このページでは、契約書の書き方のうち、目的語の書き方について解説しています。

目的語とは、主語となる契約当事者が「何を」どうするのか、ということです(より正確には直接目的語、日本語としては主に対格)。

契約書の文章は、ほとんどが目的語を含みます。

このため、契約書の文章を書く場合は、目的語を正確に表現する必要があります。

このページでは、こうした目的語の書き方について、解説します。




契約書では目的語はほとんどの条項で記載される

目的語=「◯◯を…する」の◯◯

目的語とは、「◯◯を…する」の文章における、◯◯のことです。

例えば、次のような契約条項があります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】支払条項

第○条(支払い)

甲は、乙に対し、本契約にもとづき、報酬を支払うものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




この文章における、「報酬」が、目的語に該当します。

より正確には、このような「◯◯を」という表現となる目的語は、「直接目的語」といいます。

契約文章のほとんどは目的語が必要

契約条項としての文章は、ほとんどが、直接目的語を必要とします。

というのも、契約書における文章は、ほとんどが、当事者の権利か義務(相手方にとっては義務か権利)を規定する契約条項です。

この場合、権利は「◯◯することができる」ということです。

これに対し、義務は「○○しなければならない」(作為義務)、「◯◯をしてはならない」(不作為義務)ということです。

このため、よほど特殊な規定でない限り、この◯◯=権利義務の行為の客体に該当する直接目的語は必須となります。

直接目的語を忘れずに詳細に規定する

このように、直接目的語は、契約条項では必須ですので、忘れずに規定します。

また、直接目的語は、権利や義務の具体的な内容であるともいえます。

このため、詳細に、かつ自社にとって有利に規定する必要があります。

もちろん、後日、解釈が分かれるような曖昧な規定としてはいけません。

ポイント
  • 目的語は「◯◯を…する」の◯◯に該当する言葉。
  • 契約文章のほとんどは、権利義務の行為の客体となる目的語が必要。
  • 直接目的語は権利義務の具体的な内容となるため、忘れずに、かつ詳細に規定する。





契約書では受動態(受け身)は誤解のもと

契約書では受動態は使わない

なお、契約書では、ほとんどの文章で、契約当事者を主語とする「能動態」での書き方にします。

能動態とは逆の書き方に、受動態があります。

受動態は、能動態では直接目的となる言葉を主語とする書き方ですが、契約書の文章は書きません。

これは、能動態の文章は解釈に誤解が生じにくく、受動態の文章は誤解を生じやすいからです。

契約条項では文頭の主語と能動態の文末の述語が重要

契約書の文章は、大半が、契約当事者の権利義務について記載しています。

このため、記載されている内容で重要な点は、「どちらの契約当事者のものなのか」と「権利と義務のいずれか」なのか、です。

つまり、契約書の文章では、文頭に書かれる主語(=当事者)と、文末に書かれる述語(=権利または義務)が重要となります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】支払条項

第○条(支払い)

甲は、乙に対し、本契約にもとづき、報酬を支払うものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




契約当事者(=主語)が文頭に書かれ、権利義務(=述語)が文末に書かれるのは、能動態だからこそであり、受動態では、そうはいきません。

受動態の文章では契約当事者や権利義務の表記を忘れがち

受動態の文章は、能動態では直接目的語だったものが主語になります。

このため、権利義務の主体である契約当事者を省略してしまいがちです。

また、主語が権利義務の主体である契約当事者とはならないため、権利義務の表記も忘れがちです。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】支払いに関する条項

第○条(支払い)

報酬は、本契約にもとづき、支払われる。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




このような受動態の書き方では、誰の権利義務であるか明確ではありません。

もちろん、この表記だけでなく、他の条項と併せて解釈すると、どちらの契約当事者の権利義務であるかは明確でしょう。

また、「支払い」が義務であることもわかるでしょう。

しかし、これは、あくまで支払条項という比較的単純な条項だからこそ、リスクが少ないといえます。

ポイント
  • 受動態は、誤解や不正確な表現の原因となるため、契約書では使わない。
  • 受動態の文章では、契約当事者や権利義務の表記を忘れがちになる。





複雑な契約条項こそ能動態で規定する

複雑な内容の受動態の契約条項は解釈が分かれるリスクがある

例えば、OEM生産の基本契約書やライセンス契約には、次のような条項があります。

これも、能動態か受動態かによって、表現が大きく変わってきます(甲=発注者 乙=受注者)。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】技術指導に関する条項

第○条(技術指導)

本製品の品質を担保するために必要な場合、甲は、乙に対して、必要な技術指導をできるものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

【契約条項の書き方・記載例・具体例】技術指導に関する条項

第○条(技術指導)

本製品の品質を担保するために必要な場合、乙に対する必要な技術指導は、甲によっておこなわれる。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




上記の例は甲の権利を規定している条項です。

能動態の文章の場合、技術指導をすることが甲にとっては権利であり、技術指導を受けることが乙にとっての義務であることが明白です。

これに対し、受動態の場合は、「技術指導は、・・・甲によっておこなわれる。」というように、文意が曖昧となってしまいます。

これでは、技術指導が、甲の権利なのか、それとも義務なのかが明らかではありません。

受動態を無理やり正確な表現にすると不自然になる

もちろん、甲の権利を正確に記載する場合は、受動態では、次のように表現でないわけではありません。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】技術指導に関する条項

第○条(技術指導)

本製品の品質を担保するために必要な場合、乙に対する必要な技術指導は、甲によっておこなわれることができるものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




ただ、「おこなわれることができるものとする。」という、日本語としては非常に不自然な表現となります。

このように、受動態による表現は、契約書が最も重視するべき正確な表現とはならない可能性があります。

このため、やむを得ない場合を除いて、受動態による表現は、避けるべきです。

ポイント
  • 複雑な内容の受動態の契約条項は、解釈が分かれるリスクがあるため、必ず能動態で書く。
  • 受動態を無理やり正確な表現にすると不自然になるため、能動態で書く。





契約書の目的語に関するよくある質問

契約書の目的ごとは何ですか?
契約書の目的語は、主語となる契約当事者が「何を」どうするかを表現する表記で、「◯◯を…する」の文章における、◯◯のことです。
契約書の目的語の書き方で注意するべきことを教えて下さい。
契約書の目的語で注意するべきことは、受動態、つまり本来は目的語であるものを主語にして書かない、ということです。