このページでは、契約書の雛形をそのまま使ってはいけない理由やリスク・デメリットについて解説しています。

特に雛形をビジネスで使う場合は、そのまま使ってはいけません。

そもそも、契約書は、ビジネスの内容に合ったものを使うべきです。

契約書の雛形にビジネスの内容を合わせるのは、本末転倒です。

それどころか、契約書の雛形の内容とビジネスの内容が合っていない場合、裁判では、ビジネスの実態よりも契約書の雛形の内容が優先してしまうリスクもあります。

このページでは、こうした契約書の雛形をそのまま使うリスクやデメリットについて、わかりやすく解説します。




【理由1】「契約内容が雛形と一緒」はあり得ない

完璧な契約書は存在しない

世の中にはたくさんの契約書がありますが、そのなかで「完璧な契約書」というものは存在しません。

どんな大手法律事務所が作成したフルオーダーの契約書も、完成度は高いかも知れませんが、「完璧」にはなりません。

これは、100人中100人の契約書の専門家にが、同じように思っているでしょう。

それほど、契約書を作る作業は難しいものです。

雛形の契約書は作り直したほうが早いレベルが”大半”

これは、専門家に依頼して作成してもらった契約書ですらそうですから、雛形の契約書は完璧であるはずがありません。

管理人は、数えきれないほどの契約書のリーガルチェックをしてきました。

そうした契約書の中には、他の専門家が作成したものもありますし、雛形の契約書もありますが、修正箇所がひとつもなかった契約書は、現在のところありません。

雛形には必ず修正箇所がある

どんなに作り込まれた契約書の雛形であっても、特定の取引を想定したものでない以上、必ず修正が必要な箇所がある。

もちろん、専門家が作成した契約書については、修正箇所はそう多くはありません。

ただ、雛形に関しては、修正で済めばいいほうで、全体的に修正箇所が多すぎて、作り直したほうが早いレベルのものが大半です。

原理的にどんな雛形でもビジネスの実態・内容には合わない

ほとんどの雛形は、内容どころか表現のレベルで修正が必要なものが多く、だからこそ、作り直したほうが早い、ということになります。

ごく少数ですが、表現に問題がないものもありますが、大抵は、契約書の記載が契約内容と合っていません。

これは当然のことで、その雛形の作成者は、その作成の時点では、特定の企業の特定の取引を想定して起案したかもしれません。

しかし、当然ながら、未来に、どこかの企業がなんらかの取引のために使うことを想定して作成してはいません。

よって、どんな契約書の雛形であっても、契約書の記載と契約内容が、ピタリと一致していることは、原理的にあり得ないのです。

ポイント
  • 完璧な契約書は存在しない。どんな契約書でも修正点はある。
  • 雛形の契約書は、修正点があるどころか、作り直したほうが早いレベルのものが”大半”。
  • どんな雛形でも、ビジネスの内容には原理的に合わない。





【理由2】高品質な雛形は無料では手に入らない

契約書の作成には費用と手間がかかる

そもそも、高品質な契約書というのは、作成する際にコストがかかるものです。

契約実務に精通した人が、何冊もの実務書・学術書の内容や判例をインプットし、膨大な時間と労力を費やすことによって、良い契約書はできあがります。

そのような契約書を公開するモノ好きな企業や団体は、まずいません。

例外として、公共の利益のため(例えば業界団体や官公署が一般向けに作成する場合)に公開する場合や、いわゆる「利用規約」として公開することが前提なっているものは別です。

契約書のデータは企業の財産であり公開されない

ましてや、企業にとっては、契約書の内容自体(=契約条件)が、自社にとっての重要な営業秘密=知的財産となっている場合があります。

契約書=営業秘密

企業にとって、契約書の雛形は、コストをかけて作成した営業秘密=知的財産。このため、よほどの事情がない限り、公開はしていない。

例えば、フランチャイズ事業のビジネスモデルなどでは、契約書の内容が生命線とされていますので、膨大なコストがかけられて契約書が作成されます。

当然、コストをかけた以上は、その内容を秘匿しようとします(ただし、小売のフランチャイズ契約を除く)。

ですから、契約書に対する意識が高い企業ほど、契約書の内容を秘匿します。

無料で公開されている雛形は秘匿する価値がない

逆にいうと、世の中に公開されている無料の契約書は、少なくとも、企業にとっては、秘匿する価値がないものであるといえます。

こうした雛形が、果たしてそのまま使えるレベルかといえば、疑問と言わざるを得ません。

もちろん、企業の事業上の戦略として、あえて高品質な雛形を無料で開示することもあるかもしれません。

しかしながら、こうした雛形が高品質であったとしても、すでに触れたとおり、必ずしも、実際の契約内容と適合しているとは限りません。

ポイント
  • 高品質な契約書の雛形は、無料では手に入らない。
  • 契約書のデータは、企業にとっては重要な財産であり、公開はされない。
  • 無料で公開されている雛形の契約書は、秘匿する価値・意味がないからこそ公開される。





【理由3】ネット上の雛形を使いこなせるか?

インターネットの契約書の雛形の「目利き」ができるか

最近では、インターネットの検索エンジンで検索することによって、簡単にWordファイルやpdfファイルの契約書を探すことができます。

もっとも、インターネットで検索して得られる雛形は、玉石混交で、「石」のほうが圧倒的に多いと言わざるを得ません。

膨大な検索結果として表示される契約書の雛形の中から、高品質な契約書を探し当てるためには、相当の目利きが必要になります。

果たして、雛形を使おうとしている人に、そのような目利きができるでしょうか?

業界団体や役所の雛形も完璧ではない

例外的に、各種業界団体や役所などがコストをかけて作成し、その業界団体の会員や、一般国民に向けて公開している契約書の雛形には、実用性が高いものもあります。

ただし、業界団体や役所が作成した契約書の中には、非常にレベルが低いものもあります。

このため、「業界団体や役所が公開しているから」という理由で、契約書の雛形を使うのは、オススメできません。

役所が作成した契約書の雛形の注意点・リスク・デメリットは?

結局、こうした業界団体や役所の雛形についても、高品質なものかどうかの、目利きが重要となるのです。

企業サービスとしての雛形も調整・修正が必要

最近では、企業がサービスの一環として、契約書の雛形を提供している場合もあります。

かつては、こうしたサービスは、直接課金される有償の雛形が中心でした。

現在では、他の契約書や法務・総務に関連するサービス・ソフトウェア・システム等に付随するもの、あるいは集客手法のひとつとして、無償の雛形も公開されることがあります。

こうした、企業のサービスとして公開されている雛形は、高品質なものがあります。

ただ、こうした高品質な契約書の雛形も、結局は、どの契約書が高品質なのか、という目利きと、自社のビジネスモデルに合わせた調整や修正が必要となります。

雛形の契約書の修正・調整のしかたは?

ポイント
  • インターネットを利用すれば膨大な雛形の契約書が手に入るが、その雛形の契約書を使いこなすには、品質を見極める目利きが必要となる。
  • 業界団体や役所が作成した雛形も完璧ではないし、場合によっては品質が低いものもある。これもまた、使いこなすには目利きが必要となる。
  • 企業サービスの一環として公開されている契約書の雛形であっても、結局は自社に適合した形で修正・調整が必要となる。





契約書の雛形は参考や材料に過ぎない

契約書の雛形はせいぜい参考程度のもの

では、雛形の契約書は、一切使ってはいけないのかといえば、そうではありません。

契約書の雛形の中には、参考になる条文や契約内容があることもあります。

ただ、逆にいえば、せいぜい参考程度にしかならないものがほとんどです。

たたき台やベースになるレベルの雛形が見つかったら、ラッキーと思ってもいいくらいです。

雛形は材料にして契約書を作成する

契約書の雛形は、個々の契約条項の材料にするくらいのもので、そのまま使うものではありません。

例えば、同じようなビジネスモデルの雛形を多数集め、各条項を詳細に検討し、自社のビジネスモデルにあった条項を集めることによって、自社の契約書を作成する場合など使用します。

雛形=材料

本来、契約書の雛形は、個々の契約条項を作成するための材料となる程度。

もちろん、こただ単に条文を継ぎ接ぎするだけでは意味がありません。

すでに触れたとおり、玉石混交、しかも石のほうが多い雛形の条項ですから、法律違反の条項があるかもしれませんし、自社にとって不利な条項があるかもしれません。

このような条項をひとつひとつ丁寧に、しかも正確に検証する作業をおこなって、初めて使い物になる契約書ができあがります。

雛形は目利きと修正のスキルがないと使いこなせない

結局、雛形を使いこなすには、その雛形の良し悪しを見抜く目利きのスキルがなければなりません。

これに加えて、その雛形を自社の契約内容に合った形に修正・調整ができなければなりません。

つまり、一から契約書を作成できるだけのスキルがなければ、結局のところ、契約書の雛形は使いこなせないのです。

どうしても雛形を使わざるを得ない場合は、せめて専門家のリーガルチェックを受けるべきです。

ポイント
  • 契約書の雛形はせいぜい参考程度のものであり、そのまま使っていいものではない。
  • 雛形は、高品質な契約書の材料にはなる。
  • 結局、契約書の雛形は、その良し悪しを見極める目利きと、自社の契約内容に適合させる修正・調整のスキルがないと、使いこなせない。