このページでは、契約解除条項について、解説しています。
ほとんどの契約書では、わざわざ契約解除条項を規定します。
というのも、民法上の契約の解除に関する規定は、あまりに限定された条件でしか利用できません。
このため、より柔軟に契約の解除ができるように、わざわざ契約解除の条項を規定し、より広い契約解除事由を設定します。
このページでは、契約解除条項と民法上の契約解除の規定について、詳しく解説します。
契約は原則として解除できない
契約解除ができるのは例外中の例外
契約とは、すなわち約束ですから、簡単には解除できるものではありません。
「Pacta sunt servanda」(ラテン語で「合意は拘束する」)という言葉があるように、合意=契約は守られるのが当然です。
このため、当事者の合意がない限り、一方の当事者が勝手に契約を解除することはできません。
例外として、契約の解除ができるのが、契約解除権にもとづく場合です。
契約解除権(契約解約権)は主に3種類(+1種類)
契約解除権には、次の3種類があります。
- 約定解除権=契約にもとづく一定の条件つきの契約解除権
- 任意解除権=契約にもとづく任意の契約解除権
- 法定解除権=法律にもとづく契約解除権
そして、厳密には契約解除権ではありませんが、当事者の合意がある場合も、契約解除ができます。
これを合意解除(合意解約)といいます。
契約解除条項は、このうちの、約定解除権のことです。
- 原則として、契約は守られるべきものであり、契約解除・契約解約は、あくまで例外。
- 解除権は、約定解除権、任意解除権、法定解除権の3種類。
契約解除が可能となる契約解除事由とその具体例
【意味・定義】契約解除事由とは?
では、実際に契約解除条項を見てみましょう。
第○条(契約解除)
本契約の当事者に次の各号の事由が生じた場合、相手方は、本契約の全部または一部を解除できるものとする。
(1)(以下省略)
(※便宜上、表現は簡略化しています)
このように、契約解除条項では、一般的に、契約当事者による契約の解除ができる事由を各号で列記するように規定します。
この契約を解除できる事由のことを、「契約解除事由」といいます。
契約解除事由とは、一方の当事者に生じた場合に、他方の当事者が契約を解除できるようになる事由をいう。
契約解除事由の11の具体例
一般的な契約では、次のような契約解除事由を規定します。
- 公租公課・租税の滞納処分
- 支払い停止・不渡り処分
- 営業停止・営業許可取り消し
- 営業譲渡・合併
- 債務不履行による仮差押え・仮処分・強制執行
- 破産手続き開始申立て・民事再生手続き開始申立て・会社更生手続開始申立て
- 解散決議・清算
- 労働争議・災害等の不可抗力
- 財務状態の悪化
- 信用毀損行為
- 契約違反・債務不履行
これらの契約解除事由は、一般的なものですので、契約の実態によっては、適宜加除修正する必要があります。
契約書に契約解除条項を規定する際は、この契約解除事由の規定が非常に重要となります。
契約解除事由と期限の利益喪失事由は共通する部分が多い
なお、これらの事由は、期限の利益喪失条項における、「期限の利益喪失事由」と共通するものです。
つまり、多くの契約解除事由は、期限の利益を喪失させるべき危機的な緊急事態を定めたものといえます。
また、逆に、期限の利益喪失事由に相当するような事態では、契約の解除も検討するべきだともいえます。
暴力団排除条項にも契約解除権を規定する
なお、暴力団排除条項を規定する場合、その一部として、契約解除権を規定します。
この契約解除権も、一種の約定解除権といえます。
暴力団排除条項の場合は、催告が不要な無催告解除とします。
また、契約を解除する側は、その契約解除による自らの損害賠償の免責と、相手方に対する損害賠償請求権も併せて規定します。
- 契約解除事由とは、一方の当事者に生じた場合に、他方の当事者が契約を解除できるようになる事由のこと。
- 契約解除事由と期限の利益喪失事由は共通する部分が多い。
- 暴力団排除条項にも契約解除権を規定する。
契約解除事由を契約書に追記する理由
【理由1】民法上の法定解除権では不十分だから
民法では、基本的には、(後ほど解説する)債務不履行の状態になっていないと、法定解除権を行使できません。
このため、履行遅滞になるおそれがある状態や、履行不能になるおそれがある状態では、契約の解除はできません。
また、民法では、契約解除の手続きが必ずしも明確でない部分があり、契約解除=トラブルとなっている状態では、実質的に解除権が行使できない可能性があります。
そこで、契約書では、契約の解除ができる条件=要件(契約解除事由)や効果を追加・修正し、手続きを明確に規定します。
こうすることで、状況に応じて、柔軟に契約を解除できるようになります。
【理由2】協議ができる状態ではないから
また、一般的に、契約を解除しようとする状態では、信頼関係が破綻している場合が多いです。
このような状態では、契約の解除に向けた協議ができず、事実上、コミュニケーションが取れないことがほとんどです。
こうした場合、契約書で、あらかじめ詳細に契約解除の条件(要件)と手続きを明記しておくことで、わざわざ相手方とコミュニケーションを取ることなく、契約解除ができます。
このように、協議が成立しない状態でこそ、契約解除条項は効果を発揮します。
- 約定解除権を設定する理由のひとつは、民法上の法定解除権では不十分だから。
- 約定解除権を設定する理由のもうひとつは、契約の解除・解約を検討する状態では、協議ができる状態ではないことが多いから。
無催告解除権と催告解除権とは?
【意味・定義】無催告解除権・催告解除権とは?
約定解除権には、催告の有無により、2種類あります。
つまり、ひとつは「無催告解除権」、もうひとつは「催告解除権」です。
- 無催告解除権とは、契約解除事由が発生した場合に、契約当事者からの催告を要せずして、当然に契約解除ができる権利をいう。
- 催告解除権とは、契約解除事由が発生した場合であっても、契約当事者からの一定の期間を定めた催告を経て、なおその契約解除事由が解消されないときに、契約解除ができる権利をいう。
一般的に、緊急性が高い契約解除事由については無催告解除権とし、そうでない契約解除事由については催告解除権とします。
債務の履行に関わる緊急度に応じて使い分ける
具体的には、債務者の債務の履行に重大な影響を与えるような緊急事態は、無催告解除権とします。
つまり、無催告解除権は、いちいち催告している時間がもったいない契約解除事由や、催告しても解消される見込みがないほど深刻な契約解除事由などの、緊急事態に備えたものです。
無催告解除権は、催告の時間的余裕がない、あるいは解消される見込みがない、深刻な契約解除事由に備えて規定する。
これに対し、それほど緊急性が高くないまでも、契約当事者による債務の履行に影響を与える契約解除事由は、催告解除権とします。
つまり、催告解除権は、債契約当事者に対し催告をする余裕がある契約解除事由や、催告により解消される可能性がある契約解除事由などの、緊急性が高くない事態に備えたものです。
催告解除権は、催告の時間的余裕がある事態や、催告により契約解除事由が解消される可能性のある事態に備えて規定する。
これについても、期限の利益の喪失に請求が必要か、または不要か、という点と同様です。
- 無催告解除権とは、契約解除事由発生した場合に、契約当事者からの催告を要せずして、当然に契約解除ができる権利のこと。
- 催告解除権とは、契約解除事由発生した場合であっても、契約当事者からの一定の期間を定めた催告を経て、なおその契約解除事由が解消されないときに、契約解除ができる権利のこと。
- 無催告解除権は、緊急度が高い事態や解消する見込みがない契約解除事由に備えて規定する。
- 催告解除権は、緊急度が低い事態または解消する見込みがある契約解除事由に備えて規定する。
民法上の契約解除事由はたったの3つ
民法では債務不履行の場合に契約解除ができる
民法では、契約解除事由が、わずか3つしか規定されていません。
民法上、契約解除ができるのは、いわゆる「債務不履行」に該当する場合です。
債務不履行には、以下の3つのパターンに限定されています。
履行遅滞の定義・要件とは?
履行遅滞とは、契約当事者(債務者)が、契約の履行期が到来しても、契約を履行しないことをいう。
履行遅滞とは、文字どおり、契約の履行が遅れることをいいます。
履行遅滞は、次の3つの条件(要件)を満たした場合に発生します。
- 履行期の経過:債務者が履行期に債務を履行しないこと。
- 違法性:履行遅滞が違法であること。
- 解除手続き:債権者が解除の手続き(民法第541条)を履践していること。
履行不能の定義・要件とは?
履行不能とは、後発的な事由によって、契約当事者による債務の履行ができなくなることをいう。
履行不能は、契約成立時には履行が可能であった債務が、後発的な事由によって、履行期には履行が不能となることをいいます。
また、このような後発的事由による不能のことを「後発的不能」といいます。
履行不能は、次の4つの条件(要件)を満たした場合に発生します。
- 履行不能:債務の履行期に後発的事由により履行が不能であること。
- 債務者の帰責性:履行不能が債務者の責任によるものであること。
- 違法性:履行不能が違法であること。
- 意思表示:債権者が解除の意思表示をすること。
なお、履行不能が債務者の責任でない場合は、債務者は、責任を負わずに、危険負担の問題となります。
危険負担につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
不完全履行の定義・要件とは?
不完全履行とは、債務者による債務の履行のうち、債務の本旨に従っていない、不完全なものをいう。
不完全履行とは、一応は債務者による債務の履行があったものの、その履行が本来予定されていた債務の内容とは異なる不完全なものをいいます。
不完全履行は、次の5つの条件(要件)を満たした場合に発生します。
- 履行:債務の履行があったこと。
- 不完全性:履行された債務が不完全であること。
- 債務者の帰責性:不完全履行が債務者の責任によるものであること。
- 違法性:履行不能が違法であること。
- 意思表示:債権者が解除の意思表示をすること。
なお、民法では、不完全履行については、条文では明確に規定はありません。
- 民法では、原則として、履行遅滞、履行不能、不完全履行に該当する場合に、契約解除ができる。
- 履行遅滞とは、契約当事者が、契約の履行期が到来しても、契約を履行しないこと。
- 履行不能とは、後発的な事由によって、契約当事者による債務の履行ができなくなること。
- 不完全履行とは、債務者による債務の履行のうち、債務の本旨に従っていない、不完全なもの。