このページでは、個別契約書を使用した個別契約の締結によって発生するリスクについて解説しています。

個別契約は、特約がない限り、基本契約の内容を上書きできます。

このため、個別契約書の内容については、基本契約書の記載と異なっていないか、よく確認する必要があります。

このページでは、こうした個別契約のリスクについて、解説します。




個別契約・個別契約書とは?

【意味・定義】個別契約とは?

【意味・定義】個別契約とは?

個別契約とは、基本契約を締結したうえで締結される、個々の取引に関する個別の契約のことをいう。

個別契約は、基本契約とセットで締結される契約の一種で、個々の取引の内容について規定された個別の契約のことです。

なお、基本契約につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

基本契約・取引基本契約とは?

【意味・定義】個別契約書とは?

【意味・定義】個別契約書とは?

個別契約書とは、個別契約が記載された契約書のことをいう。

個別契約書は、個別契約の契約条項が記載された契約書のことです(個別契約≠個別契約書)。

一般的な契約書と同様に、当事者の数だけ作成され、相互に取交し、1部をそれぞれの当事者が保有します。

なお、個別契約の締結の方法としては、この他、注文書・注文請書や発注書・受注書を取交す方法もあります。

契約書と注文書(発注書)・注文請書(受注書)の違いにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

注文書・発注書や注文請書・受注書は契約書なの?その違いは?

ポイント
  • 個別契約とは、基本契約を締結したうえでおこなわれる、個々の取引に関する個別の契約のこと。
  • 個別契約書とは、個別契約が記載された契約書のこと。





個別契約は基本契約より優先される

基本契約に優劣の規定がなくても「個別契約>基本契約」

原則として、個別契約は、基本契約よりも、優先して適用されます。

つまり、個別契約の契約内容が、基本契約の契約内容と違う場合や、矛盾する場合は、個別契約が優先されます。

この点について、基本契約の条項として、個別契約との関係について、個別契約が優先することが規定されている場合は、当然、そのように解釈されます。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】個別契約の優劣に関する条項

第○条(個別契約の適用)

個別契約の内容として本契約の内容と異なるものが規定された場合または個別契約の内容と本契約の内容が矛盾した場合、個別契約を優先して適用する。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




仮に、基本契約の条項として、個別契約との関係に関するものがなかったとしても、個別契約が優先されます。

というのも、一般的な原則として、契約は、日付が新しいものが最も優先して適用されるからです。

例外として基本契約が最優先の場合は「個別契約<基本契約」

こうした「個別契約>基本契約」の原則ではない、例外となる基本契約の条項もあります。

つまりこれは、基本契約が個別契約に優先する条項です。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】個別契約の優劣に関する条項

第○条(個別契約との関係)

個別契約の内容として本契約の内容と異なるものが規定された場合または個別契約の内容と本契約の内容が矛盾した場合、基本契約を優先して適用する。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




基本契約にこのような条項がある場合は、個別契約の内容がどのようなものであれ、基本契約と矛盾する内容は、基本契約のほうが優先して適用されます。

もっとも、こうした「個別契約<基本契約」の内容は、めったに見かけないものです。

ポイント
  • 原則として、個別契約は基本契約より優先される。
  • 例外として、基本契約が個別契約より優先されるのは、基本契約にそのような規定がある場合に限る。





「個別契約>基本契約」のメリット・デメリット

こうした「個別契約>基本契約」のメリット・デメリットは、次のとおりです。

「個別契約>基本契約」のメリット・デメリット
  • 【メリット】個々の取引きの状況に応じて、その取引に限り、基本契約の例外を設定し、柔軟に契約を運用できる。
  • 【デメリット】個別契約が基本契約よりも優先されるため、場合によっては、個別契約書によって、基本契約が骨抜きなるリスクがある。

すでに触れたとおり、「個別契約<基本契約」の基本契約がめったにないのは、個別契約のメリットが活かせなくなるからです。

さて、問題となるのが、デメリットのほうです。





個別契約書は必ず隅々までチェックする

基本契約が骨抜きにする個別契約書とは?

「個別契約>基本契約」の場合は、個々の取引きに応じて、柔軟に対処できるメリットがあります。

他方で、せっかく時間をかけて合意した基本契約の内容とは別の内容での契約が成立するリスクがあります。

いくら基本契約で良心的な契約内容が規定されていても、個別契約で非常に厳しい(緩い)内容が規定されていれば、基本契約の契約内容がまったく意味がなくなってしまいます。

基本契約は個別契約で骨抜きにされる

どんなに良心的な基本契約も、個別契約に厳しい(あるいは緩い)内容を規定することで、骨抜きにできる。

実際によく見かけますが、個別契約書に、非常に細かい字(8ポイント程度)で、契約条件がびっしりと記載されていることがあります。

これらの細かな規定も、個別契約が基本契約に優先される以上、有効となります。

これでは、基本契約の契約内容が比較的対等な条件であったとしても、決して油断はできません。

相手方が作成した個別契約書は特に警戒する

こうした細かい契約内容を確認せずにサインしてしまうと、知らないうちに、相手にとって有利な個別契約を結んでしまうことになります。

個別契約については、一般的には、特にどちらの契約当事者が作成するべきかは、民法では規定されていません。

契約書はどちらが用意するべきなのでしょうか?

このため、相手方が個別契約書を作成した場合は、細心の注意を払って確認するべきです。

相手が作成して提示するファーストドラフトのメリット・デメリット・リスクは?

特に、特記事項、留意事項、特約事項など、細かい点にまで目を配りましょう。

そもそも確認が必要な複雑な個別契約書とはしない

また、一般的な基本契約では、個別契約の締結には、よりシンプルな注文書(発注書)・注文請書(受注書)を使用します。

基本契約において、個別契約書を使用するのば、次のような限られた場合です。

個別契約書を使う具体例
  • システム開発などの複雑な契約において、段階的に契約を締結する場合(いわゆる多段階方式)において、個々の工程の取引きについての契約を締結するとき。
  • 個々の取引きそのものが複雑・特殊なものであるため、注文書(発注書)・注文請書(受注書)には記載しきれない契約内容である場合。
  • 特に受注側の契約当事者が、契約の成立の証拠を確保しておくため、注文書(発注書)・注文請書(受注書)を使いたくない場合。

こうした事情がない限り、個別契約の締結で、確認に手間がかかる個別契約書を使うべきではありません。

また、仮に個別契約書を使う場合であっても、なるべく確認がしやすいように、シンプルな内容とするべきです。

ポイント
  • どんなに良心的な基本契約も、個別契約に厳しい(あるいは緩い)内容を規定することで、骨抜きにできる。
  • 相手方が作成した個別契約書は、相手方にとって有利な内容、場合によっては基本契約を骨抜きにする内容が規定されている可能性がある。
  • 個別契約書の文章は、本文のみならず、特記事項、留意事項、特約事項に至るまで、徹底して確認する。
  • 個別契約の締結には、なるべく確認が必要となる複雑な個別契約書は使わない。