前文には、契約の当事者、契約内容の趣旨・概略、契約がおよぶ範囲などを記載します。
契約の前文は、法的にはさほど重要なものではありませんので、簡潔に記載してかまいません。
ただし、一部の特殊な契約では、非常に重要な意味を持つ場合もあります。
このページでは、こうした前文のポイントについて、解説しています。
前文は当事者・概要・範囲等を記載する
前文には簡潔に契約全体の内容を記載する
前文は、契約書の表題・タイトルの次に書かれている文章のことです。
【意味・定義】前文(契約書)とは?
契約書の前文(ぜんぶん・まえぶん)とは、タイトル・表題の直後に書かれている文章であって、契約の当事者や概要が記載されたものをいう。
前文は、「ぜんぶん」または「まえぶん」と読み、正確には前者の読み方ですが、「全文」と区別するために、「まえぶん」の読み方をします。
前文には、主に次の内容を規定します。
前文の記載内容
- 契約当事者
- 契約の概要
- (場合によっては)契約が及ぶ範囲
- (場合によっては)契約に締結に至った経緯
前文の具体的な例文・記載例は?
前文は、具体的には、次のように規定します。
契約条項の記載例・書き方
株式会社◯◯商事(以下、「甲」という。)と株式会社◯◯工業(以下、「乙」という。)とは、物品の製造請負契約の基本的事項を規定することを目的として、この契約を締結する。
これは、製造請負についての取引基本契約の前文の例です。
当事者と契約の概要のみの簡素な表記ですが、特に特殊な事情がなければ、このような記載でかまいません。
前文は契約の解釈に影響を与えない
契約の前文は、あくまで契約の概要について記載したものです。
このため、前文は、直接的に契約の解釈に影響を与えるものではありません。
契約でトラブルがあり、裁判になった場合は、契約の本文に記載された個々の契約条項について解釈することとなります。
ただし、契約条項に記載がないトラブルが発生した場合は、前文の記載がひとつの判断材料となる可能性はあります。
このため、前文といえども、いい加減に書いてもいいわけではありません。
ポイント
- 前文は当事者・概要・範囲等を簡潔に記載し、契約の全体像がわかるようにする。
- 前文は、契約の解釈には原則として影響を与えないものの、本文の契約条項にまったくない事態が発生した場合は、参照される可能性がある。
前文での契約当事者の書き方は?
契約当事者が特定されればどのような書き方でもよい
前文での契約当事者の書き方は、契約当事者が特定できさえすれば、どのような書き方でも構いません。
英文の契約書では、本店の住所や法人が設立された根拠となる法律を書く場合があります。
日本国内の取引であれば、そこまで詳細に規定する必要はありません(もっとも、署名欄に住所を表記することが前提です)。
なお、前文では、当事者の略称(甲、乙など)を記載することもあります。
この他、前文における当事者の書き方・規定のしかたにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
部署や人物を特定することもある
なお、一部の契約では、前文で、会社だけではなく、部署や人物を特定することがあります。
これは、その契約が特定の部署との取引にだけ限定的に適用されるような場合に記載する方法です。
また、共同研究開発契約のように、極めて機密性が高い情報を取り扱う場合の秘密保持契約などでは、部署だけでなく、(情報を開示する)人物まで特定します。
これらの内容は、前文だけに規定しても法的効果がない可能性がありますので、改めて、その内容を本文の契約条項で規定するべきです。
ポイント
- 前文での契約当事者は、当事者が特定できれば、どのような書き方でも構わない。
- 文末に住所の表記がある場合は、商号だけ記載する。
- 場合によっては、前文で部署や人物を特定する。
- 前文では、当事者の略称を規定することもある。
前文での契約の概要の書き方は?
契約の概要は簡単なものでいい
前文での契約の概要の書き方は、その契約がどのような契約なのか、ひと言で簡潔に記載するだけで構いません。
契約が民法の典型契約である場合は、どの典型契約に該当するのかがわかるように(記載例の「製造請負契約」のように)記載します。
非典型契約の場合は、簡略的に、当事者の権利義務について規定してもいいでしょう。
正確な概要は目的条項で規定する
なお、正確な契約の概要は、目的条項でも規定します。
目的条項で契約の概略を規定する場合は、前文での契約の概略は、ごく簡単なものにするか、省略しても構いません。
この他、目的条項の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
前文での契約の概略は、簡潔な記載で構わない。ただし、本文の契約条項では、詳細に規定する。
特殊な事情がある場合は前文に記載する
場合によっては契約が及ぶ範囲を規定する
通常、企業間取引の契約では、会社間全体に効力が及びます。
このため、一部の部分だけに契約の効力を限定したい場合は、その旨を前文や本文中に規定します。
例えば、類似する売買契約や請負契約に関する取引基本契約をすでに締結している場合に、特定の商品・製品に限って、取引基本契約を締結したい場合などです。
この場合は、製品名や製品番号などを規定することで、限定的な効力とすることもできます。
場合によっては契約を締結した経緯を規定する
すでに存在する契約との関連性を明記する
契約書の種類によっては、前分に、契約を締結するに至った経緯も記載します。
例えば、すでに締結してある契約書や合意書にもとづいて、新たに契約締結する場合は、その関連性を明記しておかなければなりません。
これは、既存の契約や合意に関連している契約なのか、または独立した新たな契約なのかをはっきりさせるためです。
ですから、以前締結した契約書の内容を修正する契約書のような場合などでは、この点について注意しなくてはなりません。
トラブルの解決の契約(和解契約等)は特に慎重に事情を規定する
同様に、損害賠償請求の和解契約などでは、どのような損害にもとづくのか明記しておく必要があります(例えば、債務不履行の遅延損害金や交通事故など)。
この際、どういった事情が原因になっているのかを特定できるようにする必要があります。
つまり、例えば交通事故の場合は、日付、事故発生の場所の住所などを記載するように、どの事故に関する契約書なのかを特定できるようにします。
このように、締結に至った事実が重要な契約では、前文の記載が非常に重要となることもあります。
もちろん、こうした事情については、本文の契約条項として規定しても差し支えありません。
ポイント
- 類似する複数の契約を締結している場合、新たな契約が及び範囲を限定するために、前文に効力が及ぶ範囲を規定することがある。
- すでに締結している契約と関連する契約の前文には、それぞれの関連性について規定する。
- トラブルを解決する契約では、慎重にトラブルに至った経緯を規定する。