このページでは、個人事業者・フリーランスが契約当事者になる場合における、署名・サインのしかたについて解説しています。

企業間の契約において、相手方が個人事業者・フリーランスが当事者である場合は、企業側としては、相手方が消費者として扱われないよう、署名・サインのしかたには注意しなければいけません。

この点については、特に、本名と併せて、屋号、ペンネーム、雅号、変名、芸名等を記載してもらうことが重要となります。




個人事業者・フリーランスの署名・サインのしかた

署名欄には屋号・ペンネーム+代表+氏名

個人事業者・フリーランスの署名・サインでは、署名欄には、必ず次の三点セットを記載してもらいます。

個人事業者・フリーランスの署名・サインで必要な三点セット
  • 「屋号・ペンネーム・雅号・変名、芸名等」の表記
  • 「代表」の肩書き
  • 「個人の氏名」の署名・記名

例えば、鈴木事務所という屋号の個人事業者で、代表者の氏名が鈴木一郎さんの場合は、その署名・サインは、次のとおりです。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】個人事業者と株式会社が取り交わす契約書の署名欄

2024年11月1日

東京都◯◯区◯◯町◯◯

鈴木事務所こと鈴木一郎

代表 鈴木 一郎 

 

神奈川県◯◯市◯◯区◯◯町◯◯

佐藤工業株式会社

代表取締役 佐藤 太郎 

(※屋号・商号・人名は架空のものです)

「◯◯(屋号)こと◯◯(氏名)」が重要

屋号単体では契約当事者を特定できない

個人事業者・フリーランスによる署名・サインで重要となるのが、屋号、ペンネーム、雅号、変名、芸名等の事業上の表記です。

【意味・定義】屋号とは?

屋号とは、一般に、個人事業者が使用する事業上の名称をいう。

契約書の署名欄への署名・サインは、当事者を特定できることが重要となります。

しかしながら、個人事業者・フリーランスの屋号等は、商号とは違い、第三者が確認できるような登記はされていません(屋号を商号として登記できる制度自体はあります)。

このため、個人名(と住所)で当事者を特定する方法しかありません。

屋号+個人名で契約当事者を特定する

また、屋号単体では、原則としてどのような屋号であれ、自由に名乗ることができます。

それこそ、「鈴木事務所」や「佐藤商店」などは、全国に数えきれないほどあるでしょう。

このため、「◯◯(屋号)こと◯◯(氏名)」という表記で、当事者を特定できるように記載します。

もっとも、これでも当事者を特定したことにはならないため、住所や押印によって、さらに特定できるようにします。

屋号の記載は「事業者としての契約」の証拠となる

このように、屋号には当事者を特定する機能はありませんが、それでも、個人事業者・フリーランスによる署名・記名押印には、屋号を記載する必要があります。

というのも、屋号の記載は、一般消費者ではなく、「事業者として契約を締結した」証拠となるからです。

消費者として契約を締結したのか、事業者として契約を締結したのかは、後述のとおり、適用される法律がまったく違ってきます。

このため、同じ個人であっても、消費者ではなく「事業者」であることを明確にするためにも、屋号の記載は極めて重要となります。

印鑑は個人の実印で押印してもらう

印鑑については、理屈のうえでは、直筆の署名・サインがあれば、特に押印がなくても契約自体は成立します。

ただ、相手が個人事業者・フリーランスの場合は、重要な契約であれば、より確実に契約書が証拠となるように、実印の押印をしてもらうべきです。

この場合、印鑑登録証明書の提出を求めることで、その押印が実印によるものである証拠となります。

法人の場合と違って、個人の場合は、印鑑登録証明書も比較的入手しやすいものです。

このため、重要な契約の手続きの際には、できるだけ個人事業者・フリーランスの方に印鑑登録証明書の提出を求めるべきです。

ポイント
  • 個人事業者・フリーランスが契約当事者になる場合は、署名欄には「◯◯屋号こと◯◯(氏名)+代表+氏名」。
  • 個人事業者・フリーランスが相手方の場合、印鑑は、個人の実印で押印してもらう。
  • 重要な契約の場合は、印鑑登録証明書を提出してもらう。





個人事業者は消費者として保護されない

個人事業者・フリーランスはあくまで事業者

個人事業者・フリーランスは、事業上の契約では、当然ながら事業者として扱われます。

このため、個人事業者・フリーランスは、消費者とは扱われず、消費者を保護する法律は、適用されません。

消費者を保護する法律の具体例としては、消費者保護法、特定商取引法などがあります。

これらの法律は、当然、事業者である個人事業者・フリーランスには適用されません(一部、特定商取引法が適用される場合もあります)。

消費者保護の法律やクーリングオフによる保護は適用対象外

例えば、個人事業者・フリーランスは、クーリングオフなどの消費者を保護している制度は、ほとんど活用できません。

たまに個人事業者・フリーランスの方から、フランチャイズ契約のような事業者間の契約をクーリングオフしたいという相談が寄せられることがあります。

残念ながら、こうした事業者間の契約は、クーリングオフができません。

ただし、一部の法律は、個人事業者・フリーランスであっても、クーリングオフができる場合があります。

例えば、特定商取引法の業務提供誘引販売取引に該当する場合などは、個人事業者・フリーランスでも、クーリングオフができる場合もあります。

契約に関する法律も商法が優先して適用される

契約に関しても、民法よりも商法が優先して適用されます。

商法は、商人(=事業者)のための法律です。契約についての規定も、民法よりもシビアな内容の法律になっています。

例えば、民法が適用される場合は、発注者による契約の申込みを放置していても、契約が自動的に成立することはありません。

しかし、商法が適用される場合は、発注者による契約の申込みを放置していると、契約が自動的に成立することがあります(商法第509条)。

商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)

1 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。

2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。

個人事業者・フリーランスは下請法・独占禁止法により保護される

個人事業者・フリーランスは、法的には、大企業と対等として扱われます。

ただし、一部の例外、特に下請法、フリーランス新法(保護法)、独占禁止法などにより、保護される可能性はあります。

下請法や独占禁止法を活用することにより、立場の差を埋めることができる場合もあります。

下請法や独占禁止法につきましては、弊所運営サイト「業務委託契約書の達人」の以下のページをご参照ください。

https://www.gyoumuitakukeiyakusho.com/what-is-act-against-delay-in-payment-of-subcontract-proceeds-etc-to-subcontractors/

独占禁止法とは?私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法等の業務委託契約との関係も解説

ポイント
  • 個人事業者・フリーランスは、あくまで事業者であり、消費者ではない。
  • 個人事業者・フリーランスは、消費者保護の法律やクーリングオフによる保護は、原則として適用対象外となる。
  • ただし、一部の法律にもとづくクーリングオフについては、事業者にも適用される。
  • 契約に関する法律は、商法が優先して適用される。
  • 個人事業者・フリーランスは、法的には大企業とも対等の立場となる。
  • ただし、下請法や独占禁止法が適用される場合は、これらの法律により保護されることもある。





相手が個人事業者・フリーランスの場合は要注意

消費者保護の法律が適用されないように注意する

このように、個人事業者・フリーランスには、消費者を保護する法律が適用されません。

逆に、事業者ではなく消費者として扱われると、消費者を保護する法律が適用される場合があるということです。

この点は、企業側の立場で、相手方が個人事業者・フリーランスの場合は、注意が必要です。

契約の相手が個人事業者・フリーランスである場合は、冒頭でも触れたとおり、代表者の氏名だけでなく、屋号も記載してもらって、相手側が消費者として扱われないようにします。

契約書には個人事業者であることを明記する

また、契約書の記載内容としても、前文、本文中、後文、署名欄などに、相手が個人事業者・フリーランスであることを明記するべきです。

こうすることで、契約書が、相手方も個人事業者・フリーランスとしての意識で契約を締結した、ひとつの証拠となります。

なお、個人事業者・フリーランスを相手にした業務委託契約では、単に相手が個人事業者・フリーランスである旨を契約書に記載しただけでは、業務委託契約ではなく、雇用契約・労働契約とみなされるリスクがあります。

この点につきましては、詳しくは、姉妹サイト「業務委託契約の達人」の「個人事業者・フリーランスとの業務委託契約と雇用契約・労働契約の15の違い」をご覧ください。

ポイント
  • 相手方が個人事業者・フリーランスの場合は、消費者保護の法律が適用されないように注意する。
  • 個人事業者・フリーランスと取交す契約書には、相手方が個人事業者・フリーランスであることを明記する。
  • ただし、個人事業者・フリーランスが相手方となる業務委託契約では、単に契約書にその旨を規定したとしても、雇用契約・労働契約とみなされる可能性もある。