品者の債権放棄は、あくまで、「弊社が振込手続を行ったにもかかわらず、弊社の責めに帰すべき事由なく振り込みが正常に完了しない場合」に限った話。
  • 利用規約では、メルカリは、出品者に対する商品代金の「支払い」は留保できない。

【理由3】売上金はメルカリのものではない

メルカリはあくまで出品者の「代理」でしかない

「売上金の失効」が違法・無効である理由の3つ目は、そもそも、売上金はメルカリのものではない、ということです。

そもそも、メルカリがどのような根拠で出品者の売上金を預かっているのかといえば、利用規約の第11条第6項第2号で次のように規定しているからです。

第11条 支払及び取引の実行

6.支払手続

(2)出品者は、弊社に対して、購入者から支払われる商品代金(決済事業者または収納代行業者から支払われる商品代金に相当する金員を含みます。)を代理受領する権限を付与するものとします。(以下省略)

つまり、出品者が、購入者からの直接支払われるはずの商品代金について、メルカリに代理受領する権限を与えているからこそ、メルカリは出品者の売上金を預かっているわけです。

ということは、売上金は、当然出品者のものであって、メルカリのものではありません。

当たり前ですが、いわば「代理人」に過ぎないメルカリが、「本人」である出品者の売上金を、勝手に失効させることはできません。

百歩譲っても売上金は購入者のもの

百歩譲って、出品者による債権放棄が有効だったとしても、売上金は、メルカリのものでありません。

そもそも、売上金は、出品者に対し支払う商品代金として、購入者がメルカリに預けたものですです。つまり、出品者のものでないならは、売上金は購入者のものです。

このため、商品代金が出品者に支払われなかった場合は、メルカリは、プラットフォーマーの責任として、購入者に返金するべきものです。

たとえ出品者による「債権放棄」があったとしても、メルカリが商品代金を取得できる根拠にはなりませんので、民法上は、いわゆる「不当利得」(民法第703条)となります。

民法第703条(不当利得の返還義務)

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

よって、メルカリとしては、購入者に返金したうえで、購入者には、改めて、出品者に対して直接商品代金の支払いを促すべきです。

民法上もメルカリには売上金を支払う義務がある

なお、出品者とメルカリの関係のような「代理」は、通常は(準)委任契約の関係とされています。

そして、(準)委任契約において、民法では、次の規定があります。

民法第646条(受任者による受取物の引渡し等)

1 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。

2 (省略)

つまり、「受任者(=本件のメルカリ)は」、「受け取った金銭(=売上金・商品代金)」を、「委任者(=本件の出品者)に引渡さなければならない」のです。

なお、この民法の規定によるメルカリの支払義務を限定する利用規約の規定もまた、消費者契約法第10条により無効となります。

ポイント

  • 売上金・商品代金は出品者(せいぜい購入者)のものであり、メルカリのものではない。
  • 民法第646条により、メルカリは、商品代金を出品者に対し、支払わなければならない。
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メルカリの出品者がとるべき手段は?

まずは利用規約に従って本人確認に協力する

このように、「売上金の失効」は、消費者契約法や民法に違反し、違法であり、関連する利用規約の規定は無効といえます。

ですが、売上金は、現実にはメルカリが預かっているわけですから、まずは、メルカリのルール(利用規約)に従って、本人確認をしたうえで引き出すべきです。

仮に、売上金が失効した場合であっても、「本人確認後に補填する」ということですから、焦らずに本人確認の手続きを進めるべきです。

すでに触れたとおり、法理論上は、売上金がまったく無くなることは、まず考えられませんので、落ち着いて対処しましょう(ただし、メルカリが払えなくなった場合は別です)。

民事上のトラブルであるため役所等は頼れない

国民生活センター・消費生活センターは紛争解決の機関ではない

また、国民生活センターや消費者センター等に相談をされたケースもあるようですが、残念ながら、あまり効果はありません。

国民生活センターや消費生活センターは、情報収集や情報提供が主な業務であり、トラブル解決のための機関ではありません。

このため、相談を受け付けることはあっても、個別の民事上のトラブルの解決のために動いてくれることは、まずありません。

もっとも、本件が、独立行政法人国民生活センター法における「重要消費者紛争」に該当する場合は、話が別です。

この点につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

参照:国民生活センター紛争解決委員会が扱う「重要消費者紛争」について(発表情報)_国民生活センター

消費者契約法第10条違反では消費者庁も動けない

また、消費者庁についても、現時点では、メルカリに対して行政指導等はできません。

消費者契約法第10条は、あくまで民事上のルールを決めたものにすぎません。

現行の消費者契約法では、消費者庁は、第10条違反に関して、行政指導等ができる法的な権限がありません。

このため、消費者庁に相談したとしても、おそらく消費者庁は動かない(動けない)でしょう。

特定適格消費者団体に相談する

どうしてもメルカリの本人確認や売上金の失効に納得がいかないのであれば、「特定適格消費者団体」に相談する、という方法もあります。

特定適格消費者団体とは、わかりやすくいえば、消費者に代わって、被害回復の裁判手続ができる消費者団体のことです(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律第2条第10号)。

特定適格消費者団体は、内閣総理大臣の認定を受けた法人であり、全国に3団体(平成30年4月現在)あります。

参照:全国の特定適格消費者団体一覧|消費者庁

もちろん、特定適格消費者団体に相談したからといって、直ちに裁判を起こしてくれるわけではありませんので、ご注意ください。

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ここからはより専門的な内容となります

「引出申請」は必要ない

メルカリは出品者に対し当然に商品代金を支払う義務がある

すでに触れたとおり、メルカリには、利用規約でも、民法でも、出品者に対し、売上金・商品代金を支払う義務があります。

もっといえば、銀行ではないメルカリが他人(=出品者)のお金を預かっているのは、銀行法違反となります。

このため、本来であれば、メルカリは、購入者から商品代金の入金があった場合、(なるべく機械的に)出品者からの引出申請などなくても、直ちに、出品者の銀行口座に入金しなければなりません。

せいぜい、ひと月の売上金について、月末で締め切って、翌月のなるべく早い時期に、出品者に入金するべきです。

なぜ180日しか売上金を預からないのか?

ところが、メルカリの利用規約第13条第2項では、事実上、180日に限って、出品者の売上金を預かっています。

これが、本件をややこしくしている原因です。

なぜこのように、180日という期間限定で売上金を預かっているのか?言い換えれば、180日までしか売上金を預からないのか?

その理由は、資金決済法という法律と、この法律に規定された資金移動業という業態がポイントとなります。

資金決済法・資金移動業とは?

資金決済法は資金決済全般について規定した法律

資金決済法とは、正式には、資金決済に関する法律といい、文字どおり、資金決済に関して規定した法律です。

内容としては、主に次の3つのことを規定しています。

資金決済法の内容

  • 前払式支払手段の発行
  • 銀行等以外の者が行う為替取引
  • 仮想通貨の交換

本件で問題となるのは、このうちの2点目、つまり「銀行等以外の者が行う為替取引」です。

為替取引の定義は法律で決まっていない

銀行等以外の者が為替取引をおこなうと銀行法違反となりますが、この資金決済法にもとづき資金移動業の登録をした場合は、一定の為替取引ができるようになります(資金決済法第37条)。

この為替取引ですが、困ったことに、資金決済法では定義が規定されていません。それどころか、銀行法にも定義が規定されていません。

ただ、過去の判例では、為替取引を、次のとおり定義づけています。

銀行法2条2項2号にいう「為替取引を行うこと」とは,顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引き受けること,又はこれを引き受けて遂行することをいう。

この判例も、非常に抽象的な記載であるため、「為替取引」に該当するかどうかは、エスクローサービスや、決済代行サービスの契約実務では、常に頭を悩ませる問題となります。、

メルカリが資金移動業に該当するかどうかは不明

メルカリは、資金移動業の登録をしていません(2018年11月9日現在)。

ですから、仮にメルカリのビジネスモデルが為替取引に該当する場合は、無登録で資金移動業・銀行業をおこなっていることになり、資金決済法違反・銀行業法違反となります。

もっとも、すでに触れたとおり、「為替取引」の法的な定義はありませんし、判例の定義もあいまいなものです。

このため、現時点で、メルカリが資金決済法違反・銀行業法違反かどうかは断言できません。

180日以内の引出申請はメルカリの一方的な都合

ただ、あまりにも長期間にわたって出品者の売上金を預かってしまうと、メルカリのビジネスモデルが為替取引に該当する可能性があります。

実際、こうした法的なリスクに対処するため、メルカリは、かつては売上金を1年間預かっており、それを90日に短縮し、さらに180日間に伸ばした経緯があります。

参照:メルカリ、出品者売上金の預かり期間を短縮:日本経済新聞

しかし、こうした資金決済法のリスクは、出品者にとっては関係のない話であり、ましてや、こうした法律違反のリスクのために、売上金が失効してもいいという話ではありません。

すでに触れたとおり、本来であれば、メルカリは、購入者から預かった売上金は、180日も預からずに、出品者からの引出申請がなくても、直ちに出品者に対して支払うべきなのです。

【余談】管理人の資金決済法に関する実務経験

余談ですが、管理人は、かつて取引先の依頼により、メルカリの決済に似た仕組みの利用規約を起案したことがあります。

そして、サービスをスタートしてしばらくして、取引先に金融庁から連絡が入り、ビジネスモデルの説明を求められました。

利用規約の作成担当者として、霞が関の金融庁のビルの中で、取引先の担当者とともに説明し、その時点では、特に資金決済法上は問題がない、という「お墨付き」を得ました(守秘義務に抵触しないよう、若干の脚色があります)。

その経験からしても、メルカリの利用規約の決済の部分は、グレーな部分が多く、トラブルになるのはやむを得ないと思われます。

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「本人確認」は必要ない

本人確認が必要なのは犯罪収益移転防止法が適用される場合

本件が問題となっている「本人確認」ですが、利用規約では、第5条第1項と第13条第2項に規定があります。

このため、メルカリが本人確認をすること自体は、特に問題はありません。

ただ、通常の契約実務では、本人確認が必要となるのは、いわゆる犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)が適用される場合です。

参照:犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント|JAFIC 警察庁

メルカリには犯罪収益移転防止法が適用されない

メルカリは犯罪収益移転防止法の対象となる「特定事業者」ではない

犯罪収益移転防止法が適用される事業者は、同法第2条第2項に明確に規定された「特定事業者」に限られます。

メルカリの事業は、この「特定事業者」に該当する事業ではありません。

よって、メルカリは、少なくとも犯罪収益移転防止法にもとづく本人確認をする必要はないのです。

では、なぜメルカリは法律上する必要がない本人確認をしているのでしょうか?

メルカリは「資金移動業」の登録を目指している?

ここで重要となるのが、すでに触れた「資金移動業」です。

以下は管理人の推測ですが、おそらく、メルカリは資金移動業の登録を目指しているのではないかと思われます。

現在の状態で事業を継続した場合、常に金融庁から無登録での資金移動業をしていると指摘されるリスクがあります。

このため、多少コストがかかっても、資金移動業の登録をしておきたいと考えているのではないかと思われます。

資金移動業者は犯罪収益移転防止法の「特定事業者」

実は、そこで問題となってくるのが、本人確認です。

実は、資金移動業者は、犯罪収益移転防止法第2条第2項第30号にあるとおり、特定事業者に該当します。

このため、仮にメルカリが資金移動業者に登録した場合、すべてのユーザーについて、本人確認をしなければなりません。

この点から、おそらく、資金移動業の登録に先立ち、本人確認をしているのではないかと推測されます。

利用規約で本人確認をするのは2パターン

メルカリが本人確認ができるのは利用規約第5条・第13条の場合

実際にメルカリが利用規約にもとづき本人確認ができるのは、すでに触れたとおり、利用規約の第5条第1項と第13条第2項の場合です。

それぞれの条文につきましては、次のとおりです。

第5条 ユーザー登録の取消等

1.ユーザー登録の取消・利用停止等

弊社は、ユーザーが以下の各号のいずれかに該当した場合又は該当したと弊社が判断した場合、事前の通知なしに、ユーザー登録の取消、本サービスの全部もしくは一部へのアクセスの拒否・利用停止等、又は、ユーザーに関連するコンテンツや情報の全部もしくは一部の削除の措置をとることができるものとします。弊社は、その理由を説明する義務を負わないものとします。なお、弊社は、ユーザーが以下の各号のいずれにも該当しないことを確認するために、弊社が必要と判断する本人確認を行うことができ、確認が完了するまで本サービスの全部もしくは一部へのアクセスの拒否・利用停止等の措置することができます。

(1)法令又は本規約に違反した場合

(2)不正行為があった場合

(3)登録した情報が虚偽の情報であると弊社が判断した場合

(4)本規約上必要となる手続又は弊社への連絡を行わなかった場合

(5)登録した情報が既存の登録と重複している場合

(6)登録した携帯電話番号又はメールアドレスが不通になったことが判明した場合

(7)ユーザーが債務超過、無資力、支払停止又は支払不能の状態に陥った場合

(8)他のユーザーや第三者に不当に迷惑をかけた場合

(9)登録した金融機関の口座に関し違法または不適切その他の問題があることが当該金融機関による指摘その他により判明した場合

(10)第4条第3項各号のいずれかに該当する場合

(11)ユーザーが自ら又は第三者をして、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求行為、脅迫的な言動又は暴力を用いる行為、風評を流布し、偽計を用い又は威力を用いて、信用を毀損又は業務を妨害する行為をした場合

(12)その他弊社がユーザーに相応しくないと判断した場合

(以下省略)

第13条 利用料等及び売上申請

1.利用料等

(1)出品者は、出品した商品の売買契約が成立し、当該売買契約に関する支払及び商品の発送ならびに出品者及び購入者による相互の評価が行われ取引が完了した場合、当該取引完了時から180日以内に当該商品の商品代金の引出申請を行うものとします。なお、商品代金の引出申請に当たっては、弊社所定の本人確認を求めることがあり、確認が終了するまでは、引出しを留保させていただくことがあります。(以下省略)

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

本人確認で制限できるのはユーザーによる利用であり「支払い」ではない

まず、利用規約第5条第1項についてですが、こちらは、ユーザーが利用制限の事由に該当するかどうかに関する本人確認です。

メルカリは、(本人)「確認が完了するまで本サービスの全部もしくは一部へのアクセスの拒否・利用停止等の措置することができます」となっています。

すでに触れましたが、ここでメルカリが講じるのは、あくまでユーザーによる「アクセスの拒否・利用停止等の措置」であって、メルカリによる売上金の支払いの制限ではありません。

本人確認による制限は?

利用規約第5条第1項において本人確認が完了するまで制限されるのは、あくまでユーザー側のサービスの利用であり、メルカリ側の売上金の支払いではない。

メルカリによる売上金の支払いが「本サービス」に含まれるかどうかは議論の余地があるでしょうが、一般的に、一方の契約当事者による相手方への金銭のが「サービス」に該当するとは解釈しません。

また、メルカリによる売上金の支払いが「本サービス」に該当するのであれば、メルカリは、サービスの一部として、ユーザー間での決済機能を提供していることになり、資金決済法上の問題となります。

売上金の支払いは「本サービス」?

  • 一般的に、契約当事者による金銭の支払いは、サービスの一部とは解釈されない。
  • 仮にメルカリによる売上金の支払いが、出品者に対する「本サービス」の一部であるとすれば、資金決済法の「為替取引」(=資金移動業者でないとできない)をしているとみなされる可能性がある。

よって、第5条第1項を根拠に、メルカリは、出品者に対し、売上金の支払いを停止することはできませんし、売上金を失効させることもできません。

なお、「売上金の失効」について、メルカリが個別の問い合わせについて説明をしようとしないのは、この利用規約第5条第1項に規定されている、「弊社は、その理由を説明する義務を負わないものとします」という規定にもとづくものです。

本人確認で留保できるのは「引出し」であり「支払い」ではない

次に、第13条第2項についてですが、こちらは、引出申請についての本人確認です。

メルカリは、(本人)「確認が終了するまでは、引出しを留保させていただくことがあります。」となっています。

すでに触れたとおり、メルカリができるのは、あくまで出品者による「引出し」の留保であり、メルカリ自身による出品者に対する支払いではありません。

よって、第13条第2項を根拠に、メルカリは、出品者に対し、売上金の支払いを停止することはできませんし、売上金を失効させることもできません。

本人確認を根拠とした「売上金の失効」は消費者契約法第10条違反

このように、利用規約の規定からも、「売上金の失効」はできないことになります。

また、すでに触れたとおり、そもそもメルカリは、犯罪収益移転防止法の適用対象外です。

このため、メルカリによる本人確認は、法律上は、特に必要が無いことです。

このように、法律上の必要がない本人確認を根拠に、売上金の支払いを停止したり、売上金を失効させるのは、消費者契約法第10条に違反し、無効となります。

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売上金は「失効」しない

商品代金はメルカリのものではない

最後に指摘しておきたい点は、そもそも、購入者が支払った商品代金はメルカリのものではない、ということです。

商品代金は、購入者による債務の弁済があるまでは購入者のものであり、その後は出品者のものとなります。

つまり、商品代金は、購入者の所有から出品者の所有となるのであり、どの時点であっても、メルカリのものではありません。

すでに触れたとおり、メルカリは、あくまで出品者の「代理受領」をしているだけです。

「商品代金相当額の支払請求権を放棄したとみなす」?

「失効」するのはあくまでメルカリに対する「請求権」

今回問題となっている、「売上金の失効」が直接関係するのは、利用規約の第13条第2項第1号の「商品代金相当額の支払請求権を放棄したとみなす」の部分と思われます(メルカリからは正式な発表はありません)。

この点は、すでに触れたとおり、消費者契約法第10条に違反し、無効となります。

仮にこの規定が有効だったとしても、無くなるのは、あくまで出品者によるメルカリに対する「支払請求権」という債権です。

つまり、売上金=お金が無くなるではありません。

メルカリは売上金を購入者に返還するべきでは?

すでに触れたとおり、メルカリの立場は、出品者の「代理受領」として商品代金を預かっているだけです。

利用規約では、支払いに関する購入者とメルカリの関係は明記されていませんが、購入者がメルカリに対し出品者への支払いを委託している、という関係であると思われます。

であるならば、出品者のメルカリに対する商品代金の支払請求権が無くなってしまうと、購入者から出品者の支払い(=債務の弁済)は完了しません。

このため、メルカリの立場としては、購入者に対して商品代金を返金して、出品者に対し直接支払うように促すべきです。

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【補足】売上金の失効でメルカリは詐欺にはなる?

売上金の失効ではメルカリは詐欺にはならない

メルカリによる「売上金の失効」について、詐欺に該当するという見解があるようですが、これは的外れです。

そもそも、この詐欺が、民事上のものか、刑事上のものかは必ずしも明らかではありませんが、どちらの場合も、詐欺の要件として、「欺罔行為」(ぎもうこうい)がなければなりません。

欺罔行為とは、わかりやすくいえば、「相手を騙す行為」のことです。

一連の騒動で、メルカリ側が、ユーザーを騙しているとは考えにくく、仮にユーザーを騙しているとしても、客観的な証拠はありません。

このため、メルカリが詐欺をおこなっている、とはいえません。

売上の失効はメルカリの業務上横領になり得る

なお、万が一、メルカリが売上金を自分のものにしてしまった場合、「業務上横領」に該当する可能性があります。

メルカリは、あくまで商品代金=売上金を「代理受領」しているだけです。

メルカリが事業として「代理受領」した出品者(=他人)の商品代金=売上金を自社のものにするのは、業務上横領に該当します。

もちろん、メルカリの法務部は、その可能性についてご存知でしょう。

ですから、メルカリが、商品代金=売上金を自社のものにすること自体、あり得ない話です。