契約書は、どちらの当事者が作成するべきなのでしょうか?
原則として、契約書は、どちらの当事者が作成しても構いません。
例外として、法令により作成が義務づけられいる契約書(例:下請法にもとづく三条書面など)については、その法令により作成が義務づけられた当事者が作成しなければなりません。
なお、企業間取引の契約においては、契約交渉の主導権を握るためにも、なるべく自社で契約書を作成し、製本までするべきです。

このページでは、弊事務所によく寄せられるご質問である、「契約書は契約当事者のどちらが用意するべきなのか?」という点について解説しています。




契約書は契約当事者のどちらが用意しても構わない

民法・商法は特に契約書の作成義務者は規定されていない

契約全般に適用される民法や商法では、契約書の作成については、特にどちらかの当事者に作成を義務づけてはいません。

そもそも、契約の大原則として、「契約自由の原則」があります。

【改正民法対応】契約自由の原則とは?4つの分類と例外をわかりやすく解説

この契約自由の原則のうちの、「方法自由の原則」により、契約書は、誰が用意しても構いません。

【意味・定義】方法自由の原則(契約自由の原則)とは?

方法自由の原則とは、契約自由の原則のひとつであり、契約締結の方法を自由に決定できる原則をいう。

法令により義務が義務づけられる当事者もある

ただし、例外として、一部の法律によっては、一方または双方の契約当事者に、契約書等の書面の作成が義務づけられている場合があります。

代表的な例としては、下請法にもとづく三条書面の作成義務です。

下請法第3条では、親事業者に対し、下請業者に交付する書面の作成を義務づけています。

また、建設業法第19条では、「建設工事の請負契約の当事者」(=受発注双方の当事者)に対し、「書面」の作成を義務づけています。

このように、意外と契約書の作成を義務づけている法律は多いので、注意が必要です。

ポイント
  • 原則として、契約書はどちらが作成や製本をしてもいい。
  • 例外として、法律によって、一方または双方の契約当事者に契約書作成の義務が課される場合もある。
  • 特に、下請法が適用される契約では、親事業者の側に、三条書面=契約書の作成義務がある。





できるだけ契約書を自社で用意をするべき

海外では立場が優位なほうが契約書を用意する

このように、法令で義務づけられている場合を除いて、契約書は、当事者のどちらが用意しても構いません。

ただ、契約書をどちらが用意するのかは、実は非常に大きな意味を持ちます。

海外の場合は、通常、交渉上の立場(これを「バーゲニングポジション」といいます)が優位なほうが用意します。

なぜかというと、契約書を用意する側が、交渉の主導権を握ることができるからです。

ちなみに、こうした最初に作成する契約書のことを、「ファーストドラフト」といいます。

【意味・定義】ファーストドラフト(first draft)とは?

ファーストドラフト(first draft)とは、契約実務において、一方の当事者から、相手方に対し提示される、最初の契約書の草稿のことをいう。

相手が作成して提示するファーストドラフトのメリット・デメリット・リスクは?

日本でも、すでに契約書を用意している場合は、立場の優位な当事者が一方的にサインを迫る、というケースがあります。

契約書がない場合は必ずしも優位なほうが用意するとは限らない

もっとも、いずれの当事者にも契約書の用意がない場合は、若干話が違ってきます。

海外では、いずれの当事者にも契約書の用意がない場合は、やはり立場が優位なほうが、契約交渉の主導権を握るために、費用も負担して、契約書を用意します。

ところが、日本では、費用を負担したくないためか、立場が優位でないほうが、契約書を作成することもあります。

管理人の経験上、多くの企業には、契約書を用意することによって、契約交渉の主導権を握ろうとする意識がほとんどないようです。

契約書を作成することで立場が弱くても優位に立てる

この点については、誰もが知っているような東証一部上場企業(特に社歴が浅いベンチャー企業など)や、その子会社などでも、同様の傾向があります。

こうした大企業でも、契約書を自ら作成せずに、取引先の零細企業に契約書を用意させることもよくあります。

しかも、特に疑うことなく、それにそのままサインしてしまうことまであります(もっとも、規模が大きい取引は別です)。

つまり、日本では、立場が弱いにも関わらず、契約書を作成することで、契約交渉の主導権を握ることができるチャンスがある、ということです。

ポイント
  • 海外では、たとえ作成費用がかかったとしても、契約書は立場が優位なほうが用意する。
  • 日本では、契約書がない場合は、必ずしも立場が優位なほうが用意するとは限らず、立場が劣位なほうが用意することもある。
  • 契約交渉で立場が劣位であっても、契約書を用意することで、交渉の主導権を握れることもある。





下手な契約書は立場をさらに悪化させる

ただし、こうしたチャンスを活かせるのは、それだけしっかりとした契約書を作成し、さらに交渉を優位に進めるだけの担当者の能力が必要となります。

ヘタに質の低い契約書を作ってしまうと、相手に契約実務の能力を見透かされてしまうリスクがあります。

こうした自社が作成するファーストドラフトのリスクにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

自社が作成して提示するファーストドラフトのメリット・デメリット・リスクは?

契約交渉の主導権を握るチャンスがあっても、実際に主導権を握ることのできるだけの契約書を用意できなければ、意味がありません。

このため、取引先から契約書の作成を持ちかけられた場合は、専門家と相談のうえ、慎重に対策を講じてください。

ポイント

契約書を用意する場合、質の低い契約書を相手方に提示してしまうと、かえって自社の契約実務の能力を見透かされるリスクとなる。