このページでは、売買契約・請負契約における契約不適合責任(読み方:けいやくふてきごうせきにん)について解説しています。

契約不適合責任とは、有償契約において、債務者により履行された債務が契約の内容に適合しない場合において債務者が負う責任のことです。

契約不適合責任は、売買契約と請負契約において問題となります。

売買契約における契約不適合責任は、売買の目的物に契約不適合(種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないこと)が合った場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。

請負契約における契約不適合責任は、請負人が完成させるべき仕事に契約不適合(仕事の種類または品質に関して契約の内容に適合しないこと)があった場合に、請負人が注文者に対して負う責任のことです。

このページでは、こうした契約不適合責任について、解説します。

なお、契約不適合責任は、2020年4月1日に改正民法が施行される前は、いわゆる「瑕疵担保責任」とされていました。

瑕疵担保責任につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【旧民法】瑕疵担保責任とは?契約条項の意味・書き方・瑕疵の定義・瑕疵担保期間は?




民法上の契約不適合責任とは?

民法上の契約不適合責任は売買契約における売主の責任

契約不適合責任は、そもそも売買契約において引き渡された目的物が、種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合、売主がこれに対処するべき責任です。

【意味・定義】売買契約における契約不適合責任とは?

売買契約における契約不適合責任とは、売買契約において引き渡された目的物が、種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合における売主が負う責任をいう。

民法第562条(買主の追完請求権)

1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

契約不適合責任は有償契約において発生する

契約不適合責任は民法第559条により有償契約に準用される

このように、契約不適合責任は、売買契約において売主に発生する責任です(民法第562条)。

これに加えて、この契約不適合責任の規定は、有償契約について準用される規定でもあります(民法第559条)。

民法第559条(有償契約への準用)

この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

このため、契約不適合責任は、有償契約全般で発生することとなります。

【意味・定義】有償契約・無償契約とは?

なお、有償契約とは、契約当事者の双方または一方に、経済的な費用負担または損失がある契約のことです。

【意味・定義】有償契約とは?

有償契約とは、契約当事者の双方が何らかの経済的な対価を給付する契約をいう。

事業で締結される一般的な契約は、有償契約であることが多いです。

なお、有償契約でない契約を無償契約といいます。

【意味・定義】無償契約とは?

無償契約とは、当事者の双方または一方が経済的な給付が発生しない契約をいう。

【意味・定義】準用とは?

また、「準用」とは、ある法律の規定を、必要な修正・変更をしたうえで、類似した別の規定に当てはめることをいいます。

【意味・定義】準用とは?

準用とは、ある法律の規定を、必要な修正・変更をしたうえで、類似した別の規定に当てはめることをいう。

【意味・定義】有償契約における契約不適合責任とは?

以上の点から、契約不適合責任とは、一般的には、以下の意味となります。

【意味・定義】契約不適合責任とは?

契約不適合責任とは、有償契約において、債務者により履行された債務が契約の内容に適合しない場合において債務者が負う責任をいう。

ポイント
  • 契約不適合責任はそもそも売買契約における売主の責任
  • 契約不適合責任は、売買契約以外の有償契約(主に請負契約)に準用される。





売買契約における契約不適合責任とは?

売買契約における契約不適合・契約不適合責任の定義は、それぞれ次のとおりです。

【意味・定義】売買契約における契約不適合とは?

売買契約における契約不適合とは、売買の対象となる目的物の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないこと。いわゆる「瑕疵」(欠陥・ミス等)を含む。

【意味・定義】売買契約における契約不適合責任とは?

売買契約における契約不適合責任とは、売買の対象となる目的物の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約不適合があった場合。瑕疵、ミス、欠陥等があった

場合を含む。)において、注文者から請求された、履行の追完、報酬の減額、損害賠償、契約の解除の請求に応じる請負人の責任・義務をいう。





請負契約における契約不適合責任とは?

請負契約における契約不適合責任とは?

請負契約における契約不適合・契約不適合責任の定義は、それぞれ次のとおりです。

【意味・定義】請負契約における契約不適合とは?

請負契約における契約不適合とは、請負契約において請負人がおこなった仕事の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないこと。いわゆる「瑕疵」(欠陥・ミス等)を含む。

【意味・定義】請負契約における契約不適合責任とは?

請負契約における契約不適合責任とは、仕事の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約不適合があった場合。瑕疵、ミス、欠陥等があった場合を含む。)において、注文者から請求された、履行の追完、報酬の減額、損害賠償、契約の解除の請求に応じる請負人の責任・義務をいう。

契約不適合責任は無過失責任

仕事の完成を目的とした請負契約において、契約不適合責任は、仕事を完成させる責任です。

このため、請負人の責任によって仕事が完成しないこと=契約不適合が発生した場合は、当然に、契約不適合責任が発生します。

そればかりか、請負人に責任によらない契約不適合(注文者の責任による場合は別)が発生した場合であっても、契約不適合責任が発生します。

このため、契約不適合責任は、いわゆる「無過失責任」といえます。

この点から、請負人の立場の場合、請負契約型の業務委託契約では、このような自身のミス以外によって契約不適合責任が発生するリスクに注意しなければなりません。





契約不適合とは?

契約不適合は物質的・法律的な欠陥

民法上、契約不適合の定義は、次のとおりです。

【意味・定義】有償契約における契約不適合とは?

契約不適合とは、有償契約において債務者により履行された債務の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないことをいう。旧民法における、いわゆる「瑕疵」に相当する概念。

なお、ここでいう「契約の内容に適合しないこと」は、物質的欠陥や法律的欠陥も含まれます。

物質的欠陥とは?その具体例は?

物質的欠陥とは、売買契約や請負契約の目的物である有体物になんらかの物理的なの問題がある場合が該当します。

物質的欠陥としての瑕疵

物質的欠陥とは、目的物が有体物である場合における、物理的な欠陥のこと。

例えば、建物の売買契約において、目的物である建物に施工不良がある場合などが該当します。

法律的欠陥とは?その具体例は?

法律的欠陥とは、売買契約の請負契約の目的物に、なんらかの法律的な問題がある場合が該当します。

例えば、グラフィックデザインやイラストの作成の請負契約の場合に、目的物である著作物が他人の著作権を侵害している状態が該当します。

この場合は、納入されたデータに物質的な欠陥がなかったとしても、著作権侵害という法律的な欠陥=契約不適合(瑕疵)があると考えられます。

第565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)

前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

契約書で契約不適合を明確に定義づける

このように、契約不適合とは、債務の種類または品質に関して契約の内容に適合しないことであり、物質的・法律的な欠陥を含みます。

ただ、この定義は非常に曖昧であるため、実際の契約実務では、より具体的に契約不適合を判断できるように工夫する必要があります。

例えば、ソフトウェア・プログラム・システム・アプリ開発業務委託契約にありがちな、「バグが契約不適合なのか仕様なのか」という問題も、この契約不適合(=バグ)の定義の問題です。

このため、契約書を作成する際は、契約不適合の定義を明記することが重要となります。

例えば、すでに述べたバグの例であれば、「仕様に適合しないこと」をバグとして定義づけ、仕様書等で仕様を明らかにすることで、契約不適合責任を明らかにします。

契約内容や検査基準・検査方法の明記も重要

「契約内容どおりの履行」かどうかが契約不適合の判断基準

また、同じように、契約書の内容を詳細に規定しておくことも重要です。

契約不適合責任は、「契約の内容に適合しない」場合に発生するものです。

このため、この「契約の内容」が明らかでないと、そもそも契約不適合責任に該当するのか、あるいはしないのかが明確になりません。

客観的な検査基準・検査方法があればトラブルになりにくい

契約内容の明記に加えて、客観的な検査基準や検査方法を契約の内容として明記していれば、さらに契約不適合を巡ってトラブルになりにくくなります。

一般的な売買契約や請負契約では、売主・請負人による納入・納品や作業実施があった後で、買主・注文者による検査があります。

この検査の際に、各種検査項目について、あらかじめ決められた検査方法による検査の結果、客観的な検査基準に適合している場合は、合格とし、不合格の場合は、「契約不適合」として取扱うようにします。

こうすることにより、より明確に契約不適合に該当するかどうかが明らかになります。

逆に、検査基準や検査方法などが決まっていないと、買主・注文者の恣意的な判断によって契約不適合かどうかが決められてしまい、トラブルの原因となります。

ポイント
  • 契約不適合には物質的・法律的な欠陥を含む。
  • 契約書では契約不適合の定義が重要。
  • 契約内容を明記することで間接的に契約不適合を定義づける。
  • 検査基準・検査方法を定義づけることで、契約不適合に該当するかどうかの基準を明らかにする。





4つの契約不適合責任

契約不適合責任は履行追完・代金減額・損害賠償・契約解除

売買契約・請負契約ともに、契約不適合があった場合、売主・請負人は、履行追完責任・代金減額責任・損害賠償責任・契約解除の4つの責任を負います。

4種類の契約不適合責任
  • 履行追完責任
  • 代金減額責任
  • 損害賠償責任
  • 契約解除責任

民法第562条(買主の追完請求権)

1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

【契約不適合責任1】履行追完責任

履行追完責任は目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しの3つ

契約不適合責任の1つめは、履行追完責任です。

履行追完責任は、契約不適合の性質に応じて、目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し(追加納入・追納)をしなければならない買主・請負人の責任のことです。

【意味・定義】履行追完責任とは?

履行追完責任とは、契約不適合責任のひとつで、契約不適合の性質に応じて、次の3つのいずれかをおこなう請負人の責任をいう。

  • 目的物の修補
  • 代替物の引渡し
  • 不足分の引渡し(追加納入・追納)

【履行追完責任1】目的物の修補とは

履行追完責任の1つめは、「目的物の修補」です。

目的物の修補は、契約不適合=物質的・法律的な欠陥やを取除き、売買契約・請負契約の履行を追完させることです。

【意味・定義】契約不適合責任における目的物の修補とは?

目的物の修補とは、契約不適合責任のうちの履行追完責任のひとつであって、契約不適合=物質的・法律的な欠陥を取除き、売買契約・請負契約の履行を追完させることをいう。

【履行追完責任2】代替物の引渡しとは

履行追完責任の2つめは、「代替物の引渡し」です。

代替物の引渡しは、契約不適合=物質的・法律的な欠陥がある目的物に代えて、契約不適合がない目的物を引渡すことにより、売買契約・請負契約の履行を追完させることです。

【意味・定義】契約不適合責任における代替物の引渡しとは?

代替物の引渡しとは、契約不適合責任のうちの履行追完責任のひとつであって、契約不適合=物質的・法律的な欠陥がある目的物に代えて、契約不適合がない目的物を引渡すことにより、売買契約・請負契約の契約の履行を追完させることをいう。

【履行追完責任3】不足分の引渡し(追加納入・追納)とは?

履行追完責任の3つめは、「不足分の引渡し」です。

不足分の引渡しは、契約不適合が目的物の不足である場合において、その不足分を追加で引き渡すことにより、売買契約・請負契約の履行を追完させることです。

【意味・定義】契約不適合責任における不足分の引渡しとは?

不足分の引渡しとは、契約不適合責任のうちの履行追完責任のひとつであって、契約不適合が目的物の不足である場合において、その不足分を追加で引き渡すことにより、売買契約・請負契約の履行を追完させることをいう。

なお、不足分の引渡しは、一般に、追加納入(追納)と呼ばれることもあります。

買主・注文者は「相当の期間」内は履行の追完を待たなければならない

なお、履行の追完は、「相当の期間」内にしなければなりません。

民法第563条には「相当の期間を定めて」とあります。

根拠条文

第563条(買主の代金減額請求権)

1 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

(第2項以下省略)

原則として、この「相当の期間」内に追完がないときに、買主・注文者は、初めて代金減額請求ができることとなります。

逆に言えば、原則として、買主・注文者は、相当の期間内では、売主・請負人による履行の追完を待たなければならない、ということです。

【契約不適合責任2】代金減額責任

代金減額責任=代金を減額しなければならない責任

契約不適合責任の2つめは、代金減額責任です。

代金減額責任は、契約不適合があった場合において、売主・請負人が履行追完責任を果たさないときに、代金を減額しなければならない責任です(民法第563条)。

【意味・定義】代金減額責任とは?

代金減額責任とは、契約不適合責任のひとつで、契約不適合があった場合において、売主・請負人が履行追完責任を果たさないときに、代金を減額しなければならない責任をいう。

第563条(買主の代金減額請求権)

1 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

(1)履行の追完が不能であるとき。

(2)売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3)契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

(4)前3号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

民法第563条第1項の「前条第1項本文に規定する場合」とは、民法第562条の「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」のことです。つまり、「契約不適合があった場合」です。

代金減額は原則として「相当の期間」の経過後

買主・注文者による代金の減額を請求は、以下の要件を満たす必要があります。

代金が減額される3つの要件
  • 契約不適合責任があったこと。
  • 買主・注文者が相当の期間を定めて履行の追完を催促したこと。
  • 相当の期間内に履行の追完がないこと。

このため、相当の期間を経過しても、なお履行の追完がない状態でなければ、買主・注文者は、代金の減額請求はできません。

例外として催告不要で直ちに代金減額請求ができる場合は?

ただし、以下の4つ場合は、例外として、催告を必要とせず、直ちに代金の減額請求ができます(民法第563条第2項各号)。

契約不適合があった場合に催告不要で直ちに減額請求ができる4つの例外
  • 履行不能の場合
  • 売主・請負人が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した場合
  • 特定の日時または期間内に履行されるべき契約において、履行の追完の遅れにより契約を締結した目的が達成されない場合
  • 履行の追完の見込みがないことが明らかである場合

3点めの具体例は、クリスマスケーキの製造請負契約で契約不履行が発生した場合に、そのクリスマスケーキの代替物の引渡しがクリスマスの後になるときなどが該当します。

【契約不適合責任3】損害賠償責任

売主・請負人に帰責事由が必要

契約不適合責任の3つめは、債務不履行にもとづく損害賠償責任です。

民法第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)

前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

ここでいう「前2条の規定」とは、履行追完責任と代金減額責任のことです。

つまり、売主・請負人は、履行追完責任と代金減額責任とは別に、買主・注文者の請求により、損害賠償責任(と契約解除責任)を果たさなければなりません。

なお、損害賠償責任は、民法第415条第1項ただし書きにより、売主・請負人の責めに帰すべき事由=帰責事由が必要となります。

このため、売主・請負人に帰責事由が無い場合は、損害賠償責任は発生しません(履行追完責任・代金減額責任・契約解除責任は発生します)。

第415条(債務不履行による損害賠償)

1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

(1)債務の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3)債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

【同時履行の抗弁権】損害賠償の完了まで報酬は払わなくてもいい

なお、契約不適合責任としての損害賠償責任には、いわゆる「同時履行の抗弁権」(民法第533条かっこ書き)が適用されます。

【意味・定義】同時履行の抗弁権とは?

同時履行の抗弁権とは、契約の一方の当事者が、相手方がその債務を履行するまでは、自己の債務の履行を拒絶できる権利をいう。

第533条(同時履行の抗弁)

双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

これにより、売主・請負人が損害賠償を完了しない限り、買主・注文者は、報酬(料金・委託料)の支払いを拒否できます。

【契約不適合責任4】契約解除責任

契約不適合があった場合は買主・注文者は契約解除ができる

契約不適合責任の4つめは、買主・注文者の「解除権の行使」に応じる義務・責任、つまり契約解除責任です。

民法第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)

前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

ここでいう「前2条の規定」とは、履行追完責任と代金減額責任のことです。

つまり、売主・請負人は、履行追完責任と代金減額責任とは別に、買主・注文者の請求により、(損害賠償責任と)契約解除に応じる責任を果たさなければなりません。

また、民法第541条と第542条は、債務不履行にもとづく法定解除権であり、前者が「催告解除権」、後者が「無催告解除権」です。

【意味・定義】催告解除権とは?

催告解除権とは、その行使に催告を要する契約解除権をいう。

民法第541条

民法第541条(催告による解除)

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

【意味・定義】無催告解除権とは?

無催告解除権とは、その行使に催告を要しない契約解除権をいう。

民法第542条

民法第542条(催告によらない解除)

1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

(1)債務の全部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3)債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

(4)契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

(5)前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

(1)債務の一部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

なお、法定解除権(法定解約権とも言います)とは、民法に規定された契約解除権のことです。

【意味・定義】法定解除権とは?

法定解除権とは、法律に規定された契約解除権をいう。約定解除権とは別の解除権。

解除権の行使には追完の催告が必須

買主・注文者が民法第541条にもとづく解除をする場合、つまり催告解除権を行使する場合は、その名のとおり「催告」が必須となります。

契約不適合があった場合は、この「催告」は、履行の追完の催告となります。

ただし、催告の「期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は、買主・注文者は、契約の解除ができません(民法第541条ただし書き)。

もちろん、民法第542条=無催告解除権の行使の要件に該当する場合は、追完の催告を要することなく、契約の解除ができます。

契約書で約定解除権の行使についても規定する

民法第541条と第542条にもとづく法定解除権は、要件が厳しく、買主・注文者は、非常に限られた条件でしか契約解除ができません。

民法第541条

民法第541条(催告による解除)

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

民法第542条

民法第542条(催告によらない解除)

1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

(1)債務の全部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3)債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

(4)契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

(5)前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

(1)債務の一部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

このため、場合によっては、契約解除によって契約不適合責任を果たしてもらおうとしても、実際には法定解除権が行使できないこともあり得ます。

そこで、一般的な売買契約・請負契約では、契約不適合責任として、法定解除権・法定解約権にもとづく契約解除責任のみならず、約定解約権・約定解約権にもとづく契約解除責任についても規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任条項

第○条(契約不適合責任)

1 (省略。履行追完責任・代金減額責任を規定)

2 前項の規定は、第●条の規定による損害賠償の請求および第●条の規定による解除権の行使を妨げない。

※便宜上、表現は簡略化しています

この他、約定解約権・約定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

https://xn--wtsq13a09q.jp/renewal20221005/article-of-cancellation/

ポイント

契約不適合責任は、以下の4つ。

  • 履行追完責任
  • 代金減額責任
  • 損害賠償責任
  • 契約解除責任





契約不適合責任の期間・年数は?

「知った時から1年」「引渡し・仕事完成から10年」「目的物の引渡し後6ヶ月」

契約不適合責任の期間・年数は、契約内容によって、それぞれ次のとおりです。

契約不適合責任の期間・年数
  • 債権者が契約不適合を知った時から1年(売買契約・請負契約)
  • 権利を行使することができる時から10年間(売買契約・請負契約)
  • 目的物の引渡し後6ヶ月(商事売買契約)

契約不適合責任の期間は修正・変更・制限ができる

なお、契約不適合責任を規定した民法の規定は、いわゆる「任意規定」とされています。

【意味・定義】任意規定とは?

任意規定とは、ある法律の規定と異なる合意がある場合に、その合意のほうが優先される法律の規定をいう。

このため、契約不適合責任の期間は、契約当事者が合意すれば、変更することができます。

こうした事情から、契約実務上は、特に「知った時から1年」について、特約で変更することがほとんどです。

契約書を作成する理由・目的

民法上の契約不適合責任の期間は最長で10年間であり、また買主・注文者が契約不適合を「知った時から1年」であることから、特約としてこの期間を短縮し、かつ固定化した契約書が必要となるから。

強行規定によって契約不適合責任の期間は修正・変更・制限ができない場合もある

なお、契約内容によっては、契約不適合責任の期間・年数の短縮の規定(合意・特約)が無効となる場合があります。

契約実務上、特に重要なものとしては、強行規定によって無効となる場合です。

【意味・定義】強行規定とは?

強行規定とは、ある法律の規定と異なる合意がある場合であっても、なお優先される法律の規定をいう。

この強行規定の具体例としては、以下のものがあります。

契約不適合責任の期間・年数の短縮が制限される法律
  • 住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)
  • 製造物責任法(PL法)
  • 消費者契約法

この他、契約不適合責任の期間とその変更・修正・制限の方法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】契約不適合責任の期間と特約による制限方法とは?





売買契約・請負契約における契約不適合責任のポイント

契約不適合責任の規定の8つのポイント

売買契約・請負契約において、売主・請負人にとって重要な契約不適合責任についてのポイントは、主に以下の8つです。

売買契約・請負契約において売主・請負人にとって重要な契約不適合責任の8つのポイント
  1. 「知った時から1年以内」については特約で修正する
  2. 契約不適合責任の期間の起算点を明記する
  3. 何をどのように通知するのかを規定する
  4. 民法第637条第1項の規定を適用しない旨を明記する
  5. 数量も契約不適合責任の対象とする
  6. 検査時に買主・注文者が知っていた契約不適合責任の通知がない場合は免責とする
  7. 検査省略・検査期間の満了による合格の場合は免責とする
  8. 場合によっては金銭による損害賠償を免責とする

【ポイント1】「知った時から1年以内」の期間については特約で制限する

売買契約・請負契約における契約不適合責任条項で、売主・請負人にとって最も重要なポイントは、いわゆる「知った時から1年以内」の期間について、制限をすることです。

契約書を作成する理由・目的

民法上の契約不適合責任の期間は最長で10年間であり、また買主・注文者が契約不適合を「知った時から1年」であることから、特約としてこの期間を短縮し、かつ固定化した契約書が必要となるから。

民法637条の規定どおり契約不適合を「知った時から1年」とすると、すでに述べたとおり、契約不適合責任の期間・年数が最長で10年間となります。

これは、売買契約・請負契約の内容によっては、売主・請負人にとって非常に不利となります。

このため、一般的な売買契約・請負契約では、旧民法637条の規定どおり、「仕事の目的物を引き渡した時から1年以内」または「仕事が終了した時から1年以内」とすることが多いです。

なお、年数については、必ずしも1年以内とする必要はなく、売買契約・請負契約の内容に応じて変更することもあります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




上記の例では、第3項において、契約不適合責任の期間を納入から1年間に制限しています。

【ポイント2】契約不適合責任の期間の起算点を明記する

契約不適合責任は、期間の計算が重要となります。このため、どの時点から起算するのか、つまり起算点も重要となります。

一般的に、売買契約・請負契約では、次のいずれかの時点から契約不適合責任の期間を計算します。

売買契約・請負契約における契約不適合責任の起算点
  • 物品・成果物・知的財産権等の納入がある場合:納入または検査がある場合は検査完了(合格)の時点
  • 物品・成果物・知的財産権等の納入がない場合:仕事の終了、契約期間の終了または検査がある場合はその検査完了(合格)の時点

この点について、売主・請負人にとっては、より早い時点で契約不適合責任の期間が算定される、納入や仕事の終了の時点を起算点とするほうが有利となります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




上記の例では、第3項において、「納入の日の翌日」を起算点としています。

【ポイント3】民法第637条第1項の規定を適用しない旨を明記する

【ポイント1】【ポイント2】により、旧民法637条同様に、契約不適合責任の年数と起算点を固定した場合であっても、改正民法第637条の「知った時から1年以内」について、特約で修正したとは解釈されない可能性もあります。

つまり、例えば特約で「納入から1年以内」とした場合であっても、それとは別に「知った時から1年以内」が適用される可能性もあり得ます。

このため、「民法第637条第1項の規定は、契約不適合責任期間については適用しない」と、「知った時から1年以内」の規定を適用しないことを売買契約・請負契約に明確に規定しておきます。

契約書を作成する理由・目的

特約で契約不適合責任の期間を短縮したとしても、必ずしも民法第637条第1項が適用されないとは限らないため、民法第637条第1項の規定の適用を否定した契約書が必要となるから。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




上記の例では、第4項において、民法第637条第1項の適用について否定しています。

【ポイント4】何をどのように通知するのか=通知の要件を規定する

民法第566条や民法第637条では、「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは」や「注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは」となっています。

また、買主・注文者が売主・請負人に対し、「その旨」=契約不適合の存在を通知しなければならないこととなっています。

民法第566条

民法第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

民法第636条・民法第637条

民法第637条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

1 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。

ただ、単に契約不適合の存在だけを抽象的に通知されても、売主・請負人としては、対応できません。

この点について、過去の判例では、「通知」について、裁判上の権利行使や細目についての通知までは必要でないものの、契約不適合の内容、種類、範囲等の通知が必要とされています。

これらの通知の内容を明確化するためにも、契約不適合について、何をどのように通知するべきなのか、つまり通知の要件を契約書に規定しておきます。

契約書を作成する理由・目的

民法では契約不適合責任を追求するための通知の要件が明らかでないため、通知の要件を規定した契約書が必要となるから。

また、場合によっては、契約不適合責任の請求についてハードルを上げる目的で、損害額の明示や、その算定根拠を求める規定とすることもあります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




上記の例では、第3項において、「契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで」と最低限の要件を規定しています。

この部分は、契約の実態に応じて、変更する必要があります。

【ポイント5】数量も契約不適合責任の対象とする

すでに述べたとおり、契約不適合責任の期間の制限の対象となっているのは、あくまでも「種類又は品質に関して」だけであり、数量については、契約不適合責任の期間の制限の対象外です。

よって、数量不足があった場合、売主・請負人にとっては、消滅時効にかかるまで、つまり最長で10年間、債務不履行による責任が発生するリスクがあります。

このため、数量も契約不適合責任の対象とすることで、数量不足について責任を負う期間を10年間よりも短縮できます。

契約書を作成する理由・目的

民法では契約不適合責任の期間が制限されるのは「種類又は品質に関して」だけであり、数量は含まれないことから、数量に関しても契約不適合責任の期間の制限に含める場合は、その旨が規定された契約書が必要となるから。

この短縮により、数量の検査ができない、あるいは難しい製品等の製造請負契約であっても、納入から何年も経った後で数量不足による債務不履行について責任を果たす必要がなくなります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任に関する条項

第○条(契約不適合責任)

1 本件製品の種類、品質もしくは数量または個別業務の実施の内容について本契約の内容に適合していないこと(以下、「契約不適合」という。)があったときは、次項以下を適用する。

2 発注者が契約不適合を発見した場合、発注者は、受注者に対し、受注者の負担と責任により、発注者の定める期日までに、当該契約不適合の修補、代替となる本件製品の引渡し、または追加の本件製品の納入による履行の追完(これらに相当する仕事の完成を含む。以下、これらを総称して「契約不適合責任」という。)のうち発注者が指定するものに限り、これをなすことを請求できるものとする。

3 発注者が受注者に対し第●条第●項に規定する納入の日の翌日から起算して1年以内に前項の請求について、契約不適合の内容、種類および範囲等を明らかにしたうえで通知しない場合、受注者は、契約不適合責任を負わないものとする。

4 民法第637条第1項の規定は、前項の期間について適用しない。

5 前各項の規定は、第●条および第●条による契約の解除権の行使または第●条による損害賠償の請求を妨げない。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




上記の例では、第1項において、数量も契約不適合責任の対象とし、かつ、3項において、契約不適合責任の期間の制限の対象としています。

【ポイント6】検査時に買主・注文者が知っていた契約不適合責任の通知がない場合は免責とする

売買契約・請負契約では検査時の契約不適合の通知義務はない

民法第566条や民法第637条第2項では、売主・請負人が、契約不適合について「知り、又は重大な過失によって知らなかったとき」(いわゆる善意または重過失)は、契約不適合責任の期間制限について適用しない、としています。

民法第566条

民法第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

民法第637条

民法第637条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

1 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。

他方で、買主・注文者について、(特に検査時において)契約不適合について知っていたかどうかの規定はありません。

そもそも、民法では、売買契約や請負契約に関する検査の規定はありません(商事売買契約についてはあります。後述)。

検査時において、契約不適合があったことを知りながら意図的に告げなかった場合や、いい加減な検査によって契約不適合を発見できなかった場合は、後になって契約不適合による被害が拡大する可能性もあります。

こうした不必要な契約不適合による被害への責任を免れるためにも、少なくとも検査時に買主・注文者が知っていた契約不適合については、検査時に通知しない限り免責とします。

契約書を作成する理由・目的

民法では買主・注文者が契約不適合責任の存在を知りつつ検査合格とした場合における買主・注文者の責任について明記されていないため、売主・請負人としては、このような場合に契約不適合責任を免責される旨の特約が規定された契約書が必要となるから。

また、検査基準、検査項目、検査方法などを売買契約・請負契約で明記できる場合は、これらの検査を適切に実施していたのであれば発見できたはずの契約不適合についても、場合によっては免責とすることもあります。

商事売買契約では商法第526条により検査時に契約不適合の通知義務がある

なお、商事売買契約、つまり一般的な事業者間の売買契約では、商法第526条が適用されます。

商法第526条(買主による目的物の検査及び通知)

1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。

3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

この場合は、「数量」も契約不適合責任の対象となり、買主は、売主に対し、数量不足について、直ちに通知しなければなりません。

【ポイント7】検査省略・検査期間の満了による合格の場合は免責とする

検査は省略できる

売買契約・請負契約では、検査を省略することもあります。

また、検査を実施せずに検査期間の満了によって検査合格となるように検査について規定することもあります。

これらの場合、実質的には検査をしていないこととなります。

検査省略後の契約不適合責任は免責とする

ただ、請負契約では、「仕事の完成」を目的としますので、たとえ注文者による検査が無かったとしても、仕事を完成させる責任はあります。

しかしながら、注文者が実質的に検査を実施せずに合格とした業務内容について、後に契約不適合責任を負うのは、請負人にとって不利ですし、検査の意味がありません。

このため、検査の省略や検査期間の満了によって業務内容が合格となった場合は、契約不適合責任を免責とします。

契約書を作成する理由・目的

買主・注文者が検査を怠り、または検査を省略したことにより検査期間を経過して検査合格となった場合において、買主・注文者が契約不適合責任を追求できる契約内であれば、検査条項の意味がないため、売主・請負人としては、このような場合に契約不適合責任が免責される旨の特約が規定された契約書が必要となるから。

これは、請負契約だけでなく、売買契約でも同様です。

【ポイント8】場合によっては金銭による損害賠償を免責とする

プログラムのバグ=契約不適合

請負契約によっては、金銭による損害賠償を免責とする場合もあります。

典型的な例としては、システム開発業務委託契約があります。

この他、ソフトウェア、プログラム、アプリ等、IT関係の開発業務委託契約なども同様です。

これらの業務委託契約では、システム、ソフトウェア、プログラム、アプリ等の使用によって、予期せぬバグ等が発生することがあります。

こうしたバグ等も契約不適合になり得ます。

バグによる契約不適合責任はバグフィックスのみとする

こうしたバグ等によって、場合によっては非常に大きな損害が発生することがあります。

この損害について金銭による損害賠償責任を負うこととなると、請負人としては、非常にリスクが大きくなります。

このため、一般的なシステム、ソフトウェア、プログラム、アプリ等、IT関係の開発業務委託契約では、バグ等による契約不適合責任は、バグフィックスのみとし、金銭による損害賠償責任の対象外=免責とします。

場合によっては、代金減額の対象外ともします(損害額の制限により、実質的に代金減額の対象外とすることもあります)。

契約書を作成する理由・目的

システム、ソフトウェア、プログラム、アプリ等、IT関係の開発業務委託契約では、契約不適合責任が発生した場合、金銭による損害賠償責任が膨大な金額になるリスクがあるため、請負人としては、金銭賠償による契約不適合責任が免責される旨の特約が規定された契約書が必要となるから。