- 一般法と特別法にはどのような違いがありますか?
- 一般法と特別法の違いは、一般法がある特定の分野に全般的に適用される法律であるのに対し、特別法がその特定の分野のうち、さらに特定の事項に適用される点にあります。
このページでは、契約実務の担当者向けに、一般法と特別法の違いについてわかりやすく解説しています。
一般法とは、ある特定の分野の全般的な事項について適用される法律のことです。
これに対し、特別法とは、一般法と共通して適用される特定の分野のうち、さらに特定の事項に限定して適用される法律のことです。
このため、一般法と特別法は、適用される分野は共通していますが、適用される個々の事項に違いがあります。
このページでは、こうした一般法と特別法の違いや関係について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 一般法と特別法の違い。
- 一般法の定義。
- 特別法の定義。
- 一般法と特別法の関係性。
- 特別法の具体例とその一覧。
一般法と特別法の違いは?
一般法と特別法の違いは共通する分野のなかでの適用される事項
一般法と特別法の違いは、適用対象となる事項です。
一般法と特別法は、ともに共通の分野に適用されますが、適用対象は、一般法がその分野全般であるのに対し、特別法がその分野のうち、特定の事項に限って適用されます。
一般法と特別法の違い
一般法と特別法の違いは、共通して適用される分野のなかで、一般法が全般的に適用されるのに対し、特別法がさらに特定の事項に限って適用される点。
一般法と特別法の違いの具体例1:民法と商法
例えば、民法と商法はそれぞれ一般法と特別法の代表的な例とされます。
これらの関係で言えば、民法と商法は、ともに私人間の関係性の分野に適用されますが、民法は、その全般に適用されるのに対し、商法は、そのうちでも商人間(≒企業間)の特定の関係性の事項に限って優先して適用されます。
より具体的には、民法と商法は、以下にように適用されます。
民法(一般法)と商法(特別法)の適用の違い
- 消費者(=商人でない個人)と消費者の関係:民法が適用。商法は不適用。
- 商人と消費者の関係:民法が適用。商法は不適用。
- 商人と商人の関係:商法に規定がある事項(例:平常取引がある場合の契約の成立等。商法第509条)は同法が適用、それ以外は民法が適用
このように、民法と商法では、契約当事者の両者が商人であるかどうかと、商法に規定がある事項であるかどうかが、一般法と特別法のどちらが適用されるかどうかの要素となります。
一般法と特別法の違いの具体例2:民法と消費者契約法
また、民法と消費者契約法もそれぞれ一般法と特別法です。
これらの関係で言えば、民法と消費者契約法は、ともに私人間の契約の分野に適用されますが、民法は、その全般に適用されるのに対し、消費者契約法は、そのうちでも消費者と事業者(≒企業間)の特定の契約条項等に限って優先して適用されます。
より具体的には、民法と消費者契約法は、以下にように適用されます。
民法(一般法)と消費者契約法(特別法)の適用の違い
- 消費者(=事業者でない個人)と消費者の関係:民法が適用。消費者契約法は不適用。
- 事業者と消費者の関係:消費者契約法に規定がある事項(例:損害賠償の額の予定等。消費者契約法第9条)は同法が適用、それ以外は民法が適用
- 事業者と事業者の関係:民法が適用。消費者契約法は不適用。
このように、民法と消費者契約法では、契約当事者の一方が事業者、もう一方が消費者であるかどうかと、消費者契約法に規定がある事項であるかどうかが、一般法と特別法のどちらが適用されるかどうかの要素となります。
一般法と特別法の違いの具体例3:民法と建設業法
さらに、民法と建設業法もそれぞれ一般法と特別法です。
これらの関係で言えば、民法と建設業法は、ともに私人間の契約の分野に適用されますが、民法は、その全般に適用されるのに対し、建設業法は、そのうちでも建設工事請負契約の契約に限って優先して適用されます。
より具体的には、民法と建設業法は、以下にように適用されます。
民法(一般法)と消費者契約法(特別法)の適用の違い
- 消費者(=事業者でない個人)と消費者の関係:建設業法に規定がある事項(例:建設工事請負契約の内容等。建設業法第19条)については同法が適用、それ以外は民法が適用。
- 事業者と消費者の関係:同上。
- 事業者と事業者の関係:同上。
このように、民法と建設業法では、契約が建設工事請負契約であるかどうかが、一般法と特別法のどちらが適用されるかどうかの要素となります。
【意味・定義】一般法とは?
一般法とは、ある事項全般について一般的に適用される法律のことです。
【意味・定義】一般法とは?
一般法とは、ある事項全般について、一般的に適用される法律をいう。
例えば、私人間の民事上の事項全般については、民法が一般法として適用されます。
これが、民法が「私法の一般法」といわれる理由です。
一般法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【意味・定義】特別法とは?
特別法とは、ある特定の事項について、一般法よりも優先して適用される法律のことです。
【意味・定義】特別法とは?
特別法とは、ある特定の事項について、一般法よりも優先して適用される法律をいう。
例えば、すでに述べたとおり、商人による取引については、民法の特別法として、商法が優先して適用されます(商法第1条)。
また、事業者と労働者との雇用契約・労働契約には、民法の雇用(第623条以下参照)の規定よりも、労働基準法や労働契約法が優先して適用されます。
同様に、不動産の賃貸借には、民法の賃貸借(第601条以下参照)の規定よりも、借地借家法が優先して適用されます。
特別法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
「特別法優先の原則」とは?
一般法と特別法の優先順位は?
一般法と特別法の優先順位は、ある特定の条件のもとでは、特定の事項について、一般法よりも特別法が優先して適用されます。
これを、「特別法優先の原則」といいます。
【意味・定義】特別法優先の原則とは?
特別法優先の原則とは、特定の事項について、特別法が一般法に優先して適用される原則をいう。
なお、あくまで「特定の事項」とあるとおり、すべての事項について、一般方よりも特別法が優先するわけではありません。
このため、実務上は、どういった事項について一般方が適用されるのか、特別法が適用されるのかを見分けることが重要となります。
【意味・定義】特別法優先の原則とは?
特別法優先の原則とは、特定の事項について、特別法が一般法に優先して適用される原則をいう。
特定の事項以外は一般法が優先する
なお、特別法が優先するのは、あくまで特別法に規定された特定の事項についてのみです。
逆に言えば、特別法に規定された特定の事項以外の部分については、一般法が適用されます。
例えば、すでに触れたとおり、商法は民法の特別法とされ、商人による商取引(一般的な企業間取引)では、民法よりも商法が優先して適用されます(商法第1条)。
商法第1条(趣旨等)
1 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。
2 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治29年法律第89号)の定めるところによる。
引用元:商法 | e-Gov法令検索
より正確には、商慣習や一般の慣習など、次のような細かな優劣関係があります。
この優先順位も、あくまで「他の法律の特別の定め」や商法に規定がある部分のみとなります。
この他、「特別法優先の原則」につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
一般法・特別法の具体例
一般法・特別法の一覧
一般法・特別法の具体例としては、以下のものがあります。
一般法・特別法の具体例一覧
- 民法(一般法)<商法(商人の取引に適用される特別法)
- 民法(一般法)<労働基準法や労働契約法(事業者と労働者の雇用契約・労働契約に適用される特別法)
- 民法(一般法)<借地借家法(土地・建物の賃貸借契約に適用される特別法)
- 民法(一般法)<独占禁止法(主に企業間取引に適用される特別法)
- 民法(一般法)<建設業法(建設工事請負契約に適用される特別法)
- 民法(一般法)<労働者派遣法(労働者派遣契約に適用される特別法)
- 独占禁止法(一般法)<下請法(企業間取引のうち、資本金に差がある事業者による一部の取引に適用される特別法)
- 独占禁止法(一般法)<フリーランス保護法(企業間取引のうち、受託者がフリーランスの場合に適用される特別法)
「民法は私法の一般法」
すでに触れたとおり、「民法は私法の一般法」と言われる法律です。
このため、ほとんどの契約では、一般法として、民法が適用されます。
こうした事情から、どのような契約にとっても、民法は、最も重要な法律であるといえます。
ですから、どのような業界であれ、契約実務に関わるのであれば、民法の規定を知らなければなりません。
契約実務で重要となる(主に民法の)特別法一覧
しかしながら、契約に適用されるのは、民法だけではありません。
契約において適用される特別法は、数多くあります。
主要なものでも、以下のものがあります。
契約実務で重要となる特別法の具体例一覧
- 商法
- 会社法
- 建設業法
- 労働者派遣法
- 労働基準法・労働契約法
- 独占禁止法
- 下請法
- フリーランス保護法
- 借地借家法
- 消費者契約法
- 特定商取引法
- 金融商品取引法
- 利息制限法
- 貸金業法
契約実務においては、民法の他に、これらの特別法についても、慎重に検討する必要があります。
ポイント
- 契約実務において、「私法の一般法」である民法は、最も重要な法律。
- 契約に適用される法律は、民法以外にも、多数の特別法がある。
特別法に違反は事業の根幹に関わるリスク
特別法により契約条項が無効となることが多い
民法の特別法は、特定の契約当事者を保護することを目的とした法律であることが多いです。
その目的から、多くの規定が強行規定となっているからです。
【意味・定義】強行規定とは?
強行規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合であっても、その合意よりも優先される法律の規定をいう。
このため、せっかく苦労して契約書を作成しても、その内容の規定が特別法に違反するために、無効となることがあります。
この点から、契約実務においては、民法の特別法は、民法以上に慎重に検討しておかなければなりません。
契約に適用される特別法の多くは弱者保護のための法律
契約実務に関する特別法は、弱者の保護という、政策的配慮のために作られているものが多いです。
例えば、すでに触れた特別法は、次のような目的で制定されています。
特別法の保護対象
- 建設業法:建設工事の発注者・下請の建設業者
- 労働者派遣法:派遣労働者
- 労働基準法・労働契約法:労働者
- 独占禁止法:劣位の事業者
- 下請法:下請事業者
- フリーランス保護法:特定受託事業者
- 借地借家法:借地人・借家人
- 消費者契約法:消費者
- 特定商取引法:消費者
- 金融商品取引法:金融商品等の購入者等
- 利息制限法:金銭消費貸借契約の債務者
- 貸金業法:金銭消費貸借契約の債務者
このように、特別法は、立場の弱い当事者を保護する目的があることから、強行規定が数多く存在します。
その理由は、特別法の規定を強行規定ではなく任意規定としてしまうと、立場の強い当事者による不当な要求が、当事者間の合意として、有効となってしまうからです。
特別法違反は罰則が科されることもある
また、上記のような法律は、立場の弱い当事者を保護することが目的である以上、立場の強い者にとっては、不利な内容となっています。
もちろん、法律を守らない者への対策として、ほとんどの特別法では、罰則や行政処分の規定があります。
これらの特別法を守らなければ、罰金、懲役、営業停止処分、許認可の取消しなど、事業の根幹に関わる結果となる可能性もあります。
このため、契約書を作成する際には、特に、特別法に違反しないようにしなければなりません。
なお、任意規定と強行規定については、詳しくは、それぞれ次のページをご覧ください。
ポイント
- 特別法により、契約条項が無効となることが多い。
- 契約に適用される特別法の多くは、弱者保護のための法律。
- 特別法に違反すると、罰則が科されたり、行政処分がくだされたりすることもある。
一般法・特別法に関するよくある質問
- 一般法・特別法とは何ですか?また、どのような具体例がありますか?
- 一般法・特別法の意味は、それぞれ次のとおりです。
- 一般法とは、ある事項全般について、一般的に適用される法律のこと。
- 特別法とは、ある特定の事項について、一般法よりも優先して適用される法律のこと。
- 一般法・特別法には、どのような具体例がありますか?
- 一般法と特別法の具体例は、以下のとおりです。
- 民法(一般法)<商法(商人の取引に適用される特別法)
- 民法(一般法)<労働基準法や労働契約法(事業者と労働者の雇用契約・労働契約に適用される特別法)
- 民法(一般法)<借地借家法(土地・建物の賃貸借契約に適用される特別法)
- 民法(一般法)<独占禁止法(主に企業間取引に適用される特別法)
- 独占禁止法(一般法)<下請法(企業間取引のうち、資本金に差がある事業者による一部の取引に適用される特別法)
- 一般法と特別法ではどちらが優先されますか?
- 一般法と特別法では、特別法が優先されます。より正確には、一般法・特別法の優先は、適用される事項に応じて、次のとおりです。
- 特別法に規定がある特定の事項=特別法が優先
- 特別法に規定がない事項=一般法が適用
- 民法と商法は一般法と特別法にあたりますか?
- 民法は商法の一般法にあたり、商法は民法の特別法にあたります。