このページでは、問題が多い契約書を見抜くコツとして、業務プロセスが自動化されてない契約書について解説しています。
「業務プロセス」というと、契約書とあまり関係がないように思われがちですが、契約書にとっては、かなり重要です。
契約は、一種のアルゴリズムのようなものであり、全体としても個別の契約条項にしても、途中で機能しなくなることがあってはいけません。
このため、契約書を作成する場合は、あらゆるイレギュラーを想定して、どんな事態であっても、自動的に業務が動くように作成します。
このページでは、こうした契約内容としての業務プロセスの自動化について、解説しています。
契約書で業務プロセスを自動化できる
企業間取引では複雑な業務プロセスがある
契約というのは、コンビニでの売買のような極めて単純なものから、共同事業契約のように、極めて複雑なものまであります。
こうした複雑な企業間取引の契約では、同じく複雑な業務プロセスを伴います。
企業内の業務プロセスは、運用しながら整備することもできますが、企業間取引の業務プロセスは、そうもいかない部分が大半です。
特に、企業間取引では、業務プロセスを整備していない状態でイレギュラーが発生した場合、膨大な損害が発生するリスクがあります。
そして、このようなイレギュラーに対応した契約書にしておかないと、発生した損害の負担を巡って、トラブルになります。
企業間取引では契約書は一種のマニュアル
このように、企業間取引では、イレギュラーが発生すると、大きな損害する場合があります。
そこで、企業間取引の契約書では、あらかじめイレギュラーが発生することを想定し、そのイレギュラーを処理する業務プロセスも規定しておきます。
こうして、業務プロセスを「自動化」しておくことにより、損害を最小限にとどめるのも、契約書の役割です。
多くのイレギュラーに対応した契約書は、一種のマニュアルとなり、業務プロセスの自動化にもつながります。
ポイント
- 企業間取引の契約では、思った以上に複雑な業務プロセスがある。
- 企業間取引では契約書は一種のマニュアル。このため、イレギュラーの処理が必須。
【具体例】売買契約における業務プロセス
例えば、企業間取引としての売買契約では、業務プロセスは、次のようになります。
売買契約の業務プロセス
- 見積りの提示
- 見積内容の交渉
- 見積りの承諾
- 注文書・発注書の発行
- 注文請書・受注書の発行
- 商品の納入・納品書の発行
- 商品の受領証書の発行
- 検査の実施・合否の判定
- 検査済証の発行
- 請求書の発行
- 代金の支払い
- 領収書の発行
これらの業務プロセスでは、買主か売主のどちらかが、手続上の行動をしなければなりません。
つまり、その手続を怠ると、たちどころに業務プロセスが滞ってしまうことになります。
例えば、これらの手続きでは、以下のようなイレギュラーがあります。
売買契約のイレギュラー(カッコ内)
- 見積りの提示(見積内容のミス・誤記)
- 見積内容の交渉
- 見積りの承諾
- 注文書・発注書の発行(買主による注文書・発注書の誤記、不発行等)
- 注文請書・受注書の発行(売主による注文請書・受注書の誤記・不発行等)
- 商品の納入・納品書の発行(売主による納入の遅れ、買主による受領拒否)
- 商品の受領証書の発行(買主による受領証書の発行拒否)
- 検査の実施・合否の判定(買主による検査の不実施、検査不合格)
- 検査済証書・合格証書の発行(買主による検査済証書・合格証書の不発行)
- 請求書の発行(売主による請求書の不発行、誤記)
- 代金の支払い(買主による代金の未払い)
- 領収証書の発行(買主による領収証書の不発行)
これらの中には、民法・商法をはじめとした法律で対処できるものもありますが、そうでないものが大半です。
このため、契約書では、こうした業務プロセスのイレギュラーについても、規定しておく必要があります。
ダメな契約書ほどイレギュラーを想定していない
いい契約書は業務プロセスが自動的に処理される
しっかりと作り込まれた契約書は、こうしたイレギュラーについても対処しています。
このため、いい契約書があれば、イレギュラーが発生しても、あらかじめ規定されたイレギュラーへの対処の契約条項にもとづき、対処ができます。
例えば、上記の例では、売主からの注文請書の発行がない場合は、注文書の発行日から一定期間が経過した時点で、自動的に契約が成立するようにします。
これは、検査の場合でも同様で、買主による検査がない場合は、一定期間が経過した時点で、自動的に検査が合格となるようにします。
もっとも、商品や支払いの遅れまでなかなか自動化はできません。
いい加減な契約書はイレギュラーを想定していない
これに対し、いい加減な契約書は、そもそもイレギュラーを想定していません。
言いかえれば、スムーズに取引が進む場合のことしか規定されていない、とも言えます。
極端な言い方になりますが、何の問題もなく、スムーズに取引が進む場合のことしか規定していない契約書は、作成する意味がありません。
契約書は、本来は、イレギュラーやトラブルが発生した場合の対処の規定が重要なのであって、何の問題もない取引について規定しても、意味がないのです。
契約書は「起きて欲しくないこと」を想像しながら作成する
このように、契約書は、イレギュラーやトラブルなど、本来は起きて欲しくないことを想像しながら作成するものです。
誰でも想像できる、通常通りの業務プロセスだけを規定しても、契約書としては機能しません。
イレギュラーやトラブルを想定するには、想像力が必要となると思われがちですが、実は、大半は経験と知識でカバーできます。
逆にいえば、契約書の作成者に経験と知識がなければ、想像力だけで対処しなければなりません、
ポイント
- ダメな契約書はイレギュラーに対処していないどころか、そもそもイレギュラーを想定していない。
- いい契約書は、イレギュラーが発生した場合の対処まで明記している。
- 契約書は「起きて欲しくないこと」を想像しながら作成するもの。何の問題もない日常的なやり取りだけを規定するのでは、契約書を作成する意味がない。
契約書で業務プロセスの「自動化・見える化」する
契約書の作成ではイレギュラー・トラブルの可視化・言語化が重要
このように、いい契約書は、業務プロセスが可視化・言語化され、イレギュラーが発生した場合も、対処が自動化されています。
これに対し、ダメな契約書は、誰でも思いつくような問題がない場合の業務プロセスしか規定されていません(場合によってはそれすら規定されていません)。
つまり、いい契約書を作成するためには、まずは、業務プロセスやイレギュラーを可視化・言語化したうえで、その対処を規定する必要があります。
当然ながら、まだ運用していないどころか、締結すらしていない契約についての業務プロセスやイレギュラーですから、可視化・言語化するには、それなりの時間・手間がかかります。
イレギュラー・トラブルの想定で専門家の力を借りる
特に、イレギュラーやトラブルは、そう簡単に発生するものではないため、なかなか思いつくものではありません。
ただ、実は、一般的な企業間取引におけるイレギュラーやトラブルは、すでに過去に多くの事例があります。
そして、契約実務の専門家は、こうした過去の事例の多くを把握していて、イレギュラーやトラブルを知っています。
このため、契約書を作成する際には、こうした専門家からアドバイスを受け、専門家のイレギュラー・トラブルに関する知識や経験を活かすべきです。
ポイント
- 契約書の作成では、イレギュラー・トラブルの可視化・形式知化が重要。
- イレギュラー・トラブルの想定で専門家の力を借りる