株式会社の課長・係長・営業員は、会社の代表権はありません。
ただ、会社法により、一部の契約に関する締結権が認められています。
このため、契約の相手方の署名者・サイナーが課長・係長・営業員などである場合は、その契約について、課長・係長に契約の締結権があるかどうかが重要です。
このページでは、こうした課長・係長による、契約書への署名・サインについて、わかりやすく解説します。
課長・係長は部分的な契約締結権がある
課長・係長は、会社内での職制にもとづく名称であり、正式な法律上の名称ではありません。
また、通常は、課長・係長には、会社の代表権がありませんので、会社の代表権者として契約を締結することはできません。
ただ、一般的に、課長・係長は、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」とされます(会社法第14条第1項)。
会社法第14条(ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人)
1 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。
2 前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
引用元:会社法 | e-Gov法令検索
このため、「事業に関するある種類又は特定の事項」に関しては、「一切の裁判外の行為をする権限を有する」ため、会社としての署名・サインができます。
営業員に契約締結権がある場合は?
会社法における営業員は「使用人」=契約締結権はない
営業員は、会社法では、特に定義や地位が規定されていません。
一般的な会社での位置づけからすると、特に権限が与えられていない使用人であると思われます。
こうした使用人の場合は、通常は、契約を締結する権限はありません。
ただ、会社によっては、営業員に対し、ある程度の裁量権を与えることもあります。
この場合は、すでに触れた課長や係長のような、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」(会社法第14条第1項)とされることもあります。
例外的に契約締結権を認められる場合
物販等の店舗では使用人による契約の締結が認められる
こうした裁量権を認められた営業員による署名・サインは、会社による署名・サインとみなされます。
また、一般の使用人であっても、物品の販売等を目的とする店舗の使用人の場合は、その店舗にある物品等の販売に関する権限を有します(会社法第15条)。
会社法第15条(物品の販売等を目的とする店舗の使用人)
物品の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為をいう。以下この条において同じ。)を目的とする店舗の使用人は、その店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
引用元:会社法 | e-Gov法令検索
例えば、コンビニの店員なども、この会社法第15条にもとづき、物品を販売できます。
法律にもとづき契約締結の権限が認められる使用人もいる
なお、特定の事項について、営業員が契約を結ぶ権限を有している業種もあります。
例えば、旅行業法、金融商品取引法、商品取引所法における外務員などが該当します。
これらの外務員は、その法律に規定された事項について、有効に契約を結ぶことができます。
なるべく営業員ではなく担当上司と契約を結ぶべき
この他の業種では、特に法律で規定されていない限り、営業員には、契約を結ぶ権限はありません。
このため、相手方の営業員が契約締結について担当する場合に、その営業員に契約締結権がないときは、契約書には、その営業員による署名・サインをさせてはなりません。
営業員の署名・サインでは、いざその契約についてトラブルになった際に、契約の成立そのものが否定される可能性があります。
ですから、契約締結の相手方が営業員でる場合は、その担当上司、できればより役職が上の管理職(できれば課長以上)の署名・サインを求めるべきです。
なお、株式会社の署名・サインのしかたにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
ポイント
- 広範な裁量権を認められていない限り、原則として営業員には契約締結権はない。
- 物販の店舗の使用人や、一部の法令に規定された外務員には、部分的に契約の締結権がある。
- 相手方の担当者が契約の締結権がない営業員である場合は、署名・サインをもとめず、その上司(できれば課長以上)に署名・サインを求める。
代表取締役や上席の管理職の署名・サインを求める
なるべく課長以上の役職の署名・サインとする
契約の内容や、重要度にもよりますが、一般的な会社による契約では、営業員が署名・サインをすることは、まずありません。
係長でも、契約書に署名・サインをする機会は滅多にないのではないでしょうか。
一般的に、契約書への署名・サインは、契約の内容に応じて、課長以上の役職の者がすることが多いです。
課長以上の役職の者による署名・サインは、よほどのことがない限り、会社による署名・サインとして扱われます。
契約書はできるだけ代表取締役+実印で対処する
ただ、やはり会社による署名・サインのうち、最も確実なのは、代表取締役による署名・サインと実印による押印です。
これに加えて、印鑑登録証明書の提出があれば、より確実であるといえます。
このため、よほど相手方の会社の規模が大きい場合や、実印の管理が厳格な場合を除いて、なるべく契約書への株式会社のサインは、代表取締役の署名・サインと実印の押印を求めるべきです。
なお、印鑑登録証明書の提出を求めた場合、手間がかかるために、相手方の心証を害する可能性があります。
ですから、印鑑登録証明書の提出は、よほど重要性が高い契約でもない限り、控えるべきでしょう。
ポイント
- 相手が会社である契約の場合、署名者・サイナーは、できるだけ課長以上の権限を持つ管理者・管理職とする。
- 可能であれば、代表取締役の署名・サインと、実印の押印を求める。
- 実印に加えて印鑑登録証明書があればベストだが、印鑑登録証明書の提出を求めた場合、相手方の心証を害する可能性がある。