このページでは、問題が多い契約書を見抜くコツとして、目的が不明な契約の問題点について解説しています。

目的というのは、文字どおり、契約の目的のことです。

一般的に、契約の目的は、前文に規定されているか、どこか独立した条項(たいていは第1条の目的条項)で規定されています。

前文にしろ、目的条項にしろ、契約の目的を記載する場合は、契約全体の概要について規定します。

こうした目的が明らかでない契約書は、そもそも作成者が契約の全体像を把握していない可能性があります。

このページでは、こうした目的が不明な契約書の問題点について、解説します。




目的が不明=契約が不明

目的には契約の概要を規定する

一般的に、契約の目的は、契約書の前文または第1条(場合によっては第2条)に規定されています。

この契約の目的には、契約の概要=契約当事者の権利義務の概要を規定することで、契約当事者が、この契約によって何をするのかを規定します。

よくありがちな話ですが、目的条項は、「…相互に誠意をもって契約を履行する。」のような、いわゆる信義誠実の原則=信義則を規定するものではありません。

信義誠実の原則は、民法第1条第2項に規定されている、民法の基本原則です。「信義則」という略称もあります。

【意味・定義】信義誠実の原則(信義則)とは?

信義誠実の原則(信義則)とは、私的取引関係において、相互に相手方を信頼し、誠実に行動し、裏切らないようにするべき原則をいう。

民法第1条(基本原則)

1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

なお、目的条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

契約書における目的条項の意味・書き方・規定のしかたは?信義誠実の原則を書く必要はある?

前文や目的条項を見れば契約書の良し悪しがすぐわかる

このように、契約の目的には、契約(=契約当事者の権利義務)の概要を規定します。

当然ながら、契約の概要は、契約の全体像を理解していないと、規定できません。

このため、いい加減な契約書は、目的が不明確であったり、すでに触れた「信義誠実の原則」を規定して、お茶を濁している場合が多いです。

つまり、前文や目的条項で目的が明確になっていない契約書は、作成者自身が契約の全体像を把握していない可能性があります。

そういう意味では、前文や目的条項の契約の目的を見れば、契約書の良し悪しはすぐにわかります。

契約書の前文の書式・書き方・ルールは?

目的が不明な契約書は個々の条項も不明なことが多い

こうした目的が不明な契約書は、個々の契約条項の権利義務についても、不明なことが多いものです。

個々の契約条項の権利義務が不明だからこそ、目的が不明とならざるを得ないとも言えます。

いずれにせよ、目的や契約条項の権利義務が不明な契約書は、トラブルになった場合に機能しません。

当然ながら、こうした目的が不明な契約書の使用は、避けるべきです。

ポイント
  • 契約の目的では、契約の概要=契約当事者の権利義務を規定する。
  • 前文や目的条項を見れば、契約書の良し悪しがすぐわかる。
  • 目的が不明な契約書は、個々の条項も不明なことが多い。





悪い契約の目的の書き方とは?

信義誠実の原則は必要ない

信義誠実の原則は民法上当然の原則

それでは、具体的な契約の目的の書き方について見てみましょう。

まずは、悪い契約の目的から。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】目的に関する条項

第1条(目的)

本契約は、発注者および受注者が、各々が対等な立場において、日本国の法令を遵守して、互いに協力し、信義を守り、誠実に各々の義務を履行し、もって相互の事業の発展に貢献することを目的とする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




この記載例は、いわゆる、信義誠実の原則を規定した、典型的な目的条項です。

信義誠実の原則は、民法第1条第2項に規定された当然の原則であり、わざわざ契約に規定するまでもなく、契約当事者は遵守しなければならないものです。

あってもなくてもいい目的は無意味

この記載例に書いている内容自体は、特に良くも悪くもないものです。

ただ、内容が抽象的なうえに、当然のことしか書いていません。

このため、毒にも薬にもならず、何らかのトラブルとなった場合は、本来の契約書としての機能は発揮できません。

なお、このような規定があること自体は、特に問題というわけではなく、より具体的な規定がないことが問題です。

何も書いていないのと一緒の目的条項

次に、少し改善されたものを見てみましょう。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】目的に関する条項

第1条(目的)

本契約は、次の各号の事項を規定することを目的とする。

(1)発注者が受注者に対し、業務を委託し、受注者がこれを受託すること。

(2)発注者が受注者に対し、金銭を支払うこと。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




この記載例では、先程のものとは違って、業務委託契約であることと、発注者側に金銭の支払い義務があることがあるということが分かります。

ただ、これでは、業務委託契約であることしか分かりません。

また、業務委託契約であれば、通常は有償契約であるため、発注者側に金銭の支払い義務があるのは当然のことです。

このため、この目的条項では、業務委託契約であることしか規定されておらず、業務内容や契約形態は、一切わかりません。

これでは、何も書いていないのと一緒です。

いい加減な目的条項は作成者がそれしか書けないから?

こうした、あってもなくてもいいような目的条項や、何も書いていないような目的条項は、「他に書きようがないから」規定した可能性があります。

つまり、この契約書の作成者が、それしか書けないから書いているのではないか?ということです。

少なくとも、しっかりと契約の全体像を把握した作成者であば、このようなどうでもいい書き方はしません(あえて意図的にすることはあります)。

つまり、こうした目的が不明な契約書は、他の契約条項も怪しいと判断するべきです。

ポイント
  • 信義誠実の原則は、民法上当然の原則であり、わざわざ契約で規定する必要はない。
  • 業務委託契約にありがちな、単に契約のタイトルを分解しただけの目的条項は、何も書いていないのと一緒。
  • いい加減な目的条項は、作成者がそれしか書けないような実務能力・実務経験である可能性が高いため、個々の契約条項にも注意を要する。





良い契約の目的の書き方とは?

目的条項では簡潔に契約内容を規定する

次に、良い契約の目的を見てみましょう。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】目的条項

第○条(目的)

本契約は、次の各号の事項を規定することを目的とする。

(1)発注者が受注者に対し、食品の製造請負を注文し、受注者がこれを請負うこと。

(2)発注者が受注者に対し、前号の製造請負の報酬を支払うこと。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




これは、食品の製造に関する請負契約の例です。

このように、目的条項では、簡潔に契約当事者の権利義務と契約形態(この場合は請負契約)を規定しています。

当事者の権利義務をそれぞれ規定する

この記載例では、第1項で、発注者の権利=受注者の義務として、食品の製造に関する権利義務であることと、請負(契約)であることが明記されています。

先程の記載例と違って、業務内容が簡潔であっても記載されており、契約形態も請負契約であることが記載されています。

第2項は、発注者の義務=受注者の権利として、報酬=対価の支払いについて規定しています。

特に事業者間での契約は、いわゆる双務契約であることが多いため、契約当事者は、相互に対立する権利義務を有しています。

このため、双務契約での契約の目的としては、それぞれの権利義務について、少なくとも2種類は規定する必要があります。

特殊な事情があれば規定する

また、複雑な契約書であったり、複数の契約内容が混合している契約(=混合契約)である場合など、特殊な事情がある場合は、さらに内容を増やしてもいいでしょう。

例えば、上記の例で、発注者から受注者に対し、技術=特許権のライセンスがある場合は、次のように規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】目的条項

第○条(目的)

本契約は、次の各号を事項を規定することを目的とする。

(1)発注者が受注者に対し、食品の製造請負を注文し、受注者がこれを請負うこと。

(2)発注者が受注者に対し、前号の製造請負に必要な特許権の通常実施権を許諾すること。

(3)発注者が受注者に対し、第1号の製造請負の報酬を支払うこと。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




当然ながら、より詳細なライセンスの内容については、さらに続く契約内容で規定していきます。

ポイント
  • 目的条項では、簡潔に契約内容と契約形態を規定する。
  • 目的条項には、当事者のそれぞれの対立する権利義務について規定する。
  • 特殊な事情がある場合や複数の契約である場合は、そうした事情も反映した目的条項とする。