このページでは、契約書の条項のうち、危険負担の移転の時期の条項について、簡単にわかりやすく解説しています。
危険負担の移転の時期の条項は、契約にもとづき引渡しや納入がある物品・製品・成果物等の目的物に後発的事由が発生した場合、その損害を誰が負担するのかについて規定する契約条項です。
一般的な契約では、後発的事由のうち、発注者・受注者の双方に責任がない場合(例:自然災害や第三者による損害)の損害について、危険負担として取扱います。
具体的には、目的物の引渡し・納入の時点か、または検査完了の時点で、危険負担の当事者が、受注者から発注者に移転することが多いです。
なお、危険負担の移転の時期は、民法では実態とかけ離れた内容となっていて、非常に批判が多いため、契約で修正することが重要となります。
【意味・定義】危険負担とは?
危険負担は後発的事由による損害の負担のこと
危険負担の移転の条項は、売買契約、請負契約、取引基本契約など、目的物の引渡しや納入がある契約において規定される条項です。
危険負担とは、後発的な事由によって、目的物になんらかの損害が生じた場合における損害の負担をいう。
ここでいう後発的な事由というのは、天変地異のような不可抗力や火災・盗難などの第三者による災害が該当します。
一般的な契約では、危険負担の移転の条項では、最初は受注者の側に危険負担があるのを前提に、ある時点、通常は納入か検査完了のいずれかの時点で、発注者の側に移転するように規定します。
危険負担が問題になるのは発注者・受注者双方に責任がない場合
後発的事由のうち、契約条項として危険負担が問題となるのは、発注者・受注者の双方に責任がない場合に限ります。
発注者・受注者のいずれか、または双方に責任がある場合は、債務不履行か、または発注者の側の一方的な危険負担となります。
具体的には、次のとおりです。
責任当事者 | 危険負担・債務不履行 (履行不能)の別 | 負担当事者 |
---|---|---|
受注者 | 債務不履行(履行不能) | 受注者 |
発注者 | 危険負担 | 発注者 |
発注者・受注者双方 | 債務不履行(履行不能) | 発注者・受注者双方 (過失相殺による) |
発注者・受注者いずれも責任がない | 危険負担 | 契約の内容次第。 危険負担の規定がなければ民法による |
このように、発注者・受注者のいずれか単独の責任による後発的事由にもとづく損害は、債務不履行または危険負担による、という理論上の違いはありますが、当然、その責任者たる発注者・受注者のいずれかの負担となります。
また、発注者・受注者双方の責任による場合は、受注者にも責任があるため、債務不履行として扱い、発注者の過失の程度によって、過失相殺されます。
このため、契約条項として問題となるのは、あくまで、発注者・受注者の双方に責任がない場合における、危険負担と、その移転の時期です。
- 危険負担とは、後発的事由(例:天変地異・天災などの不可抗力や火災・盗難などの第三者による行為)による損害の負担のこと。
- 危険負担が問題になるのは発注者・受注者双方に責任がない場合に限る。発注者・受注者単独や、双方による場合は、単独による責任または双方による責任の負担。
危険負担の移転の時期を規定する理由は?
【理由1】単純に危険を負担したくないから
なぜわざわざ危険負担の移転の時期を、契約でわざわざ規定する必要があるのでしょうか?
そのほとんどの理由は、契約当事者の双方が、自社の責任でない損害について、単に責任を負担したくないからです。
一般的に、危険負担の移転については、目的物を引渡す側の受注者から、目的物を受取る発注者の側に移転します。
このため、受注者としては、「早く危険負担を移転させたい」と考えますし、発注者としては、「遅く危険負担を移転させたい」と考えます。
- 発注者:遅い時期に危険負担が移転したほうがいい。
- 受注者:早い時期に危険負担が移転したほうがいい。
こうした事情があるため、契約条項として危険負担の移転の時期を規定する際は、発注者と受注者の間で完全に利害が対立し、しばしば調整が難航します。
【理由2】民法の規定が複雑で実態に合っていないから
では、こうした危険負担の移転の時期について、契約で決めずに棚上げするとどうなるかといえば、民法の規定どおりに判断されます。
ただ、民法上の危険負担の規定は、非常に複雑なうえに、契約の実態に合っていません。
例えば、建物の売買契約で、契約の成立後、双方の責任が及ばない後発的事由(例:落雷・地震・火災など)で建物が滅失した場合、民法の規定どおりでは、まだ建物の引渡し前であっても、買主がその損害を負担しなければなりません(民法第534条)。
このように、民法の規定どおりでは、不合理な契約内容となることがあるため、よりシンプルに、わかりやすくするために、危険負担について契約で規定します。
- 契約条項の危険負担:危険負担の移転の時期や条件などをシンプルにわかりやすく規定できる。
- 民法の危険負担:契約の目的物が特定物か不特定物か、また、売買契約か請負契約かによっても、危険負担の当事者が変わるというように、非常に複雑でわかりづらい規定となっている。
なお、民法の原則どおりの危険負担につきましては、あまりに複雑な上に、契約実務としても実益が乏しいので、解説は割愛しております。
興味のある方は、姉妹サイト「業務委託契約の達人」の「業務委託契約の危険負担の移転の時期とは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?」をご覧ください。
- 危険負担の移転の時期を契約書に明記するのは、単純に、契約当事者の双方が、後発的事由による損害を負担したなくないから。
- 民法の危険負担の条項は、契約実務の実態とはかけ離れており、契約書で修正する必要がある。
危険負担の移転の時期は納入時か検査完了時
危険負担は受注者から発注者に移転する
すでに触れましたが、発注者・受注者の双方に責任がない場合、一般的な売買契約、請負契約、取引基本契約では、危険負担は、受注者から発注者に移転するように規定します。
問題は、どの時点で移転するのかです(後に詳しく触れますが、一般的には、納入時か検査完了時とします)。
契約実務上は、受注者単体に責任がある場合と発注者・受注者双方に責任がない場合を合わせて規定します。
言いかえれば、「発注者に責任がない場合」の危険負担について、規定します。
危険負担の移転の時期は発注者・受注者の利害が対立する
発注者・受注者の双方は、当然のことながら、危険負担=リスクを負うことを避けようとします。
また、繰り返しになりますが、危険負担は、受注者から発注者に移転します。
このため、発注者・受注者は、それぞれ、危険負担について、次のように考えます。
- 発注者:遅い時期に危険負担が移転したほうがいい。
- 受注者:早い時期に危険負担が移転したほうがいい。
つまり、目的物の引渡しを受ける発注者にとっては、なるべく遅くまで危険負担が移転しないほうが有利といえます。
他方、目的物の引渡しをする受注者にとっては、なるべく早く危険負担が移転したほうが有利です。
このように、危険負担の移転の条項は、発注者・受注者の間で、完全に利害が対立する条項です。
通常は納入時か検査完了時に危険負担が移転する
この点につき、一般的な売買契約、請負契約、取引基本契約では、発注者・受注者の双方に責任がない場合における危険負担の移転の時期は、納入時または検査完了時のいずれかとします。
つまり、納入時または検査完了時のいずれかまでは受注者が危険負担の責任を負い、それ以降は発注者が危険負担の責任を負います。
通常の売買契約、請負契約、取引基本契約では、検査は、納入の後で実施されます。
つまり、危険負担の移転の時期は、より早い納入時のほうが、受注者にとっては有利であり、より遅い検査完了時のほうが、発注者にとって有利ということです。
- 契約の目的物である物品・製品・成果物等の危険負担は、受注者から発注者に移転する。
- 発注者としては、遅い時期に危険負担が移転したほうがいい。
- 受注者としては、早い時期に危険負担が移転したほうがいい。
- 一般的な売買契約、請負契約、取引基本契約では、納入時か検査完了時に危険負担が移転する。
- 受注者としては、より早い方=納入時のほうが有利。
- 発注者としては、より遅い方=検査完了時のほうが有利。