このページでは、契約交渉段階の注意点のうち、法律にもとづく説明責任・情報提供義務について解説しています。

契約交渉や契約締結に必要な情報は、各契約当事者が自ら収集するのが原則です。

しかし、一部の法律には、契約交渉段階や、契約締結時に、事業者に対し一定の説明責任・情報提供義務を課しているものがあります。

こうした法律は、消費者をはじめとした、弱者を保護するための法律です。

当然ながら、説明責任・情報提供義務を果たさない事業者には、行政処分があったり罰則が科されたりします。

このページでは、こうした事業者に課される、契約交渉段階における説明責任・情報提供義務について解説します。




特別法にもとづく説明責任・情報提供義務とは?

あくまで情報は各契約当事者が自ら収集するのが原則

契約交渉・契約締結に必要な情報は、あくまで、その契約当事者が自ら収集するのが原則です。

このため、契約交渉の際に、相手方に対し、説明や情報提供をしなかったとしても、本来は、責任を問われることはありません。

しかしながら、例外として、説明責任・情報提供義務が課される場合が2つあります。

ひとつは、民法上の信義誠実の原則にもとづく説明責任・情報提供義務です。

信義誠実の原則は、民法第1条第2項に規定されている、民法の基本原則です。「信義則」という略称もあります。

【意味・定義】信義誠実の原則(信義則)とは?

信義誠実の原則(信義則)とは、私的取引関係において、相互に相手方を信頼し、誠実に行動し、裏切らないようにするべき原則をいう。

民法第1条(基本原則)

1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

この信義誠実の原則にもとづく説明責任・情報提供義務につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】契約交渉段階における信義誠実の原則による説明責任・情報提供義務とは?

そして、もうひとつが、法律(特別法)にもとづく説明責任・情報提供義務です。

法律(特別法)にもとづき説明責任・情報提供義務が課される

一部の法律には、契約当事者に対し、民法では課されていない説明責任・情報提供義務を課しているものがあります。

このような法律は、いわゆる「特別法」であり、この場合の民法は、一般法になります。

特別法とは、ある特定の事項について、一般法よりも優先して適用される法律のことです。

【意味・定義】特別法とは?

特別法とは、ある特定の事項について、一般法よりも優先して適用される法律をいう。

【意味・定義】一般法とは?

一般法とは、ある事項全般について、一般的に適用される法律をいう。

一般法と特別法の関係につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

一般法と特別法とは?違い・具体例・優先などをわかりやすく解説

説明責任・情報提供義務は弱者保護を目的とした法律

このような、契約当事者に対し説明責任・情報提供義務を課している特別法は、弱者の保護を目的としたものです。

この弱者の典型的な例は消費者ですが、事業者であっても、特に保有情報の格差がある分野の契約(例:不動産・金融商品など)では、保護されることになります。

逆に、説明責任・情報提供義務があるのは、すべて事業者です。

特に、一定の規制があり、許認可が必要な事業の事業者の場合が多いです。

ポイント
  • あくまで情報は各契約当事者が自ら収集するのが原則。ただし、信義誠実の原則による説明責任・情報提供義務が課される場合はある。
  • 特別法にもとづき、説明責任・情報提供義務が課される場合がある。
  • 説明責任・情報提供義務を課している法律は、消費者・事業者を問わず、弱者の保護を目的としている。





説明責任・情報提供義務がある契約の具体例は?

契約交渉段階における説明責任・情報提供義務がある契約・法律一覧(抜粋)

具体的に、契約交渉段階で説明責任・情報提供義務がある契約は、次のとおりです。

契約説明責任・情報提供義務がある者根拠法
消費者契約事業者消費者契約法第4条
携帯電話インターネット接続役務の提供に関する契約携帯電話インターネット接続役務提供事業者等青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律第14条
住宅宿泊管理受託契約住宅宿泊管理業者住宅宿泊事業法(民泊新法)第33条第1項
住宅宿泊仲介契約住宅宿泊仲介業者住宅宿泊事業法(民泊新法)第13条第59条第1項
新築住宅建設工事請負契約供託建設業者特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律第10条
新築住宅売買契約供託宅地建物取引業者特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律第15条
探偵契約探偵業者探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)第8条第1項
マンション管理受託契約マンション管理業者マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)第72条第1項
不動産売買・交換・賃貸借・割賦販売・信託受益権売買契約宅地建物取引業者宅地建物取引業法(宅建業法)第35条第1項・第2項・第3項
建設工事設計受託契約・建設工事監理受託契約建築士事務所の開設者建築士法第24条の7第1項
金融商品取引契約金融商品販売業者等金融商品販売法第3条第1項
金銭消費貸借契約貸金業者貸金業法第15条第1項
小売業に関するフランチャイズ契約特定連鎖化事業を行う者中小小売商業振興法第11条第1項
ペット・愛護動物売買契約動物の販売を業として行う者動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)第8条第1項
積立式宅地建物販売契約積立式宅地建物販売業者積立式宅地建物販売業法第34条第1項
商品取引契約商品先物取引法第208条第1項商品先物取引業者
商品取引契約(仲介行為)商品先物取引法第240条の18第1項商品先物取引仲介業者
信託契約信託会社信託業法第25条
サービス付き高齢者向け住宅入居契約登録事業者高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住居安定確保法)第17条
建物解体工事請負契約建設業を営む者建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律第12条第1項
著作権等管理委託契約著作権等管理事業者著作権等管理事業法第12条
不動産特定共同事業契約不動産特定共同事業者不動産特定共同事業法第24条第1項
定期建物賃貸借契約建物の賃貸人借地借家法第38条第2項
雇用契約・労働契約(派遣労働者向け)派遣元事業主労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)第31条の2第1項
電気通信役務の提供に関する契約(媒介等を含む)媒介等業務受託者電気通信事業法第26条第1項
熱供給契約熱供給事業者等熱供給事業法第14条第1項
建築物解体・改造・補修等工事請負契約建設工事請負契約の受注者大気汚染防止法第18条の17第1項
電気小売供給契約(媒介・取次ぎ・代理)小売電気事業者等電気事業法第2条の13第1項
小売供給契約ガス小売事業者等ガス事業法第14条第1項
企画旅行契約、手配旅行契約その他旅行業務に関する契約旅行業者等旅行業法第14条の4第1項
有料放送の役務の提供に関する契約有料放送事業者・媒介等業務受託者放送法第150条
雇入契約船舶所有者船員法第32条第1項

(※上記の内容は説明責任・情報提供義務がある法律の一部です)

説明義務違反は行政処分・刑事罰の対象となる

これらの説明責任・情報提供義務を課している法律の大半は、事業者に対して、なんらかの規制を課している法律です。

また、これらの事業者のほとんどは、法律にもとづく許認可を取得する義務もあります。

このため、契約交渉段階の説明義務・情報提供義務を果たさない場合、こうした法律にもとづく行政処分(営業停止処分・許認可の取消しなど)を受けることになります。

悪質な場合は、刑事罰が科されることになります。

ポイント
  • 一部の規制の根拠となる法律では、事業者の側に説明責任・情報提供義務を課している。
  • 説明義務違反は、行政処分・刑事罰の対象となる。





契約に関して説明を受ける側の場合は要注意

法規制ある=”危ない契約”

事業者の側に説明責任・情報提供義務がある契約では、説明を受ける立場になった場合、特に気をつけなければなりません。

というのも、こういう契約は、過去にトラブルがあった契約だからこそ、わざわざ法律まで作って規制をしています。

事業者の側も、すべてが善良な事業者であるとは限らず、一定数の悪質な業者がいるものです。

このため、こうした説明を受ける場合は、他の契約以上に、契約内容をよく確認する必要があります。

説明を受ける場合は「理解する」まで説明を受ける

説明を受ける側として重要なことは、こうした説明を受けた際に、単に説明を受けるだけではなく、「理解」することです。

法律にもとづく説明義務は、あくまで「説明すること」が義務なのであって、「理解させること」までは求められていません。

このため、大半の事業者は、単に口頭で一方的に説明したり、書面を提示するだけで、理解させようとはしません。

ですから、理解できない事項があった場合は、納得・理解できるまで、繰り返し説明を求めたり、質問をするべきです。

重要事項説明書や確認書には安易にサインしない

なお、事業者の側は、説明が終わると、必ず重要事項説明書や確認書にサインを求めます。

この重要事項説明書や確認書には、「説明を受けた」旨だけではなく、「説明を理解した」旨まで記載されていることがほとんどです。

これにサインしてしまうと、実際には説明を受けてなかったり、説明を理解していなかったりしても、説明を受けた・理解したことにされてしまいます。

このため、安易に(重要事項)説明書や確認書には、サインしないようにしてください。

なお、確認書のリスクにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

確認書の意味・リスクとは?法的効果・法的拘束力はあるの?

ポイント
  • わざわざ説明責任・情報提供義務の法規制ある契約は、過去にトラブルが頻発した”危ない契約”。
  • 説明を受ける場合は、単に説明を受けるのではなく、「理解する」まで説明を受ける。
  • (重要事項)説明書や確認書には、安易にサインせずに、事業者の説明に完全に理解・納得できた場合にだけサインする。





法律により広告・勧誘に規制がある契約は?

なお、このページで紹介した法規制は、契約交渉段階における説明責任・情報提供義務ですが、逆に、契約交渉段階・勧誘における禁止行為や、広告規制がある場合もあります。

こうした規制につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

契約交渉段階における勧誘・広告に関する法規制とは?