このページでは、契約不適合責任(読み方:けいやくふてきごうせきにん)の期間と特約による制限方法について解説しています。

契約不適合責任は、有償契約において、債務者により履行された債務(物品や仕事内容など)が契約の内容に適合しない場合において債務者が負う責任のことです。

この契約不適合責任には、民法や商法などの法律によって、一定の期間が定められています。

これらの法律は、いわゆる「任意規定」であるため、契約不適合責任の期間は、特約で変更することができます。

このページでは、こうした契約不適合責任の期間と、特約による変更、修正、制限などの方法について、解説しています。

なお、契約不適合責任の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】契約不適合責任とは?期間や責任の内容について解説




契約不適合責任の期間・年数は?

「知った時から1年」「引渡し・仕事完成から10年」「目的物の引渡し後6ヶ月」

契約不適合責任の期間・年数は、契約内容によって、それぞれ次のとおりです。

契約不適合責任の期間・年数
  • 債権者が契約不適合を知った時から1年(売買契約・請負契約)
  • 権利を行使することができる時から10年間(売買契約・請負契約)
  • 目的物の引渡し後6ヶ月(商事売買契約)

以下、これらについて、詳しく解説します。





民法上の売買契約・請負契約では「知った時から1年以内」

契約不適合を知らなければカウントされない

民法では、売買契約(民法第566条)・請負契約(民法第637条)ともに、契約不適合責任の期間・年数は、買主・注文者が契約不適合を「知った時から1年」に制限されています。

民法第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

民法第637条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

1 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。

このように、契約不適合責任の起算点は、買主・注文者が契約不適合を「知った時から」となります。

逆に、売主・請負人にしてみれば、買主・注文者が契約不適合を知らなければ、いつまでも契約不適合責任は消滅しません。

なお、この1年間は除斥期間とされますので、時効のように中断はしません。

「通知」によって契約不適合責任を追求できる立場が確定する

なお、いずれの条文にも、「通知しないときは、」とあるとおり、売主・請負人に対して、契約不適合責任を追求しなくても、通知さえすれば、買主・注文者は、契約不適合責任を追求できる立場が確定します。

通知の内容としては、契約不適合の種類や大体の程度さて伝えればよいとされており、具体的な権利の行使について言及する必要はありません。

なお、通知をしたうえで、契約不適合責任の追求をせずに、「知った時から」5年後または目的物の引渡し等から10年経過した場合は、消滅時効にかかります(次項参照)。

この場合は、買主・注文者による契約不適合責任を追求できる権利は、時効により消滅します。





消滅時効では「権利を行使することができる時から10年間」まで

ただし、契約不適合責任にもとづく買主・注文者の権利は、他の債権と同様に、消滅時効にかかります。

このため、永遠に契約不適合責任が消滅しないわけでなありません。

第166条(債権等の消滅時効)

1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

(第2項以下省略)

ここでいう「権利を行使することができる時」のことを「客観的起算点」といいます。

これに対し、「債権者が権利を行使することができることを知った時」のことを「主観的起算点」といいます。

【意味・定義】消滅時効における主観的起算点・客観的起算点とは?
  • 消滅時効における主観的起算点とは、「債権者が権利を行使することができることを知った時」をいう。
  • 消滅時効における客観的起算点とは、「権利を行使することができる時」をいう。

なお、契約不適合における消滅時効の客観的起算点は、一般的には、次のいずれかとされます。

契約不適合責任における消滅時効の客観的起算点
  • 売買契約:目的物の引渡しの時点
  • 目的物の引渡しがある請負契約:同上
  • 目的物の引渡しがない請負契約:仕事が完成した時点

よって、契約不適合責任の期間・年数は、「買主・注文者が契約不適合を知った時から1年後」と「目的物の引渡しまたは仕事の完成の時点から10年後」のいずれか早い方となります。

言い換えれば、買主・注文者は、最長で10年間の契約不適合責任を負うこととなります。

このため、一般的な売買契約・請負契約では、この「知った時から1年」の部分を修正するために、特約として契約不適合責任の条項を規定します(後述)。





商事売買契約では受領した時から6ヶ月

これに対し、商事売買契約、つまり一般的な事業者間の売買契約では、商法第526条が適用されます。

商法第526条(買主による目的物の検査及び通知)

1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。

3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

この規定では、「6ヶ月以内」について明確な規定はないものの、第1項の「目的物を受領したときは」とあることから、一般的には、「目的物を受領した」時点と考えられています。





契約不適合責任は特約で期間・年数の伸長・短縮や免責ができる

合意があれば契約不適合責任の期間・年数は変更できる

契約不適合責任の期間は、契約当事者が合意すれば、変更することができます。

請負契約における瑕疵担保責任の期間・年数について規定した旧民法第639条では、瑕疵担保期間の「伸長」だけが規定されていました。

また、瑕疵担保責任を負わない旨(いわゆる免責)の特約も有効ですから、瑕疵担保期間の「短縮」もできました。

旧民法第639条(担保責任の存続期間の伸長)

第637条及び前条第1項の期間は、第167条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で延長することができる。

このように、法律とは異なる合意が優先される規定のことを「任意規定」といいます。

【意味・定義】任意規定とは?

任意規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合に、その合意のほうが優先される法律の規定をいう。

これに対し、法律とは異なる合意があっても法律のほうが優先される規定のことを「強行規定」といいます。

【意味・定義】強行規定とは?

強行規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合であっても、その合意よりも優先される法律の規定をいう。

なお、一部の契約では、この強行規定により、契約不適合責任の期間の短縮や契約不適合責任の免責ができません(後述)。

任意規定・強行規定に関する解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

任意規定・任意法規とは?意味・具体例についてわかりやすく解説

旧民法第639条が削除されても瑕疵担保責任・契約不適合責任の期間は変更できる

改正民法により、請負契約において瑕疵担保責任の期間・年数の伸長について規定されていた旧民法第639条は削除されました。

ただ、だからといって、請負契約において、契約不適合責任の期間・年数について変更できなくなった、というわけではありません。

もともと、売買契約における瑕疵担保責任の期間・年数については、民法には規定がありませんでしたが、一般に合意によってこの期間・年数は伸長できるものと解されていました。

このため、改正民法では、第639条を削除することで、請負契約においても売買契約同様に、特に民法上の規定がなくても、契約不適合責任の期間・年数を伸長できるものとしました。

契約不適合責任の期間・年数は時効により最長で10年まで

なお、契約不適合責任の期間を合意により延長できるのは、旧民法「第167条の規定による消滅時効の期間内に限り」ます(旧民法第639条)。

具体的には、「権利を行使することができる時から10年間」です。

これは、改正民法では、第166条第1項第2号に該当します。

こちらも、民法第639条が削除されたものの、その内容は一般に有効となります。

このため、買主・注文者は、売主・請負人に対し、無制限に契約不適合責任を課すことはできません。

旧民法第167条

旧民法第167条(債権等の消滅時効)

1 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。

2 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。

改正民法第166条

改正民法第166条(債権等の消滅時効)

1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

3 前2項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

特約で契約不適合責任を短縮・免責もできる

民法第572条の反対解釈で契約不適合責任の期間の短縮や免責ができる

売買契約・請負契約では、特約で契約不適合責任を負わない旨の合意=(いわゆる「免責」の合意)もできます。

また、契約不適合責任を負わないことにできるのですから、契約不適合責任の期間・年数の短縮もできます。

契約不適合責任の免責の根拠は、民法第572条の反対解釈です。

【意味・定義】反対解釈とは?

反対解釈とは、ある法律の規定について、その内容とは逆の場合には逆の効果が生ずる内容も規定されている、という解釈をいう。

民法第572条(担保責任を負わない旨の特約)

売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

ここでいう「第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任」が契約不適合責任です。

この規定では、売主が契約不適合の存在を知っていた(=「悪意」)にもかかわらず、買主に告げなかった場合は、契約不適合責任を免れることができない、という内容になっています。

逆に言えば(反対解釈)、売主が契約不適合の存在を知らなかった(=「善意」)場合、(特約があれば)契約不適合責任を免れることができます。

なお、請負契約においても、この規定は準用されます(民法第559条)。

ポイント
  • 契約不適合責任の期間・年数を定める規定は任意規定。
  • 契約不適合責任は、当事者の合意によって目的物の引渡しまたは仕事の完成の時点から最長で10年まで伸長できる。
  • 逆に、契約不適合責任は短縮もできる。
  • 売主・請負人が善意の場合は契約不適合責任を負わない旨の特約(=免責の特約)も有効。





契約不適合責任を修正・変更・制限する方法とは?

売主・請負人は必ず契約不適合責任に期間を固定化・短縮する

売買契約・請負契約における契約不適合責任条項で、特に売主・請負人にとって最も重要なポイントは、いわゆる「知った時から1年以内」の期間について、制限をすることです。

契約書を作成する理由・目的

民法上の契約不適合責任の期間は最長で10年間であり、また買主・注文者が契約不適合を「知った時から1年」であることから、特約としてこの期間を短縮し、かつ固定化した契約書が必要となるから。

民法637条の規定どおり契約不適合を「知った時から1年」とすると、すでに述べたとおり、契約不適合責任の期間・年数が最長で10年間となります。

これは、売買契約・請負契約の内容によっては、売主・請負人にとって非常に不利となります。

このため、一般的な売買契約・請負契約では、旧民法637条の規定どおり、「仕事の目的物を引き渡した時から1年以内」または「仕事が終了した時から1年以内」とすることが多いです。

なお、年数については、必ずしも1年以内とする必要はなく、売買契約・請負契約の内容に応じて変更することもあります。

契約不適合責任の期間の短縮・制限をする契約条項の記載例

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

上記の例では、第3項において、契約不適合責任の期間を納入から1年間に制限しています。





契約不適合責任の期間の起算点を明記する

納入時か検査完了時から起算する

契約不適合責任は、期間の計算が重要となります。

このため、どの時点から起算するのか、つまり起算点も重要となります。

一般的に、売買契約・請負契約では、次のいずれかの時点から契約不適合責任の期間を計算します。

売買契約・請負契約における契約不適合責任の起算点
  • 物品・成果物・知的財産権等の納入がある場合:納入または検査がある場合は検査完了(合格)の時点
  • 物品・成果物・知的財産権等の納入がない場合:仕事の終了、契約期間の終了または検査がある場合はその検査完了(合格)の時点

この点について、売主・請負人にとっては、より早い時点で契約不適合責任の期間が算定される、納入や仕事の終了の時点を起算点とするほうが有利となります。

契約不適合責任の期間の起算点を納入日の翌日とする契約条項の記載例

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




上記の例では、第3項において、「納入の日の翌日」を起算点としています。





民法第637条第1項の規定を適用しない旨を明記する

以上のように、契約不適合責任の年数と起算点を固定した場合であっても、改正民法第637条の「知った時から1年以内」について、特約で修正したとは解釈されない可能性もあります。

つまり、例えば特約で「納入から1年以内」とした場合であっても、それとは別に「知った時から1年以内」が適用される可能性もあり得ます。

このため、「民法第637条第1項の規定は、契約不適合責任期間については適用しない」と、「知った時から1年以内」の規定を適用しないことを売買契約・請負契約に明確に規定しておきます。

契約書を作成する理由・目的

特約で契約不適合責任の期間を短縮したとしても、必ずしも民法第637条第1項が適用されないとは限らないため、民法第637条第1項の規定の適用を否定した契約書が必要となるから。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

上記の例では、第4項において、民法第637条第1項の適用について否定しています。





特約があっても契約不適合責任の短縮が無効になる場合とは?

強行規定によって契約不適合責任の期間・年数の短縮が無効となる

なお、契約内容によっては、契約不適合責任の期間・年数の短縮の規定(合意・特約)が無効となる場合があります。

契約実務上、特に重要なものとしては、強行規定によって無効となる場合です。

【意味・定義】強行規定とは?

強行規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合であっても、その合意よりも優先される法律の規定をいう。

この強行規定の具体例としては、以下のものがあります。

契約不適合責任の期間・年数の短縮が制限される法律
  • 住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)
  • 製造物責任法(PL法)
  • 消費者契約法
  • 宅地建物取引業法(宅建業法)

住宅品確法では瑕疵担保責任(契約不適合責任)の年数・期間は10年

住宅新築請負契約=住宅を新築する建設工事の請負契約については、瑕疵担保責任(契約不適合責任)は、10年とされています。

より正確には、請負人は、注文者に引き渡した時から10年間、「住宅の構造耐力上主要な部分等」=住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。)について、瑕疵担保責任(契約不適合責任)を負います(住宅品確法第94条第1項)。

根拠条文

第94条(住宅の新築工事の請負人の瑕疵担保責任)

1 住宅を新築する建設工事の請負契約(以下「住宅新築請負契約」という。)においては、請負人は、注文者に引き渡した時から10年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(次条において「住宅の構造耐力上主要な部分等」という。)の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。次条において同じ。)について、民法(明治29年法律第89号)第415条、第541条及び第542条並びに同法第559条において準用する同法第562条及び第563条に規定する担保の責任を負う。

2 前項の規定に反する特約で注文者に不利なものは、無効とする。

3 第1項の場合における民法第637条の規定の適用については、同条第1項中「前条本文に規定する」とあるのは「請負人が住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号)第94条第1項に規定する瑕疵がある目的物を注文者に引き渡した」と、同項及び同条第2項中「不適合」とあるのは「瑕疵」とする。

住宅品確法第94条第2項でわざわざ規定しているとおり、「前項の規定に反する特約で注文者に不利なものは、無効」となります。これが、いわゆる「強行規定」です。

このため、住宅の新築に関する建設工事請負契約では、住宅新築請負契約は当然として、その下請け、孫請けの建設業者との建設工事請負契約・業務委託契約においても、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間は重要となります。

ちなみに、住宅品確法第95条では、新築住宅の売主の瑕疵担保責任(契約不適合責任)についても、同様の規定となっています。

製造物責任法の契約不適合責任の期間・年数は3年(5年)または10年

製造物責任法(PL法)における製造物の「欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害した」損害賠償責任の時効は、次のとおりです。

製造物責任法における損害賠償責任の時効3つのポイント
  • 製造物の損害賠償責任の時効は、被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年間(人の生命又は身体を侵害した場合は5年間)。
  • ただし、最長でも製造業者等が製造物を引き渡した時から10年。
  • 「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害」の損害賠償責任の時効は、「その損害が生じた時から」3年間
根拠条文

第5条(消滅時効)

1 第3条に規定する損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

(1)被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年間行使しないとき。

(2)その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したとき。

2 人の生命又は身体を侵害した場合における損害賠償の請求権の消滅時効についての前項第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

3 第1項第2号の期間は、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算する。

第3条(製造物責任)

製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第3項第2号若しくは第3号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

以上のように、製造物責任法では、製造物責任に起因する損害賠償責任の時効の年数・期間について、厳密に規定されています。

このため、製造請負契約では、製造物責任法(PL法)の時効の年数・期間を考慮のうえ、契約不適合責任の年数・期間を設定する必要があります。

また、製造業者としては、エンドユーザーとの製造請負契約のみならず、下請け、孫請けの製造業者との製造請負契約・業務委託契約においても、同様の考慮をする必要もあります。

消費者契約法では契約不適合責任の年数・期間の短縮は無効

消費者契約法では、次のとおり、消費者の利益を一方的に害する条項は無効となります。

第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

ここでいう「法令中の公の秩序に関しない規定」とは、いわゆる任意規定のことです。

【意味・定義】任意規定とは?

任意規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合に、その合意のほうが優先される法律の規定をいう。

すでに述べたとおり、民法上の契約不適合責任の年数・期間やその計算方法は、任意規定とされています。

このため、売買契約における売主、請負契約における注文者の権利として民法に規定されている契約不適合責任の年数・期間を短縮したり、「知った時から」の部分について制限した場合、その条項は無効となる可能性があります。

この点については、「民法第1条第2項に規定する基本原則」(いわゆる信義誠実の原則・信義則)に反しているかどうかが重要となります。

信義誠実の原則は、民法第1条第2項に規定されている、民法の基本原則です。「信義則」という略称もあります。

【意味・定義】信義誠実の原則(信義則)とは?

信義誠実の原則(信義則)とは、私的取引関係において、相互に相手方を信頼し、誠実に行動し、裏切らないようにするべき原則をいう。

民法第1条(基本原則)

1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

なお、当然ながら、消費者契約法は、あくまで消費者との契約において適用されます。

ですので、消費者契約法第10条が適用される当事者は、その消費者と直接契約を締結する事業者となります。

ただ、消費者契約法の規定が直接適用されないとはいえ、エンドユーザーとして消費者を想定している商品等に関する事業者間の売買契約や請負契約でも、消費者に対する契約不適合責任の年数・期間に対応する契約不適合責任とすることも検討する必要があります。

ポイント
  • 契約不適合責任は法律(=強行規定)によって短縮できない場合もある。

宅建業法(宅地建物取引業法)では契約不適合責任の期間について最低2年間の制限がある

宅建業法では、次のとおり、契約不適合責任について、最短でも「目的物の引渡しの日から2年以上」の制限が課されています。

宅建業法第40条(担保責任についての特約の制限)

1 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治29年法律第89号)第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。

2 前項の規定に反する特約は、無効とする。

ただし、この規制は、宅地建物取引業者が「自ら売主となる宅地又は建物の売買契約」に限って適用されます。

また、この規定は、「前項の規定に反する特約は、無効とする」とあるとおり、強行規定となります。

なお、この規制は、宅建業法第78条により、宅地建物取引業者が買主をなる場合、つまり、いわゆる「業者間取引き」には適用されません。

宅建業法第78条(適用の除外)

1 この法律の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。

2 第33条の2及び第37条の2から第43条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。





契約不適合責任の期間に関するよくある質問

契約不適合責任の期間は何年ですか?
契約不適合責任の期間は、契約内容や適用される法律によって、以下のようになっています。

  • 債権者が契約不適合を知った時から1年(売買契約・請負契約)
  • 権利を行使することができる時から10年間(売買契約・請負契約)
  • 目的物の引渡し後6ヶ月(商事売買契約)
契約不適合責任の期間は、特約によって変更できますか?
一般的な事業者間の契約であれば、特約によって変更できます。