こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、契約交渉段階の注意点のうち、説明責任・情報提供義務について解説しています。

契約交渉や契約締結に必要な情報は、各契約当事者が自ら収集するのが原則です。

ただ、契約交渉段階であっても、各契約当事者は、まったく関係のない第三者とは違って緊密な関係にあるため、信義誠実の原則にもとづく責任が発生します。

このため、過去の判例では、こうした信義誠実の原則違反による、情報提供義務違反を認めたものもあります。

こうした契約交渉段階における情報提供義務は、改正民法では明文化は見送られたものの、判例によって確立した重要な制度であることは変わりません。

このページでは、こうした契約交渉段階における、情報提供義務について、解説します。

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契約交渉段階における情報提供義務とは?

あくまで情報は各契約当事者が自ら収集するのが原則

契約交渉・契約締結に必要な情報は、あくまで、その契約当事者が自ら収集するのが原則です。

ただ、過去の判例では、一方の契約当事者が、他方の契約当事者に対し、契約交渉段階における信義則上の説明責任・情報提供義務を負うことがある、とされます。

もっとも、これは、契約当事者間に情報量・情報処理能力などの格差がある場合などに限った話です。

また、個々の法律によっては、説明そのものを義務化している場合もあります。

契約交渉段階における法律上の説明責任につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

契約交渉段階における法律上の説明責任・情報提供義務

契約交渉段階における情報提供義務違反は不法行為

契約交渉段階における情報提供義務違反の責任の性質については、判例では、不法行為責任とされています。

契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。

ポイント

  • 契約交渉・契約締結に必要な情報は、あくまで、その契約当事者が自ら収集するのが原則。
  • ただし、信義誠実の原則により、一定の場合、契約当事者には、契約交渉段階における説明責任・情報提供義務が認められる(判例多数)。
  • 一部の法律では、説明責任が義務化されている。
  • 契約交渉段階における情報提供義務は、判例では、不法行為責任であり、契約責任としての債務不履行による責任ではない。
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改正民法での明文化が見送られた理由は?

一般的な要件としての明文が困難であるため見送られた

この契約交渉段階における情報提供義務の問題ですが、実は、平成29年成立の改正民法の検討の段階では、明文化が検討されていました。

しかしながら、次の理由等により、明文化は見送られました。

改正民法で契約交渉段階の情報提供義務の明文化が見送られた理由

  • 情報提供義務が認められる場合は様々であり、民法において、一律に情報提供義務が課される要件を明文化するのが困難であるから。
  • 明文化することで、情報収集の自己責任が過度に強調され、逆に情報提供義務が拡大解釈されるおそれがあるから。
  • 法制審議会の審議結果を踏まえ、コンセンサス形成が困難であることから(参照:民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その3) 補充説明p.30)。

改正民法の中間試案等の条文案

ちなみに、以下が、中間試案の時点における条文案です。

2 契約締結過程における情報提供義務

契約の当事者の一方がある情報を契約締結前に知らずに当該契約を締結したために損害を受けた場合であっても,相手方は,その損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし,次のいずれにも該当する場合には,相手方は,その損害を賠償しなければならないものとする。

(1)相手方が当該情報を契約締結前に知り,又は知ることができたこと。

(2)その当事者の一方が当該情報を契約締結前に知っていれば当該契約を締結せず,又はその内容では当該契約を締結しなかったと認められ,かつ,それを相手方が知ることができたこと。

(3)契約の性質,当事者の知識及び経験,契約を締結する目的,契約交渉の経緯その他当該契約に関する一切の事情に照らし,その当事者の一方が自ら当該情報を入手することを期待することができないこと。

(4)その内容で当該契約を締結したことによって生ずる不利益をその当事者の一方に負担させることが,上記(3)の事情に照らして相当でないこと

明文化していないだけで説明責任・情報提供義務はある

なお、改正民法において明文化していないとはいえ、契約交渉段階における説明責任・情報提供義務自体は、判例で確立した概念です。

つまり、「改正民法で明文化しない=説明責任・情報提供義務は存在しない」というわけではありません。

もっとも、どのような説明責任・情報提供義務があるかは、民法改正の際に明文化が見送られたように、一般化できるものではありません。

このため、契約交渉にあたっては、個々の契約交渉の実態に応じて、信義誠実の原則に従い、信頼関係を損ねることがないよう、交渉を進めるべきです。

ポイント

  • 一律の要件を規定することが困難であること、明文化による自己責任の過度の強調と情報提供義務の拡大解釈のおそれがあること、コンセンサスの形成が困難であること等から、改正民法では、契約交渉段階における情報提供義務の明文化は、見送られた。
  • 明文化していないものの、契約交渉段階における説明責任・情報提供義務は、判例において確立した制度であるため、信義誠実の原則に従って、説明責任・情報提供義務を果たしながら交渉する必要がある。