こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、契約交渉段階の注意点のうち、不当破棄の責任について解説しています。

契約は、いったん成立すると、当然ながら守らなかければなりません。

逆にいえば、契約が成立するまでの間、つまり契約交渉の段階では、交渉を打ち切ったとしても、原則としては責任は発生しません。

しかしながら、一定の条件のもとでは、不当破棄として、責任が発生するリスクがあります。

こうした契約交渉段階における不当破棄の責任は、改正民法では明文化は見送られたものの、判例によって確立した重要な制度であることは変わりません。

このページでは、こうした契約交渉段階における、不当破棄の責任について、解説します。

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契約交渉段階における不当破棄の問題とは?

締結自由の原則=契約締結拒否の自由

契約交渉の段階では、その契約を締結するかどうかは、当然ながら、契約当事者が自由に決めることができます。

これは、契約自由の原則のうちのひとつの、「締結自由の原則」によるものです。

このため、契約交渉の段階で、一方的に契約交渉を打ち切ったとしても、原則として、その当事者は、なんら責任を負うことはありません。

しかしながら、過去の判例では、こうした契約交渉の段階で、”不当に”契約交渉を打ち切った=破棄した場合、一定の責任を認めています。

契約交渉段階における不当破棄によって生じる損害=責任とは?

こうした不当破棄によって生じる損害、言いかえれば、不当破棄をした当事者が賠償するべき責任の典型例は、いわゆる「先行行為」によるものです。

先行行為とは、契約締結前の段階で、その契約が締結されることを想定して、先行して何らかの行為をおこなうことです。

具体的には、次のような行為が考えられます。

契約交渉段階における先行行為の具体例

  • 契約にもとづく新規事業のための事務所の賃貸
  • 契約にもとづく新規事業のためのコンサルタント・弁護士等の専門家への調査依頼
  • 請負契約・取引基本契約における生産設備の増強
  • 新たな労働者の雇入れやその準備
  • M&A契約におけるデューデリジェンス
  • 共同事業契約やライセンス契約におけるフィジビリティスタディ

当然ながら、こうした行為には、一定の費用が発生します。

契約交渉段階で不当な破棄がなされた場合、こうした費用は無駄=損害となります。

このため、こうした先行行為で費用が発生した場合は、破棄した当事者に一定の責任が発生します。

これが、契約交渉段階における不当破棄の問題です。

ポイント

  • 契約交渉では、「締結自由の原則」により、原則として、自由に契約交渉を打ち切ることができる。
  • ただし、過去の判例では、主に信義誠実の原則違反により、契約交渉段階における不当な破棄について、破棄をした当事者に一定の責任を認めている。
  • 不当に契約交渉を破棄した当事者が負うべき責任は、契約交渉時の先行行為の費用負担等。
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安易に契約締結の拒否をしてはいけない

責任の性質は信義誠実の原則違反

契約交渉段階における不当破棄の責任は、主に次の3つが考えられます。

契約交渉段階における不当破棄の責任

  • 不法行為
  • 契約行為(債務不履行)
  • 信義誠実の原則違反(にもとづく不法行為)

このうちのどれが契約交渉段階における不当破棄の責任の本質であるかは、見解・解釈が分かれています。

ただ、多くの判例では、信義誠実の原則違反にもとづく不法行為を認定しています(最高裁判決平成2年7月5日等)。

成立直前の契約締結拒否は正当な理由が必要

このように、いずれの責任にせよ、契約交渉段階において、契約交渉を不当に破棄した場合、損害賠償責任が発生することがあります。

これは、言いかえれば、契約の締結を拒否するためには、損害賠償責任を負うか、または、正当な理由が必要となるということです(東京高裁判決昭和61年3月17日)。

特に、契約成立の直前、あるいは実質的に契約が成立している段階での契約締結の拒否は、いくら契約書を取交していないからといって、ノーリスクとはいきません。

契約交渉に時間がかかり、契約成立に近づけば近づくほど、不当破棄のリスクは高くなるため、大規模な契約では、特に注意が必要です。

ポイント

  • 判例では、契約交渉段階における不当破棄の責任の性質は、信義誠実の原則違反とされる。
  • 成立直前の契約締結拒否には、正当な理由が必要。正当な理由がなければ、契約締結拒否により、一定の責任が発生するリスクがる。
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改正民法での明文化が見送られた理由は?

要件の明文化の困難・濫用のリスク等により見送られた

この契約交渉段階における不当破棄の問題ですが、実は、平成29年成立の改正民法の検討の段階では、明文化が検討されていました。

しかしながら、次の理由等により、明文化は見送られました。

改正民法で契約交渉段階の不当破棄の明文化が見送られた理由

  • 判例では、契約交渉段階の不当破棄に関する統一的な要件がなく、具体的な要件として明文化することで、従来の解釈運用を狭めるおそれがあるから。
  • 逆に、抽象的な要件として明文化することは、広範囲の契約交渉の打ち切りが不当破棄と解釈され、制度が濫用される(特に悪質業者によって)おそれがあるから。
  • 不当破棄の責任について契約責任か不法行為責任かの特定が困難であるから。

改正民法の中間試案等の条文案

ちなみに、以下が、中間試案の時点での契約交渉段階における不当履きの条文案です。

1 契約締結の自由と契約交渉の不当破棄

契約を締結するための交渉の当事者の一方は,契約が成立しなかった場合であっても,これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし,相手方が契約の成立が確実であると信じ,かつ,契約の性質,当事者の知識及び経験,交渉の進捗状況その他交渉に関する一切の事情に照らしてそのように信ずることが相当であると認められる場合において,その当事者の一方が,正当な理由なく契約の成立を妨げたときは,その当事者の一方は,これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。

その後、パブリックコメントを経て、次のような素案となりました。

契約交渉段階(契約交渉の不当破棄)

契約交渉の不当破棄について、次のような規定を設けるものとする。

契約を締結するための交渉の当事者が、契約の成立が確実であると相手方に信じさせるに足りる行為をしたにもかかわらず、正当な理由なく契約の成立を妨げたときは、これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負う。

明文化していないだけで不当破棄の責任はある

なお、改正民法において明文化していないとはいえ、契約交渉段階における不当破棄の責任自体は、判例で確立した概念です。

つまり、「改正民法で明文化しない=不当破棄の責任は存在しない」というわけではありません。

依然として、契約交渉段階における不当破棄の責任は、発生するリスクはあります。

このため、契約交渉にあたっては、信義誠実の原則に従って、信頼関係を損ねることがないよう、交渉を進めるべきです。

ポイント

  • 要件の明文化が困難であること、濫用のリスクがあること、責任の特定が困難であること等から、改正民法では、契約交渉段階における不当破棄の明文化は、見送られた。
  • 明文化していないものの、契約交渉段階における不当破棄は、判例において確立した制度であるため、安易に契約締結を拒否してはいけない。