契約書は、ごく一部の例外を除いて、どちらかにの契約当事者とって、一方的に有利にできています。
このため、雛形を使う際には、自社にとって有利な内容の雛形を使うべきです。
ところが、よく雛形の内容を分析しないと、知らず知らずのうちに、不利な内容の雛形を使ってしまうリスクがあります。
このページでは、こうした不利な内容の契約書の雛形を使うリスクについて、解説しています。
雛形の契約書には立場の優劣がある
契約書はどちらかにとって有利なもの
ビジネスでの取引では、程度の差はあっても、当事者間に立場の優劣関係があります。
立場の差が比較的少ないことはあっても、まったく平等で対等な関係は、まずありません。
企業間取引には優劣関係がある
企業間取引では、当事者間に優劣関係があるのが当たり前。対等の関係などあり得ない。
こうした優劣関係は、具体的な形となって、契約条項に反映されます。
このため、雛形であるか、そうであるかにかかわらず、契約書は、どちらかにとって有利な内容で記載されているものです。
雛形の契約書もどちらかにとって有利にできている
雛形の契約書も、全体としては、どちらかの契約当事者にとって有利にできています。
これは、個々の契約条項についても、同じことです。
契約書を作成する際、作成者は、常にどちらの契約当事者の立場で起案するのかを意識しています。
雛形の契約書の場合も、通常は、どちらかの立場で起案するものですから、どちらかにとって有利にできています。
ポイント
雛形の契約書は、どちらかの契約当事者にとって、一方的に有利に作成されている。
【リスク1】自社にとって不利な雛形の契約書を使うリスク
事業上の契約は「知らなかった」では済まされない
このように、契約書には契約当事者の優劣が反映されているため、雛形は、どちらかにとって有利にできています。
このため、雛形を使う際には、自社にとって有利なものを使わなければなりません。
自社にとって不利な雛形を使って契約を締結した場合、当然ながら、その契約内容に拘束されることになります。
事業上の契約では、雛形に不利な内容が記載されていたからといって、「知らなかった」では済まされません。
事業上の契約は法的拘束力が強い
事業で締結された契約は、消費者が当事者の契約と違って、法的拘束力が高く、雛形の内容を「知らなかった」では済まされない。
法律上、無効となる契約内容以外は、いかに不利な内容であっても、原則として、法的拘束力を持ちます。
雛形の契約書は全条項をチェックして使う
そこで重要となるのが、雛形を使う前のリーガルチェックです。
契約書の雛形のリーガルチェックでは、全体として、どちらの契約当事者にとって有利であるかを見極めます。
それ以上に重要となるのが、個々の契約条項が、どちらの契約当事者にとって有利であるかの確認です。
雛形の契約書は、特定の契約のために作成されたものではありません。
このため、すべての個々の契約条項が、実際の取引の内容に合っているかどうかを確認する必要があります。
雛形には部分的に不利な契約条項もあり得る
契約条項の中には、全体的に自社にとって有利な内容となっていても、個別の契約条項が不利になっている場合もあります。
これは、なんらかの特殊な事情があって、その部分だけ譲歩した契約条項が、独り歩きして雛形になったものと思われます。
また、雛形に限らず、特に理由もないのに、作成者のケアレスミスで、部分的に自社にとって不利な契約条項としてしまうことがあります。
意外と多い不利な契約条項
雛形の契約条項の中には、特に理由もなく、自社にとって不利となっている契約条項もある。こうした契約条項を見極めるのも重要。
このため、全体的に自社にとって有利な雛形であっても、気を抜かずに、個々の契約条項をチェックする必要があります。
ポイント
- 事業上の契約は法的拘束力が強く、雛形の内容を「知らなかった」では済まされない。
- 雛形の契約書は、必ず全部の条項をチェックして使う。
- 様々な理由により、全体としては自社にとって有利な契約書でも、部分的に不利な契約条項が規定されていることもある。
【リスク2】経験が浅い者による雛形のチェックのリスク
雛形を経験が浅い者がリーガルチェックする場合は要注意
このように、自社にとって不利なリスクがある雛形ですから、そのリーガルチェックは慎重にする必要があります。
そこで問題となるのが、誰が雛形のリーガルチェックをするのか、ということです。
当然、経験豊富な契約実務専門の弁護士・行政書士などや、自社の法務部のスタッフがリーガルチェックをするのであれば、問題ないでしょう。
逆に、経験が浅い者がリーガルチェックをするのであれば、注意を要します。
「雛形はこういうものだ」という思い込み・先入観が危険
というのも、経験が浅い者によるリーガルチェックは、思い込みや先入観に左右されがちになります。
そもそも、契約書は、プログラムなどと違って、テストすることができません。
このため、自社にとって不利な内容かどうかは、実務経験を積んでいないと判断できないものです。
逆に、実務経験を積んでいない者がリーガルチェックをした場合、自社にとって不利な契約条項を見ても、「こういうものだろう」と見逃してしまうことがあります。
雛形は法律違反の契約内容を見逃すリスクがある
もっと厄介な問題が、経験が浅いと、法律違反の契約条項を見逃してしまうリスクがあります。
ある契約条項が法律違反かどうかは、知識がないと判断ができません。
知識がないと法律違反は見抜けない
文章を読めるだけで、法律に関する知識がないと、そもそも契約条項が法律違反かどうかのチェックができない。
契約条項の有利・不利は、文章が理解できれば、大半は気づけますが、法律違反は、そうはいきません。
このように、知らず知らずのうちに、法律違反をしてしまうのも、雛形を安直に使うリスクであるといえます。
ポイント
- 経験が浅い者によるリーガルチェックは、注意が必要。
- 経験が浅い者は、不利な契約条項であっても、それが不利であると見抜けず、先入観で「こういうものだ」と思い込む。
- 法律の知識がないと、法律違反の契約条項は見抜けない。
雛形はなるべく経験豊富な専門家にチェックさせる
社内に人材がいない場合は外部の専門家を活用する
このように、雛形の契約書のリーガルチェックは、経験豊富な者がしない限り、チェックにはなりません。
経験が浅い者に経験を積ませる一環としてリーガルチェックをさせるのは構いませんが、その後で、必ず別の経験豊富な者にチェックをさせるべきです。
また、社内に経験豊富な者がいないのであれば、外部の専門家に最初からリーガルチェックを依頼するべきです。
自社でチェックした場合であっても、外部の専門家にダブルチェックをしてもらうべきです。
雛形はチェックだけではなく必ず修正・調整して使う
なお、雛形の契約条項は、実際の取引の内容と完全に一致することは、原理的にあり得ません(雛形のほうに取引内容を変えた場合は別ですが)。
このため、契約書の雛形は、そのまま使っていいものではなりません。
契約書の雛形は、取引の実態に合わせて、必ず、修正・調整をする必要があります。
このような雛形の修正・調整につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
ポイント
- 社内に人材がいない場合は、外部の専門家にリーガルチェックやダブルチェックを依頼する。
- 雛形はチェックだけではなく必ず修正・調整して使う。