代理店契約は、製造業者、商社、問屋、卸売業者、サービス事業者などの商品・サービス・権利の供給者(以下、「サプライヤー」といいます)と代理店との、いわば営業の代行の契約です。
なお、誤解されがちですが、代理店契約は、販売店契約とは別の契約です。
これらは、外形的には非常に似た契約ですが、契約内容は大きな違いがあります。
このページでは、こうした代理店契約のポイントについて、わかりやすく解説します。
代理店契約は営業の代行のための契約
【意味・定義】代理店契約とは?
代理店契約は、民法上の定義がある契約ではありません。
一般的には、民法上の委任契約か準委任契約のいずれかに該当することが多いです。
また、商法(第27条以下)と会社法(第17条以下)には、「代理商」に関する規定があり、場合によっては、代理店契約に適用されることがあります。
一般的な代理店契約の定義は、次のとおりです。
【意味・定義】代理店契約とは?
代理店契約とは、製造業者、商社、問屋、卸売業者、サービス事業者などの商品・サービス・権利のサプライヤーと代理店との契約であって、商品・サービス・権利の供給を希望する者とサプライヤーとの契約について、代理店が、代理、媒介、仲介、取次ぎその他の代理店業務をおこなうものをいう。
ここでいう、「代理、媒介、仲介、取次ぎ」が、ある意味では、代理店契約の本質です。
商品・サービス・権利そのものの供給の契約は、あくまでサプライヤーとその供給を希望する者との直接の契約となります。
国内取引では販売店契約と区別されない場合がある
一般的に、国際取引では、代理店は「Agent」といいます。
「Agent」の日本語の意味は、文字通り、「代理店」や「代理人」です。ちなみに、販売店は、「Distributor」といいます。
このように、国際取引では、代理店と販売店は、明確にその違いが区別されています。
しかしながら、国内取引では、特にその違いが区別されていないこともあります。
代理店と販売店は国内取引では区別がつかない
代理店契約と販売店契約は、国内取引では、区別されずに使われていることがあり、真逆の意味で使われることもある。
代理店契約と販売店契約の違い一覧
代理店契約と販売店契約の違いの概要は、次のとおりです。
代理店契約 | 販売店契約 | |
---|---|---|
契約の概要 | 代理店による営業代行・サプライヤーによる手数料の支払い | サプライヤーによる卸売販売と販売店による代金の支払い |
商品・サービス・権利のエンドユーザーとの契約相手 | サプライヤー | 販売店 |
商品・サービス・権利のエンドユーザーとの契約関係 | 代理店は直接の契約関係はない | 販売店は商品・サービス・権利の再販売契約の関係がある |
商品等の仕入れの有無 | 代理店はない | 販売店はある |
商品等の在庫を抱えるリスク | 代理店はない | 販売店はある |
エンドユーザーからの債権回収のリスク | サプライヤーが負う | 販売店が負う |
収益 | サプライヤーから支払われる手数料 | 再販売価格と仕入れ価格の差額 |
エンドユーザーに対する商品・サービス・権利の価格決定権 | サプライヤーにある | 販売店にある |
印紙税・収入印紙 | 原則として0円 ただし売買契約に関する代理店契約は4,000円 | 原則として4,000円 |
代理店契約と販売店契約の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
また、ときには、「販売代理店」という、販売店なのか代理店なのか、よくわからない名称が使われることがあります。
このため、契約書のリーガルチェックの際も、タイトル・表題だけで内容を判断しないよう、注意が必要です。
ポイント
- 代理店契約とは、製造業者、商社、問屋、卸売業者、サービス事業者などの商品・サービス・権利のサプライヤーと代理店と契約であって、商品・サービス・権利の供給を希望する者とサプライヤーとの契約について、代理店が、代理、媒介、仲介、取次ぎその他の代理店業務をおこなうものをいう。
- 代理店契約と販売店契約は、国内取引では、区別されずに使われていることがあり、真逆の意味で使われることもある。
- リーガルチェックの際は、代理店契約・販売店契約・販売代理店契約のタイトル・表題に惑わされてはいけない。
代理店契約に規定される主な契約条項
代理店契約では、主に次のような条項が規定されます。
代理店契約の契約条項・書き方
- 独占的または非独占的な勧誘に関する権利(≠代理権)の付与
- サプライヤー自身による直接販売権の有無
- 競合品の取扱いの制限
- テリトリー
- (商標等の)知的財産権の使用許諾
- (商標等の)知的財産権の使用条件
- 代理店業務の内容
- 販促ツールの作成・費用負担・責任等
- 最低販売量(ノルマ)の有無
- 成果の報告
- 成果報酬の発生条件
- 成果報酬の計算
- 支払期限
- 支払方法
- キャンセルの場合の成果報酬の取扱い
- 代理店による監査
- 知的財産権の侵害
- 秘密保持義務
- 再委託
- 契約解除
- 期限の利益の喪失
代理店がするのはあくまで「営業代行」
商品・サービス・権利はサプライヤーとエンドユーザーとの契約
代理店契約は、本質的には、サプライヤーと代理店との営業行為の代行の契約です。
代理店契約は、あくまで営業行為の代行に過ぎません。
ですから、代理店と商品・サービス・権利の供給を希望する者(以下、「エンドユーザー」といいます。)とは、商品・サービス・権利の供給についての契約を結ぶことはありません。
商品・サービス・権利の供給に関する契約当事者は、あくまで、サプライヤーとエンドユーザーです。
代理店は、あくまでこの供給の契約の代理、媒介、仲介、取次ぎ等をするだけです。
代理店への民法上の代理権の授与は通常はない
なお、「代理」という言葉が使われていますが、必ずしも民法上の「代理」を意味するとは限りません。
代理店契約の内容によっては、代理店に、民法上の代理権を授与し、契約締結までさせることもあり得ないわけではありません。
ただ、これは、非常に限られたパターンであり、よほどサプライヤーと代理店との間に強い信頼関係がなければ、代理権までは授与しません。
通常の代理店契約では、代理店は、代理権までは与えられず、仲介、媒介、取次ぎ程度の業務をします。
代理店業務の内容を明記する
どのタイミングで代理店からサプライヤーに引き継ぐのか?
代理店が実施する営業代行の業務(以下、「代理店業務」といいます)は、代理店契約の内容によって、様々です。
契約内容として代理店業務を確定させる際にポイントになるのは、どのタイミングで、代理店からサプライヤーに対して、営業を引き継ぐのか、という点です。
最後まで引き継ぎなしで契約を完結させるのが、すでに触れた、代理権を授与される代理店契約のパターンです。
逆に、単に見込み客のリストだけを代理店からサプライヤーに引渡すのも、一種の代理店業務といえます。
そういう意味では、広告出稿企業(マーチャント)とASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)とのアフィリエイト契約も、一種の代理店契約といえます。
代理店契約では引き継ぎの手続きを明記する
一般的な代理店契約では、以下のいずれかの業務が、代理店業務となります。
代理店業務
- サプライヤーの営業員とエンドユーザーの担当者との対面のセッティング(その後は営業員に引き継ぎ)
- エンドユーザーとの契約交渉とエンドユーザーからの与信情報の取得(その後はサプライヤーによる審査)
- エンドユーザーによる契約の申込みの取次ぎ(契約の事務手続きの代行)
こうした代理店業務については、契約内容として、引き継ぎの手続きが重要となります。
というのも、一般的な代理店契約は、成果報酬となっていて、こうした手続きは、成果報酬の計算の根拠になるからです。
ポイント
- 代理店がするのはあくまで「営業代行」だけ。
- 商品・サービス・権利の供給に関する契約は、サプライヤーとエンドユーザーとの間の契約。代理店とエンドユーザーとの間には契約関係はない。
- 代理店への民法上の代理権の授与は、通常はない。
- 代理店業務の内容と手続きについて明確に定義づけることが重要。
代理店契約で最も重要な手数料の条項
代理店契約では成果の定義が重要
代理店契約では、代理店は、サプライヤーから手数料を支払われます。
この手数料は、一般的には、成果報酬とされることが多いです。そこで重要となるのが、成果の定義です。
成果は、報酬の発生を左右するため、契約当事者の恣意的な解釈ができるような基準にしてはいけません。
なるべく、サプライヤーと代理店の両者の判断が分かれないような、一義的・客観的な基準で成果を定義づけます。
通常の代理店契約では契約成立=成果
通常の代理店契約では、サプライヤーとエンドユーザーとの間で、商品・サービス・権利の供給の契約が成立したことを成果とします。
ただ、この場合も、そもそも「契約の成立」とは何なのか、という定義も重要となります。
また、初回だけの取引きに限定するのか、そして2回目以降、代理店を通さずエンドユーザーが直接サプライヤーに発注した場合、手数料が発生するのか、という問題もあります。
このように、単に契約成立=成果とした場合であっても、判断が分かれるポイントはいろいろありますので、注意が必要です。
手数料の計算のしかたは「売上の◯%」だけではない
手数料の計算のしかたは従価型と従量型のいずれかが基本となる
代理店契約の手数料は、一般的には、売上の金額に応じた割合で計算されます(いわゆる「従価型」)。
この計算のしかたは、ある意味では非常に単純な方法ですが、代理店契約の手数料の計算は、これだけとは限りません。
「個数当たり◯円」というように、販売された商品の個数当たりの計算方法もあります(いわゆる「従量型」)。
この従価型と従量型のどちらを選択するかが、手数料の計算の基本となります。
代理店契約における従価型・従量型の手数料
- 従価型の手数料:売上の金額に応じた割合で計算される手数料(例:売上の10%など)。
- 従量型の手数料:販売個数に応じて計算される手数料(例:販売個数1個あたり10,000円など)。
売上の決定権はサプライヤーにある
これらの従価型と従量型の計算方法は、どちらも大して変わらないように思えるかもしれません。
ところが、そもそも、サプライヤーとエンドユーザーとの契約における価格=売上の決定権は、サプライヤーにあって、代理店にはありません。
商品・サービス・権利の価格決定権
商品・サービス・権利の価格決定権は、サプライヤーにあるのであって、代理店にはない。
このため、契約の最終段階になって、サプライヤーに値引きをされてしまうと、従価型の手数料の計算の場合は、手数料まで値引きされてしまいます。
これに対し、従量型の手数料の計算では、いくら値引きされても、手数料は変わりません。
逆に、商品・サービス・権利を値上げした場合は、従価型だと手数料の金額が増えるのに対し、従量型だと手数料の金額は変わりません。
従価型の手数料と従量型の手数料の違い
- 従価型:サプライヤーに値引きされると手数料の金額が下がる。逆にサプライヤーに値上げされると手数料の金額が上がる。
- 従量型:サプライヤーに値引きされても値上げされても、手数料の金額は変わらない。
ポイント
- 一般的な代理店契約は成果報酬。よって、代理店契約では成果の定義が重要。
- 通常の代理店契約ではサプライヤーとエンドユーザーとの契約の成立=成果。ただし、これも契約成立の定義等を決める必要がある。
- 手数料の計算のしかたは従価型(売上の◯%)と従量型(個数当たり◯円)のいずれかが基本。
- 従価型と従量型はそれぞれメリット・デメリットがある。
サプライヤー・代理店のメリット・デメリット
サプライヤー・代理店にとっての、代理店契約のメリット・デメリットは、それぞれ以下のとおりです。
サプライヤーにとっての代理店契約のメリット・デメリット
サプライヤーにとっての代理店契約のメリット
- 成果が発生しない限り、手数料を支払う必要がない。
- 直営店や営業員が不要なため、多額の資本や固定経費を必要とせずに営業展開ができる。
- 顧客情報や顧客ニーズを直接把握できる。
サプライヤーにとっての代理店契約のデメリット
サプライヤーにとっての代理店契約のデメリット
- 場合によっては集客力が非常に強い代理店に依存することになる。
- 在庫を抱えるリスクがある。
- 代理店による成果が保証されない、不確実。
代理店にとっての代理店契約のメリット・デメリット
代理店にっとての代理店契約のメリット
- 小額の資本で事業を始められる。
- 在庫を抱えるリスクがない。
- 特にインターネットを活用した集客力があれば、拡大しやすい。
代理店にっとての代理店契約のメリット・デメリット
- 手数料でしか利益が発生しない。
- 集客力がなければ事業として成り立たない。
- よほどの営業力がない限り、サプライヤーの販売政策や商品・サービス・権利の内容に依存する事業となる。
独占禁止法の違反に注意
代理店契約では「流通・取引慣行ガイドライン」を遵守する
一般的に、代理店契約では、サプライヤーの側に有利な内容となることが多いです。
これは、商品やサービスの供給元がそのサプライヤーしかない、ということが多いためです。
ただ、だからといって、あまりに厳しい内容の契約では、独占禁止法違反となる可能性があります。
実際に、公正取引委員会では、代理店契約について、独占禁止法上のガイドラインを公開しています(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」)。
代理店契約書を作成する場合は、このガイドラインに抵触しないよう、注意が必要です。
独占権の付与について必ず検討する
特に代理店にとっては、代理店契約の契約条項として、独占的代理権が認められているかどうか、つまり、独占的代理店契約かどうかが重要です。
独占的代理権とは、サプライヤーが他の代理店との代理店契約を結ばずに、ある代理店にだけ一手に営業の代行を認める権利のことです。
代理店としては、代理店契約の交渉の際には、この独占的代理権の獲得を検討するべきです。
独占的代理権が認められると、ライバルがいないぶん、競合を意識せずに営業活動ができます。
ただし、この場合は、最低購入量や最低購入金額(いわゆるノルマ)が義務づけられる可能性があります。
競合品の取扱い・テリトリーにも注意する
このほか、代理店契約では、競合品の取扱い、商標の使用許諾の有無、テリトリー、営業活動の方法などの条項が重要です。
これらの条項は、サプライヤーの営業戦略にとって、非常に重要な点であり、かつ、代理店の営業活動にとっても非常に重要な点です。
これに加えて、サプライヤー・代理店双方にとって、独占禁止法上、問題となる可能性が高い条項でもあります。
このため、独占禁止法に違反しないように、注意しながら、契約条項を規定します。
ポイント
- 代理店契約に適用される独占禁止法のガイドライン(「流通・取引慣行ガイドライン」)がある。
- 代理店契約書を作成する際は、個々の契約条項が、流通・取引慣行ガイドラインに抵触しないよう、注意する。
代理店契約書は4,000円の印紙税・収入印紙が必要
原則として、代理店契約書は、いわゆる7号文書に該当します。
このため、4,000円の印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要があります。
ただし、これは次のとおり、あくまで「売買の委託」や、「売買に関する業務…を継続して委託する」契約書に該当する場合です。
印紙税法施行令第26条(継続的取引の基本となる契約書の範囲)
法別表第1第7号の定義の欄に規定する政令で定める契約書は、次に掲げる契約書とする。
(1)特約店契約書その他名称のいかんを問わず、営業者(法別表第1第17号の非課税物件の欄に規定する営業を行う者をいう。)の間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する2以上の取引を継続して行うため作成される契約書で、当該2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定めるもの(電気又はガスの供給に関するものを除く。)
(2)代理店契約書、業務委託契約書その他名称のいかんを問わず、売買に関する業務、金融機関の業務、保険募集の業務又は株式の発行若しくは名義書換えの事務を継続して委託するため作成される契約書で、委託される業務又は事務の範囲又は対価の支払方法を定めるもの
(3)(以下省略)
このため、サービスや権利に関する代理店契約書であれば、印紙税の課税文書とはならず、収入印紙を貼る必要はありません。