このページでは、契約書に関わるすべての人に向けて、いわゆる「誠実協議条項」について解説しています。
誠実協議条項は、契約書の不記載事項、記載事項の解釈、トラブル等について、契約当事者全員に対し、誠実な協議を義務づける条項です。
この誠実協議条項は、主に契約書の最後に規定されることが多く、契約全体の補足のように位置づけられることが多いです。
しかし、この誠実協議条項は、法的にはまったく意味が無いものであり、また、仮に誠実協議条項が契約書に無かったとしても、誠実な協議は義務づけられるものです。
このページでは、こうした「誠実協議条項」の法的な効果や契約実務での扱いについて、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 誠実協議条項の意味。
- 誠実協議条項の法的な効果。
- 誠実協議条項の契約実務における扱い。
誠実協議条項とは?
誠実協議条項とは、主に契約の最後 に規定される、契約当事者の双方に誠実な協議を義務づける条項です。
【意味・定義】誠実協議条項とは?
誠実協議条項とは、契約についてトラブルや解釈に関する疑義が生じた場合に、契約当事者の双方に対し、誠実に協議をするよう義務づけた条項をいう。
誠実協議条項は、例えば、以下のように規定されます。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】誠実協議条項
第○条(協議)
本契約に定めない事項もしくは本契約の条項の解釈について疑義を生じた場合または本契約について紛争が生じた場合、甲および乙は、誠実に協議のうえ、解決するものとする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
誠実協議条項は法的な効果は「無い」
契約当事者が「誠実に協議する」のは当然
実は、この誠実協議条項は、法的には効果や意味はありません。
そもそも、契約の当事者は、誠実協議条項が有無に関係なく、誠実な協議をする義務があります。
民法上の信義誠実の原則により、契約当事者は、当然に誠実に協議をしなければなりません(民法第1条第2項)。
【意味・定義】信義誠実の原則(信義則)とは?
信義誠実の原則(信義則)とは、私的取引関係において、相互に相手方を信頼し、誠実に行動し、裏切らないようにするべき原則をいう。
信義誠実の原則は、民法第1条第2項に規定されている、民法の基本原則です。
「信義則」という略称もあります。
民法第1条(基本原則)
1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
よって、契約書に誠実協議条項が無かったとしても、契約当事者は、民法上当然に、誠実に協議をする義務があります。
ただ、だからといって、誠実協議条項を規定したとしても、特に問題があるわけではありません。
信頼関係が破綻していれば協議はできない
なお、契約書に誠実協議条項がなくても誠実に協議するべきであることは、トラブルになった場合にも同様です。
ただ、そもそも信頼関係が破綻している場合は、契約書の誠実協議条項の有無に関係なく、協議は成立しないことが多く、協議の開催すらままなりません。
「もう先方の担当者の顔も見たくないけども、契約書に誠実協議条項があるから、仕方ないけど協議しよう」とはならないのです。
これは、民法上の信義誠実の原則があっても、同様です。
このように、トラブルになった際に機能しないという点でも、誠実協議条項は、規定する意味がありません。
ポイント
- 誠実協議条項は法的な効果は「無い」
- 契約当事者が「誠実に協議する」のは当然
- 誠実協議条項がなくても、契約当事者が「誠実に協議する」のは当然。
- 誠実協議条項があっても、信頼関係が破綻していれば、契約当事者は協議しない。
誠実協議条項は無くても契約自由の原則により契約内容は変えられる
また、誠実協議条項の有無に関係なく、当事者の合意さえあれば、契約内容は、いつでも変えられます。
これは、契約自由の原則によるものです。
【意味・定義】契約自由の原則とは?
契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則をいう。
契約自由の原則により、契約成立前はもとより、契約成立後でも、当事者の合意さえあれば、過去の契約内容を自由に変えられます。
当然ながら、契約当事者の双方合意しているにもかかわらず、「この契約内容は、実際の契約の実態を反映していないから変えたいけども、誠実協議条項がないから無理だな」とはなりません。
この点からも、あえて誠実協議条項を規定する法的な意味は、ほとんどありません。
ポイント
- 誠実協議条項がなくても、契約自由の原則により、契約は、後から自由に変えられる。
誠実協議条項は「一応規定しておく」程度のもの
「誠実協議条項=ダメな契約書」とは一概には言えない
このように、誠実協議条項は、毒にも薬にもならない、法的には無意味な条項です。
ただ、最後に誠実協議条項があるからといって、必ずしもそのこと自体が、「ダメな契約書」を意味するわけではありません。
契約条件が細部まで緻密に記載されている、質が高い契約書であっても、最後に誠実協議条項を規定することもあります。
これは、契約書の作成者が、意味がないとわかっていながら、自社側、あるいは相手側を納得・安心させるために、一応規定しておくことがあるからです。
誠実協議条項は相手方の契約実務の知識・経験の判断材料
すでに述べたとおり、誠実協議条項は、法的にはあってもなくてもいい条項です。
つまり、誠実協議条項は、削除しても残しておいても、法的には何も変わりませんので、削除することや残すことにこだわる必要はありません。
この点について、誠実協議条項を削除することや残すことについて、相手方がこだわった場合、契約実務の知識や経験が浅い可能性があります。
このため、誠実協議条項は、相手方の担当者の契約実務の知識や経験を判断するひとつの材料となります。
ポイント
- 誠実協議条項は、関係者の要望により、「一応規定しておく」場合もある。
- 誠実協議条項は、契約交渉の過程における相手方の契約実務の知識・経験の判断材料となる。
誠実協議条項のメリット・デメリット
以上の点から、誠実協議条項のメリットは、以下のとおりです。
誠実協議条項のメリット
- 契約当事者が「なんとなく」安心する。
- 契約書を作成した当事者が「なんとなく」誠実な印象を持たれる。
他方で、誠実協議条項のデメリットは、以下のとおりです。
誠実協議条項のデメリット
- 紙面の無駄となる。
- 契約書を作成した当事者から相手方に対し「誠実協議条項が法的には意味がない条項であることを知らない」というメッセージ(誤解)を与える可能性がある。
- 契約書を作成した当事者から相手方に対し、「信義誠実の原則や契約自由の原則を知らない」というメッセージ(誤解)を与える可能性がある。
以上のように、誠実協議条項は、メリット・デメリットともに、あまり大きくはありません。
このため、この誠実協議条項を規定するかどうかや、内容についてリソースを割くことは非効率です。
誠実協議条項は、規定するのであれば、一応文末に規定しておいて、他の契約条項に注力するべきでしょう。
誠実協議条項に関するよくある質問
- 契約書における誠実協議条項とは何ですか?
- 誠実協議条項とは、契約についてトラブルや解釈に関する疑義が生じた場合に、契約当事者の双方に対し、誠実に協議をするよう義務づけた条項のことです。
- 誠実協議条項の法的な効果は何ですか?
- 誠実協議条項には、法的には効果はありません。民法には、誠実協議条項と同様の規定(信義誠実の原則)があるため、わざわざ契約書に誠実協議条項を規定する必要はありません。