このページでは、契約書の書き方のうち、条件の書き方について解説しています。

契約条項の中には、何らかの条件を設定する場合があります。

条件には、停止条件と解除条件の2種類がありますが、いずれも、契約当事者の権利義務の関係するものであり、非常に重要です。

また、条件は、「場合」「とき」、「~の場合に限って」などの言葉を使って表現します。

条件の書き方には細かい慣習やルールがあるため、内容と同様に書き方も重要となります。

このページでは、こうした条件の内容や書き方について、解説しています。




契約書における条件とは?

契約における条件は権利義務の発生の前提条件

条件は、契約条項としては、一種の前提条件として規定します。

つまり、何らかの条件を満たした場合に、契約当事者に権利義務が発生し、または権利義務が消滅するように契約条項を規定とします。

このように、条件は、権利義務に関わる場合が非常に多いため、契約条項としては非常に重要となります。

民法上、条件は、大きく分けて、停止条件と解除条件の2種類があります。

【意味・定義】停止条件・解除条件とは?

民法では、次のとおり、停止条件と解除条件が規定されています。

民法第127条(条件が成就した場合の効果)

1 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。

2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。

3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。

【意味・定義】停止条件・解除条件とは?
  • 停止条件とは、成就したことにより、その成就した時点から何らかの効力が生じる条件をいう。
  • 解除条件とは、成就したことにより、その成就した時点から何らかの効力を失う条件をいう。

契約は、典型的な法律行為の一種ですので、この民法の規定にもとづき、契約条項で、停止条件や解除条件を付けることができます。

ポイント
  • 契約における条件は、権利義務の発生の前提条件。
  • 停止条件とは、成就したことにより、その成就した時点から何らかの効力が生じる条件のこと。
  • 解除条件とは、成就したことにより、その成就した時点から何らかの効力を失う条件のこと。





契約書の条件は一義的・客観的に規定する

条件が成就したかどうかを巡ってトラブルとなる

条件を規定する場合、内容として最も気をつけなければならないのが、一義的かつ客観的に規定する、ということです。

逆にいえば、あいまいで主観的な規定にはしない、ということです。

すでに触れたとおり、条件の規定は、契約当事者にとっては、権利義務の発生や消滅に関する重要な規定です。

このため、条件が成就したかどうかを巡ってトラブルになりやすい、という特徴があります。

検査では検査の合格・不合格を巡ってトラブルとなる

条件について、特に問題となりやすいのが、売買契約、製造請負契約、システム開発契約における、検査の規定です。

これらの契約における検査の行程では、発注者(買主・注文者)による、恣意的な検査が問題となりやすいものです。

また、検査結果が合格か不合格かを巡って、契約当事者間で解釈が対立する問題があります。

こうした検査の問題の原因は様々ありますが、検査合格の条件(=検査基準)が明確に規定されていない、という問題が最も重要です。

このため、こうした契約では、検査合格の条件(=検査基準)を一義的・客観的に規定しておくことが重要となります。

成果報酬型の契約では成果の発生を巡ってトラブルとなる

また、同様に問題になりやすい契約としては、成果報酬型の契約があります。

代表的な例としては、代理店契約などがあります。

こうした成果報酬型の契約では、何をもって成果とするのか、つまり成果報酬が発生する条件が問題となります。

このため、成果報酬型の契約では、成果報酬が発生する条件=成果の定義を一義的・客観的に規定しておく必要があります。

ポイント
  • 契約実務では、条件が成就したかどうかを巡ってトラブルとなる。
  • 検査では検査の合格・不合格を巡ってトラブルとなる。
  • 成果報酬型の契約では成果の発生を巡ってトラブルとなる





契約書では条件は「~場合、」か「~ときは、」で表現する

【条件が1段階】「場合、」か「ときは、」のどちらかで表現する

契約書では、条件の表現としては、「~場合、」や「~ときは、」を使用して表現します。

第1の条件を規定する場合は、「~場合、」や「~ときは、」というように表現します。

この場合、「~場合、」「~ときは、」のどちらを使用してもかまいません。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】納入条項

第○条(納入)

乙が本件製品を納入した場合、甲は、乙に対し、これと引き換えに、受領証書を交付するものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




ちなみに、「場合」と「ときは」の後には、必ず読点(、)を打ちます。

【条件が2段階】「~場合において、~のときは」で表現する

第1の条件の中にさらに2つ目の条件を規定する場合は、「~場合において、~ときは、」と表現します。

これは、「~の条件を満たした場合において、さらに~の条件をも満たしたときは、」という意味です。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】受領拒否に関する条項

第○条(受領拒否)

乙が本件製品を納入した場合において、本件製品の数量が不足していたときは、甲は、当該本件製品の受領を拒否できるものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




この際、「~の場合」と「~とき」の片方だけの条件を満たしただけでは、契約条項全体の条件を満たしたことにはなりません。

なお、この場合、慣例として、「場合」が先の条件となり、「とき」が後の条件となりますので、この順番を変えてはなりません。

ちなみに、「場合において」と「ときは」の後には、同様に必ず読点(、)を打ちます。

【条件が3段階】「~の場合において、~のときは、~の場合に限り」で表現する

第1、第2の条件の中に、さらに3つ目の条件を規定する場合は、「~の場合において、~のときは、~の場合に限り」と表現します。

これは、「~の条件を満たした場合において、さらに~の条件をも満たしたたときのうち、~の条件を満たした場合に限って、」という意味です。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】特別採用

第○条(特別採用)

本件製品が検査に合格しなかった場合において、当該合格しなかった本件製品の契約不適合が軽微なものであるときは、甲および乙が合意した場合に限り、甲および乙は、本件製品を特別に合格とすることができるものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




この際、「~場合において、」、「~ときは、」、「~場合に限り、」のひとつだけの条件を満たしただけでは、契約条項全体の条件を満たしたことにはなりません。

なお、この場合も、場合、とき、場合に限りの順番を変えてはなりません。

ちなみに、「場合において」と「ときは」と「場合に限り」の後には、必ず読点(、)を打ちます。





【補足】条件が4段階以上となる契約条項は書かない

条件が4段階以上となる契約条項は、通常は書きません。

その理由は、条件が非常に複雑になるため、ひとつの文章として記載する方法としては望ましくないからです。これは、契約書だけではなく、法律でも同様です。

このため、どうしても4段階以上または4種類以上の条件をつけたい場合は、各号列記で対応するべきです。

各号列記の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約書の文章の書き方・ルールは?条・項・号・細分(アイウ・イロハ)の決まりも解説





ポイント
  • 条件が1段階:「場合、」か「ときは、」のどちらか
  • 条件が2段階:「~場合において、~のときは」
  • 条件が3段階:「~の場合において、~のときは、~の場合に限り」
  • 条件が4段階以上:各号列記





契約書における条件の書き方のルールや慣習は?

条件の「とき」は必ずひらがなで書く

この他、条件の規定には、細かなルールがあります。

まず、条件を表す「とき」は、必ずひらがなで記載します。

漢字の「時」は、文字通りの時間を表す表現であり、条件の表現ではありません。

このため、条件を意味する文脈で漢字の「時」を記載してしまうと、意味が変わる可能性があります。

逆に、時間を意味する文脈でひらがなの「とき」を記載してしまうと、これもの意味が変わる可能性があります。

条件は主語の前後どちらでもよい

条件の文章は、契約書の主語の前後どちらに記載しても構いません。

一般的な慣例としては、あくまで冒頭に主語が記載され、その後に条件が記載されることが多いです。

ただ、これも絶対的なルールではなく、例えば、長い文章の条件であれば、条件の後に主語が書かれることがあります。

管理人は、個人的には、条件の文章を先に書くようにしています。

条件の文章の主語は「◯◯が」で表現する

よほど文章が長くならない限り、条件文の書き出しは、「主語+助詞(が)~の場合」とします。

条件の文章の中では、主語の直後の「、」読点は、打ちません。

この点は、本文の主語のルールである、直後に必ず「、」=読点を打つ慣習・ルールとは違います。

契約書の主語の書き方・規定しかたやルールは?

また、助詞は「は」ではなく「が」になります。

契約実務ではなるべく条件は2段階までとする

この解説では、説明の都合上、3段階までの条件の書き方を紹介しました。

ただ、現実的には、契約書を作成する際には、契約条項の条件の設定は、せいぜい2段階とします。

よほど必要に迫られない限り、3段階の条件を設定するような書き方はしません。

このような多段階の条件を設定する場合は、条項を分けて各条項を矛盾しないように紐付けることで、表現します。

ポイント
  • 条件の「とき」は、漢字の「時」ではなく、必ずひらがなで書く。
  • 条件は主語の前後どちらでもよい。一般的には、主語が前で条件が後。
  • 条件の文章の主語は「◯◯が」で表現する。
  • 契約実務では、なるべく条件は2段階までとし、3段階以上の条件は、条項の分割と紐づけで対処する。





契約書には意外とルール・慣習がある

以上が、契約書における条件の書き方のルールの概要です。

こうしたルールや慣習は、たくさんの契約書(それもルールや慣習に従ったもの)や法律を読み書きしないと、身につかないものです。

逆にいえば、リーガルチェックをする側は、こうした細かなルールや慣習を守っているかどうかで、契約書の作成者の経験がわかります。

このように、契約書の作成は、付け焼き刃ではどうにもならないことがありますので、最低限、作成した契約書は、専門家のチェックを受けるべきです。

ポイント
  • 契約書における条件の書き方には、意外と細かいルール・慣習があるため、これらに従って書かないと、作成者の経験の乏しさがバレる。





契約書の条件に関するよくある質問

契約書の条件はどのように書きますか?
契約書の条件は、条件の数に応じて、次のように書きます。

  • 条件が1段階:「場合、」か「ときは、」のどちらか
  • 条件が2段階:「~場合において、~のときは」
  • 条件が3段階:「~の場合において、~のときは、~の場合に限り」
  • 条件が4段階以上:各号列記
契約書の条件の書き方には、どのような慣習やルールがありますか?
契約書の条件の書き方には、次のような慣習やルールがあります。

  • 条件の「とき」は、漢字の「時」ではなく、必ずひらがなで書く。
  • 条件は主語の前後どちらでもよい。一般的には、主語が前で条件が後。
  • 条件の文章の主語は「◯◯が」で表現する。
  • 契約実務では、なるべく条件は2段階までとし、3段階以上の条件は、条項の分割と紐づけで対処する。