このページでは、捨印の注意点・リスク・デメリットについて解説しています。

捨印は、あらかじめ押しておく訂正印の一種です。

本来、捨印は、書面の訂正を簡単にできるようにするためのものです。

こうした本来の使用目的のために押す捨印は、特に問題はないものです。

ところが、捨印が悪用されると、非常に大きなリスクとなります。

このページでは、こうした捨印のリスクについて、解説します。




【意味・定義】捨印とは?

捨印とは、特に法律では定義はありませんが、一般的には、契約書などの書面を作成する際に、わずかな間違いを訂正するために、あらかじめ押印しておく訂正印の一種のことです。

【意味・定義】捨印とは?

「捨印」とは、訂正印の一種で、軽微な書面の訂正のために、あらかじめ押印しておくもの。

リース会社や銀行などの金融機関との取引では、よく捨印の押印を求められます。

また、最近は少なくなりましたが、役所の手続きでも、捨印を求められることもあります。

こうした、大手企業や役所から求められるために、つい気軽に捨印を押しがちですが、実は、捨印には、大きなリスクがあります。





捨印は相手方が自由に訂正できる権利の証

捨印=契約の訂正権の付与

すでに述べたとおり、法律上、捨印には、特に明確な定義はありません。

一般的には、捨印の押印は、相手方に対し、契約書などの書面の内容を訂正する権利を付与するものと考えられています。

通常、契約内容などを訂正する場合は、双方の合意のもとで訂正するものです。

ところが、捨印が押印されている場合、押印した当事者は、あらかじめ契約の訂正に合意しているものとみなされます。

捨印はどこまで訂正できるのか明らかではない

なぜ捨印に大きなリスクであるかといえば、実は、捨印が押印されている場合に、どこまで訂正できるかが、明確ではないからです。

そもそも、訂正印は、一般的には、(二重線などで訂正された)訂正箇所に押印されるものです。

これに対し、捨印は、訂正箇所の有無に関係なく、あらかじめ、契約書の欄外や余白に押印します。

これでは、どこを訂正できるのか、必ずしも明らかにはなりません。

また、法律でも、捨印については、特に効力が規定されていません。

契約書の重要箇所を「訂正」される可能性もある

通常、契約書を訂正する場合、そのつど訂正印を押印します。

ところが、捨印は事前に押印するものですので、契約成立後に、相手方が契約書を訂正できてしまいます。

しかも、すでに触れたとおり、訂正できる範囲については、必ずしも明らかではありませんので、場合によっては、非常に重要な契約条項も訂正できてしまいます。

こうなると、相手方に契約書のすべてを書き換える権限があるようなものであり、訂正どころではなく、改ざんといっても過言ではありません。

捨印では本来は重要箇所までは訂正できない

もっとも、本来は、捨印は軽微な訂正のために押印するものであり、重要な契約箇所は訂正できないものです。

例えば、漢字のご記入や、誤字・脱字程度では、捨印による訂正も可能でしょう。

ただ、こうした軽微なものではない訂正については、どこからが「重要箇所」と言えるかは、法律では明確に決まっていない、いわばグレーゾーンです。

この点が、捨印のリスクを軽視できない点となります。

ポイント
  • 捨印の押印は、あらかじめ範囲が決まっていない契約の訂正について合意するものであり、相手方に契約の訂正権を付与すること。
  • 捨印の大きなリスクは、はどこまで訂正できるのか明らかではない点にある。
  • 場合によっては、契約書の重要箇所を「訂正」される可能性もある。
  • もっとも、捨印では、本来は重要箇所までは訂正できないものの、その重要箇所がどこからなのかが明らかではない。

捨印は押してはいけない

悪用を避けるためにも捨印は絶対に押してはいけない

悪質業者の契約書に捨印を押印すると、当然、悪用されるリスクがあります。

このため、相手方を信頼できない場合は、捨印を押してはいけません。

そもそも契約書は、捨印などを使って、軽々しく訂正することはありません。

実際は、訂正が必要な場合は、訂正印を使うことすら滅多になく、契約書そのものを作り直して対処します。

契約の締結とは、それほど慎重におこなうべきことです。

捨印の押印を求められても拒絶する

それでも、一部の企業の中には、しつこく捨印の押印を求めてくる場合があります。

この場合であっても、絶対に捨印を押印してはいけません。

確かに、捨印を押印していると、軽微な訂正で契約書のやり取りがしやすくなり、事務手続きが簡単になります。

ただ、こうした事務作業の効率化以上に、捨印には、大きなリスクがあります。

このため、多少事務作業が煩雑になったとしても、捨印を押印するべきではありません。

ポイント
  • 悪用を避けるためにも、捨印は、絶対に押してはいけない。
  • 訂正の事務処理の簡略化のために捨印の押印を求められても、そのつど訂正に応じるようにして、捨印の押印はしない。





押印する際には対策を講じておく

捨印は「捨印」と明記する

やむを得ず捨印を押印する場合、契約成立後に捨印を悪用されないように、対策を講じておかなくべきです。

まず、実際に捨印を押印する際は、その押印が通常の訂正印と区別できるように、必ず捨印であることを明記しておきます。

捨印は、通常の訂正印と誤認されると、重大な被害を引き起こすことになります。

そこで、初めから捨印であることを明記することで、契約内容の重要な部分が勝手に改ざんされにくくなります。

捨印を押印したら必ずコピーを取っておく

契約書のコピー+担当者の署名押印で悪用を抑止する

また、仮に捨印を押印してしまったとしても、必ず押印した状態のコピーを取っておきます。

そのうえで、実際に契約交渉に立ち会った相手方の担当者の署名・押印と当日の日付の記入を求めます。

この際、できれば、捨印である旨を記入してもらうといいでしょう。

これだけでも、後日、捨印を悪用されるリスクは低くなります。

特に1通だけ差入れる書面への押印には要注意

このような問題は、双方が契約書を1通ずつ所持する契約書であれば、起こりにくいものです。

ですが、実際の契約実務の現場では、一方の契約当事者が、他方の契約当事者に対し、一方的に差し入れる方式の書面も多いものです。

特にこうした書面は、契約書よりも、覚書、念書、確認書といった体裁のものが多いです。

ですから、このような覚書、念書、確認書などの提出を求められた場合は、コピーを取り、担当者の署名・押印、および当日の日付の記入を求める形で、一方的な文書の改ざんを防ぎます。

ポイント
  • 捨印は、「捨印」と明記したうえで押印する。
  • 捨印を押印した書面は、必ずコピーを取っておく。
  • コピーした書面には、担当者の署名押印と日付を記入してもらい、捨印の悪用を抑止する。