【意味・定義】注文書・発注書とは

【意味・定義】注文書・発注書とは?

「注文書・発注書」とは、契約の申込みを証する書面をいう。




注文書・発注書はあくまで一方的な申込みの書面

注文者・発注者からの一方的な申込みの書面

注文書・発注書は、注文者・発注者から、受注者に対して交付される、注文・発注をするための書面です。

より正確には、注文書・発注書は、注文・発注があったことを証する書面です。

こうした注文・発注のことを、法律的には、契約の「申込み」といいます。

つまり、注文書・発注書は、注文者・発注書が受注者に対し、一方的に契約の申込みをする書面です。

受注者からの承諾がなければ契約は成立しない

ここでポイントとなるのが、申込みというのは、あくまで「一方的」なものという点です。

契約は、「申込み」と「承諾」があって、はじめて成立するものです(あくまで原則です)。

このため、単に注文書・発注書の交付があっただけでは、契約は成立しません(例外として成立する場合もあります。後述)。

注文・発注を受けた受注者からの(注文請書・受注書による)承諾があって、はじめて契約が成立します。

ポイント
  • 注文書・発注書は、注文者・発注者からの一方的な契約の申込みの書面。
  • 原則として、注文書・発注書を交付しただけで、受注者からの承諾がなければ、契約は成立しない。





注文書・発注書だけで契約が成立することもある

注文書・発注書だけで契約が成立する3パターン

ただし、特に企業間取引の契約では、注文書・発注書の交付だけで、注文請書・受注書を必要とせずに、契約が成立する場合があります。

代表的な例としては、次の3つがあります。

注文書・発注書だけで契約が成立するパターン
  • 承諾期間を経過した場合に契約が成立する合意がある場合
  • 商法第509条が適用される取引の場合
  • 注文書・発注書の交付だけで自動的に契約が成立する合意がある場合

それぞれ、詳しく見てみましょう。

承諾期間の経過により契約が成立する合意がある場合

取引基本契約書では承諾の期間を設定する

1つ目は、いわゆる「取引基本契約書」で、注文書・発注書による申込みがあった場合に、承諾期間を設定した場合です。

取引基本契約書の中には、通常は、受発注の手続きが規定されています。

受発注の手続きの規定では、注文書・発注書の交付による(個別契約の)申込みと、注文請書・受注書の交付による承諾について規定します。

この際、注文書・発注書の交付があってから、一定期間(多くは数日間)内に、注文請書・受注書で承諾するように規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】注文の承諾期間に関する条項

第○条(申込みの承諾)

受注者は、発注者からの注文書が到達した日付から起算して7日 後まで(以下、「注文承諾期間」という。)に、発注者に対し、当該注文書による個別契約の申込みに対する諾否を通知するものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




承諾期間の経過=「契約自動成立」または「契約自動不成立」とする

承諾期間が経過した場合、個別契約が自動的に成立するか、逆に契約が自動的に成立しない(=申込みが失効する)か、いずれかを規定します。

この際、個別契約が自動的に成立するように規定した場合は、注文請書・受注書による承諾がなくても、個別契約は成立します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】個別契約の成立に関する条項

第○条(個別契約の成立)

注文承諾期間に受注者が発注者に対し承諾の通知をしなかった場合、当該注文承諾期間が経過したことをもって、受注者が個別契約の申込みを承諾したものとみなす。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




このように、取引基本契約書において、承諾期間が経過した場合、個別契約が自動成立する合意があったときは、注文書・発注書だけでも契約は成立します。

ちなみに、承諾期間が経過した場合の自動成立・自動不成立や、承諾期間について規定がない場合は、次の商法第509条により、自動的に契約が成立します。

商法第509条が適用される取引の場合

2つ目は、商法第509条が適用される場合です。

企業間取引において、いわゆる取引基本契約書が取り交わされた場合のように、継続的な取引関係がある場合、商法第509条が適用されます。

商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)

1 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。

2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。

この商法第509条第2項により、注文書・発注書を交付された受注者が、諾否の通知を発すること怠ったときは、承諾したものとみなされ、契約は自動的に成立します。

なお、受注者の立場として、このような形で契約が自動成立しないようにするためには、取引基本契約書で、承諾期間が経過した場合には自動不成立となるように規定します。

例えば、すでに触れた契約条項の記載例・文例のバージョンですが、このように規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】申込みの失効に関する条項

第○条(申込みの失効)

注文承諾期間に受注者が発注者に対し承諾の通知をしなかった場合、当該注文承諾期間が経過したことをもって、個別契約の申込みは失効する。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




注文書・発注書の交付だけで自動的に契約が成立する合意がある場合

3つ目は、取引基本契約書などにより、注文書・発注書の交付だけで、完全に自動的に契約が成立する合意がある場合です。

一般的な企業間取引では、通常の取引基本契約書では、すでに触れたような「承諾期間」の設定があり、受注者には、注文書・発注書による申込みを拒否する権利もあります。

しかし、一部の特殊な関係(例:親会社・子会社間の契約)では、「発注=契約成立」となる手続きとする場合もあります。

こうした手続きについて、取引基本契約書においてあらかじめ合意がある場合は、個々の注文書・発注書による申込みに対し、わざわざ承諾がなくても、契約は成立します。

ただし、この場合は、後述のとおり、注文書・発注書に収入印紙を貼らなければなりません。

ポイント
  • 取引基本契約書等により、承諾期間を設定した場合、その承諾期間を経過したときに契約が自動的に成立することもある。
  • 商法第509条が適用される場合は、特に特約がなければ、注文書・発注書による申込みがあった場合、受注者がその申込みへの諾否の通知を怠ったときは、契約は成立する。
  • 取引基本契約書等により、「注文書・発注書による申込み=契約の自動成立」とする場合もある。





取引基本契約書とセットで使う

単独で使う場合は契約条件を書ききれない

すでに触れたとおり、企業間取引において、注文書・発注書は、取引基本契約書とセットで使うものです。

【意味・定義】基本契約・取引基本契約とは?

「基本契約・取引基本契約」とは、継続的取引の基本となる契約であって、個々の個別の契約に共通して適用される契約条項が規定されたものをいう。

取引基本契約書につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

基本契約・取引基本契約とは?

法的には、注文書・発注書と注文請書・受注書だけを使う場合であっても、契約自体は有効に成立します。

ただし、通常の企業間取引では、注文書・発注書や注文請書・受注書だけでは、契約条件が書ききれません。

このため、よほど単純な取引を除いて、ほとんどの場合は、取引基本契約書をセットで、注文書・発注書を使います。

下請法の三条書面としても使うことができる

なお、「取引基本契約書+注文書・発注書+注文請書・受注書」のセットは、下請法のいわゆる「三条書面」としても機能します。

このため、下請法が適用される取引において、適法な受発注の手続きをする方法としても、注文書・発注書を使うことができます。

当然ながら、取引基本契約書と注文書・発注書の記載内容に、三条書面の必須記載事項がすべて記載されていなければなりません。

三条書面の必須記載事項

  1. 親事業者及び下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
  2. 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  3. 下請事業者の給付の内容
  4. 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
  5. 下請事業者の給付を受領する場所
  6. 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
  7. 下請代金の額(算定方法による記載も可)
  8. 下請代金の支払期日
  9. 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
  10. 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  11. 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
  12. 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日及び決済方法

三条書面につきましては、詳しくは、次のページ(弊所運営の姉妹サイトのページです)をご覧ください。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項や契約書との違いは?

ポイント
  • 一般的な企業間取引では、契約条項が多いため、注文書・発注書は、取引基本契約書とセットで使う。
  • 下請法第3条に適合した内容の場合は、取引基本契約書+注文書・発注書は三条書面として扱われる。





【補足】実は注文書には収入印紙を貼る必要がない

注文書は原則として課税文書に該当しない

すでに触れたとおり、注文書は、単に契約の申込みの書面でしかありません。

このため、実は、注文書は課税文書ではなく、原則として収入印紙を貼る必要がありません。

[平成29年4月1日現在法令等]

 契約とは、申込みとその申込みに対する承諾によって成立するものですから、契約の申込み事実を証明する目的で作成される単なる申込書、注文書、依頼書等(以下「申込書等」という。)は、通常、課税対象にはなりません。(以下省略)

完全自動成立の注文書は課税文書

もっとも、注文書を送付しただけで自動的に契約が成立する手続きとした場合、その注文書は、課税文書となります。

[平成29年4月1日現在法令等]

(途中省略)次に掲げるものは、一般的に契約書に該当するものとして取り扱われています。

(1)契約当事者の間の基本契約書、規約又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものは除かれます。

(2)(以下省略)

このため、注文書の送付により完全に自動的に契約が成立する手続きでは、印紙税の節約のメリットはありません。

ポイント
  • 原則として、注文書・発注書に収入印紙を貼る必要はない。
  • 例外として、契約が完全に自動で成立する注文書については、収入印紙を貼る必要がある。