このページでは、いわゆる「白紙委任状」のリスクについて、解説しています。

白紙委任状とは、文字通り、白紙の委任状のことです。つまり、委任内容が書かれていない状態の委任状のことです。

この白紙委任状は、法的なリスクが極めて高い書面ですので、どんな理由があったとしても署名・サインをしてはいけません。

特に、白紙委任状への実印の押印と、印鑑登録証明書を渡すことは、絶対にしてはいけません。

このページでは、こうした白紙委任状のリスクについて、わかりやすく解説します。




白紙委任状とは?

【意味・定義】委任状とは?

白紙委任状とは、白紙状態の委任状のことで、委任内容が書かれていない委任状のことです。

そもそも、委任状の定義は、次のとおりです。

【意味・定義】委任状とは?

委任状とは、委任者が、受任者に対し、一定の行為について、代理権を設定し、その行為について委任したことを証する書面をいう。

ここでポイントとなるのが、「代理権を設定している」という点です。

つまり、委任状は、受任者が、委任者の代理人として、「一定の行為ができる代理権を与えられたことを証明する書面」である、ということです。

【意味・定義】白紙委任状とは?

白紙委任状は、一般的には、委任者の署名・押印以外は何も書かれていない、文字どおり、白紙の委任状です。

委任の内容どころか、受任者=代理人の氏名すら書かれていないものです(書かれている場合もあります)。

ということは、白紙委任状は、何でもできる代理権が設定できる、ということになります。

【意味・定義】白紙委任状とは?

白紙委任状とは、委任者が、不特定の受任者について、無制限の代理権を設定し、一切の行為について委任したことを証する書面をいう。

この白紙委任状は、それこそ「何でもできる」書面であるため、リスクがないわけがありません。

ポイント
  • 委任状とは、委任者が、受任者に対し、一定の行為について、代理権を設定し、その行為について委任したことを証する書面のこと。
  • 白紙委任状とは、委任者が、不特定の受任者について、無制限の代理権を設定し、一切の行為について委任したことを証する書面のこと。





白紙委任状は署名・サイン・押印してはいけない

白紙委任状は後づけで委任内容を設定できる

この白紙委任状に署名・押印するということは、委任する相手に、全ての権限を委ねることを意味します。

なにしろ、すでに触れたとおり、白紙委任状には、委任内容がまったく書かれていないものです。

このため、白紙の部分(委任内容)には、後づけで委任事項を記入し、使用できます。

つまり、委任事項については、後から記入する者が、「やりたい放題」で自由に記入できてしまいます。

白紙委任状はいくらでも悪用できる

白紙委任状という文書は、それこそ悪用しようと思えばどんなこともできる文書です。

例えば、不動産を勝手に売却されたり、勝手に債権譲渡をされたり、いろいろなパターンが考えられます。

さらに、不動産の登記などの、役所の手続きでさえできてしまいます。

このように、白紙委任状は極めてリスクが高いため、署名・サインをしてはいけません。

実印の押印と印鑑登録証明書の交付をしてはいけない

また、単に署名・サインだけであればまだ救済手段がないわけではありませんが、実印の押印をすると、救済がかなり難しくなります。

実印の押印に加えて、印鑑登録証明書まで交付してしまうと、事実上、救済は不可能と言わざるを得ません。

実印と印鑑登録証明書つきの委任状があれば、それを受取る側は、たとえ役所や銀行であっても、まず疑うことなく、手続きを進めてしまいます。

それほど、実印と印鑑登録証明書つきの白紙委任状は、リスクが高いものです。

ポイント
  • 白紙委任状は、白紙の部分に後づけで委任内容を設定できるため、何でも委任内容にできる。
  • 白紙委任状は、何でも委任内容にできるため、いくらでも悪用ができる。
  • 白紙委任状に実印を押印し、印鑑登録証明書の交付をすると、救済は不可能となる。





白紙委任状は救済が難しい

刑法違反=犯罪になるかどうかは難しい

もちろん、このような行為は、刑法に抵触する(私文書偽造、詐欺等)可能性があります。

ただ、そもそも白紙の文書に追記をする行為は、文書の偽造に該当しない可能性があります。

また、詐欺罪に該当するかどうかは、白紙委任状が交付された時に、騙す意図があって白紙委任状の交付を要求したことを立証しなければなりません。

これは、法理論上は、極めて難しいため、白紙委任状の使用をもって、詐欺罪を問うのは不可能でしょう。

民法では裁判での立証が難しい

また、民法によっても救済を受けることができる可能性はあります。

具体的な救済手段は、白紙委任状の使われ方次第ですが、理論上は、民法の様々な規定を適用することは可能です。

ただ、裁判で白紙委任状という物的証拠を否定する作業は、非常に難しいと言わざるを得ません。

なんらかの決定的証拠(音声記録や録画記録など)がない限り、事実上、救済を受けることは難しいでしょう。

ポイント
  • 白紙委任状の取得・行使は、刑法では罪に問うこと自体が難しい。
  • 白紙委任状の取得・行使は、民法では、裁判で物証である白紙委任状を覆すことが難しい。





大量の書類にサインする際には注意する

うっかり勢いで白紙委任状に署名・サインしない

悪質な業者の中には、大量の書類に署名・押印を求め際、その中に白紙委任状を紛れ込ませることがあります。

この際、勢いに乗って署名・押印をしていると、うっかり白紙委任状に署名・押印してしまうことになります。

ですから、何かの書類に署名・押印を求められた場合は、面倒であっても、必ずすべての書面に目を通すべきです。

また、よくわからない書面には、サインしないことも重要です。

貸金業法では白紙委任状の取得は違法

貸金業法では、貸金業者による白紙委任状の取得は、金融庁の「貸金業者向けの総合的な監督指針」により、禁止行為(第12条の6第4号)とされています。

逆に考えると、悪質な消費者金融業者、クレジット会社、サラ金業者、ヤミ金業者などの貸金業者が白紙委任状などを要求しているからこそ、禁止されているともいえます。

これは、こうした悪質な貸金業者が、白紙委任状を悪用することによって、借り手から違法な手段で債権を回収している実態があるからです。

ですから、貸金業者から白紙委任状の交付を要求された場合は、絶対に署名・押印をしてはいけません。

ポイント
  • 大量の書類にサインする際は、うっかり勢いで白紙委任状に署名・押印しない。
  • 貸金業法では、白紙委任状の取得は禁止行為に該当する。





【補足】信頼できる相手でも白紙委任状は渡さない

白紙委任状は、交付される相手にとってみれば、非常に便利な委任状です。

しかし、たとえどんなに信頼できる相手であっても、白紙委任状に署名・サインして、交付するべきではありません。

というのも、その相手がいくら信頼できるとはいえ、白紙委任状が、必ずしも当初想定した使われ方をするとは限りません。

例えば、万が一、紛失してしまったり、何らかのトラブルで第三者の手に渡ってしまった場合、救済のしようがないからです。

このため、たとえ信頼できる相手であっても、白紙委任状ではなく、委任内容と受任者を特定した委任状を交付するべきです。

ポイント

たとえ信頼できる相手であっても、白紙委任状ではなく、委任内容・受任者を特定した委任状を渡すべき。