実印は、法的には非常に強い証拠能力を有します。
契約書などの書面に実印を押印するとその書面に記載された内容を承諾したことになります。
このため、実印は、安易に押印してはならない印鑑です。
このページでは、こうした実印のリスクについて、解説しています。
【意味・定義】実印とは?
実印とは、役所(個人の場合は市区町村、法人の場合は登記所)に登録された印鑑のことです。
【意味・定義】実印とは?
- (個人)実印とは、住民票の登録がされている市区町村に登録された印鑑をいう。
- (法人)実印とは、登記されている管轄の登記所(法務局)に登録された印鑑をいう。
実印は、個人と法人では、若干手続きが違いますが、押印する場合の法的効果は、ほとんど一緒です。
【実印のメリット】相手方の押印は強力な証拠となる
本来は実印=署名(サイン)と同一の法的効果がある
実印の押印は、民事訴訟法では、次のように規定されています。
民法訴訟法第228条(文書の成立)
(途中省略)
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5(省略)
「署名又は押印」とあるとおり、本来は、実印の押印は、署名と同一の法的効果を持ちます。
ここで問題となるのが、続いて書かれている、「推定する」という記載です。
【意味・定義】推定するとは?
「推定する」とは、反証がない限り、法律上はそのように認める、という法律用語です。
【意味・定義】推定するとは?
「推定する」とは、ある事実があった場合、反証がない限り、法律上、そのような効果を認めることをいう。
ここでポイントとなるのが、「反証がない限り」という点です。
「推定する」という規定は、反証があれば、覆すことができます。
実印は「私のものじゃありません」と反証ができない押印
認印の押印は簡単に反証できる
実は、民事訴訟法第228条第4項の押印には、実印以外の印鑑=認印も含まれます。
ただ、認印の場合は、「その認印は私のものではありません」と、契約当事者に簡単に反証されてしまいます。
そうなると、相手方のほうが、「いやいや、この認印はあなたが普段使っているものですよ」と立証しなければならなくなります。
この立証は非常に難しく、例えば、署名と認印の押印がされた別の書類などを証拠として確保しておく必要があります。
実印の押印は反証が難しい
これに対し、実印の場合、押印と同時に印鑑登録証明書を提出してもらっている場合は、「その実印は私のものではありません」という反証はできません。
印鑑登録証明書がある場合、実印の押印の反証が認められるのは、非常に特殊なケースで、それこそ実印が盗まれた場合や、偽装された場合などに限ります。
このため、実印は、本人による押印の可能性が最も高いとされています。
こうした事情があることから、重要な契約書への押印や、一般的な行政手続きで使う書面への押印では、実印が使われることがほとんどです。
実印の押印は意思表示が確定する
このように、実印の押印は、押印した者の意思表示としては、非常に証拠能力が高いとされます。
特に、印鑑登録証明書とセットになっていると、本人による押印であることが、はぼ確定します。
これは、ある意味では、偽造されやすい漢字の署名・サインよりも証拠能力が高いといえます。
このように、実印の押印は、極めて確度が高い相手方の(特に法人の)本人確認が簡単にできる、というメリットがあります。
ポイント
- 実印は、押印した人がその書類の内容を認めた、非常に強力な証拠となる。
- 実印は、認印と違って、「私のものじゃありません」という反証ができない。
- 実印の押印は、確度が高い、相手方の本人確認=真正な意思表示の確認が簡単にできる、というメリットがある。
【実印のリスク】自分の押印は言い訳ができない
「そういうつもりじゃなかった」は通用しない
実印には、こうした本人の意思表示を簡単に確認できる、というメリットがあります。
他方で、押印する側としては、言い訳が一切通用しなくなる、というデメリットもあります。
「契約内容を承諾したつもりじゃなかった」「そういうつもりじゃなかった」「契約書をよく読まずに押印した」という話は、一切通じなくなります。
このため、自分で実印を押印する際は、書類の内容をよく精査するべきです。
特に、相手方が印鑑登録証明書の提出と実印の押印を求めてきた場合、その相手方が出してきた書類や契約書は、要注意です。
自分の実印の管理は徹底する
すでに触れたとおり、実印は、簡単に契約を成立させることができる印鑑です。
このため、実印の管理については、非常に厳格にするべきです。
実印の管理は、法人では、特に重要となります。
実印をいい加減に管理している場合、会社名義で勝手に契約書や書類を作られてしまうリスクがあります。
もちろん、盗難等に遭った場合、悪用されるリスクは非常に高くなります。
このため、実印は、最もセキュリティーが高い方法で管理するべきです。
個人の場合は「作らない」という選択肢もある
なお、個人にとって、実印は、実は必要なものでもありません。
また、法律上、印鑑を登録する義務もありません。
このため、人によっては、印鑑登録をせずに、必要に応じて登録している人もいます。
これは、盗難に遭った場合のリスクを考えると、賢明な方法といえます。
ポイント
- 自分が実印を押印した場合、真意はどうであれ、契約が成立してしまう。
- 実印を押印した場合、契約書の確認不足や、冗談などは、事実上通用しなくなる。
- 実印は、便利である反面、悪用されるリスクが高いため、管理を徹底するべき。
- 個人の実印の場合、必要に応じて作成する、という対応もできる。