契約交渉段階では、企業間取引にせよ、消費者と事業者との取引にせよ、様々な駆け引きがおこなわれます。
こうした駆け引きは、大半のものは適法な行為ですが、当然ながら、行き過ぎた行為は、違法行為となります。
このページでは、こうした契約交渉段階での勧誘・広告に関する法規制について、解説します。
行き過ぎた駆け引き・交渉は違法行為となる
適度な駆け引き・交渉にとどめないと違法行為となる
事業者がおこなう契約の勧誘活動は、憲法で保証されている「営業の自由」もあるため、原則としては自由におこなうことができます。
ただ、これはあくまで原則であり、例外として、多くの規制が存在します。
このため、事業者としては、いくら「営業の自由」があるからといって、好き勝手に勧誘活動や契約交渉をしていいわけではありません。
契約実務では、こうした例外としての規制が、非常に重要となります。
一部の契約では説明責任・情報提供義務がある
また、一部の契約では、法律にもとづき、一定の説明責任・情報提供義務が課される場合があります。
こうした、契約交渉段階における法律上の説明責任・情報提供義務につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
なお、特に法律上の規制がなくても、民法上の信義誠実の原則により、一定の説明責任や情報提供義務が課される場合もあります。
信義誠実の原則は、民法第1条第2項に規定されている、民法の基本原則です。「信義則」という略称もあります。
【意味・定義】信義誠実の原則(信義則)とは?
信義誠実の原則(信義則)とは、私的取引関係において、相互に相手方を信頼し、誠実に行動し、裏切らないようにするべき原則をいう。
民法第1条(基本原則)
1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
こうした、信義誠実の原則にもとづく契約交渉段階における説明責任・情報提供義務につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
ポイント
- 契約交渉段階における行き過ぎた駆け引き・交渉は、違法行為となる。
- 一部の契約では、法律にもとづく説明責任・情報提供義務がある
- すべての契約では、民法上の信義誠実の原則にもとづく説明責任・情報提供義務がある
勧誘・契約交渉で違法となる行為一覧
違法行為 | 根拠法 |
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詐欺 |
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強迫・脅迫 |
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優良誤認 |
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有利誤認 | 不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法) |
不実告知 |
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虚偽告知 |
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断定的判断の提供 |
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不利益事実の不告知 |
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事業者の氏名等を明示しないこと |
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勧誘の旨の不告知 |
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再勧誘 |
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事実の不告知 | 特定商取引に関する法律(特定商取引法) |
キャッチセールス・アポイントメントセールス | 特定商取引法(特定商取引に関する法律) |
広告における指定事項の不表示 |
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誇大広告 |
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虚偽広告 |
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公序良俗違反の広告 | 医療法 |
指定事項以外の広告 |
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未承諾者に対する電子メール広告・ファクシミリ広告の提供 | 特定商取引法(特定商取引に関する法律) |
顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為 | 特定商取引法(特定商取引に関する法律) |
不招請勧誘 |
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迷惑勧誘 |
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重要事項の不告知 |
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重要事項の不実告知 |
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重要事項の不実告知の勧誘 | 保険業法 |
重要事項の告知の妨害 | 保険業法 |
重要事項の不告知の勧誘 | 保険業法 |
損失負担・利益保証 | 商品投資に係る事業の規制に関する法律 |
勧誘を受ける意思の有無の不確認 |
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鉄道地内における勧誘等 | 鉄道営業法 |
道路における勧誘等(道路仕様の許可を受けていない場合) | 道路交通法 |
虚偽表示 |
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偽装表示 | 不正競争防止法 |
陳列・広告 | 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律 |
無許可事業者による広告 | 積立式宅地建物販売業法 |
名義貸しによる広告 | 積立式宅地建物販売業法 |
広告 |
|
詐欺広告・誤認広告 | 軽犯罪法 |
(※上記の内容は契約交渉段階・勧誘・広告において一定の規制がある法律の抜粋です)
ポイント
- すべての契約交渉は、民法・刑法・景品表示法により規制される。
- 事業者と消費者との契約交渉は、消費者契約法で規制される。
- 特定の勧誘形態による事業者と消費者との契約交渉は、特定商取引法により規制される。
- 特定の分野の契約交渉は、それぞれに適用される法律で規制される。
優越的地位の濫用に注意
【意味・定義】優越的地位の濫用とは?
継続的な契約関係にある当事者間では、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当しないように注意する必要があります。
優越的地位の濫用とは、独占禁止法第2条第9項第5号に規定する行為のことです。
独占禁止法第2条(定義)
(第1項から第8項まで省略)
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
(第1号から第4号まで省略)
(5)自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
(6)(省略)
次の3つの条件(要件)に該当した場合、優越的地位の濫用に該当します。
優越的地位の濫用の3要件
- 事業者が優越的地位にあること。
- 事業者の行為が正常な商慣習に照らして不当であること。
- 事業者による濫用行為があること。
契約交渉における不当な要求は独占禁止法違反
契約交渉段階では、「継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること」(同号イ)や「継続して取引する相手方に対し、自己のために金銭、役務その他経済上の利益を提供させること」(同号ロ)が問題となります。
このようなことを、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」おこなってしまうと、独占禁止法違反となります。
前者の場合は、優越的地位にある親事業者が、下請負業者に対して、下請負契約とは関係のない物品の購入を迫ることが該当します。
後者の場合は、優越的地位にある小売店が、メーカーの社員に対して、在庫整理をさせることが該当します。
ポイント
- すべての事業者間取引では、独占禁止法が適用される。
- 不当な要求をすると、優越的地位の濫用として、独占禁止法違反となる。