このページでは、契約書の書き方のうち、時間の書き方について解説しています。
契約書での時間の書き方は、大きく分けて、期日・期間・期限・時刻の4パターンがあります。
これらは、それぞれ別の意味ですので、正確に意味を理解したうえで、契約書に書く必要があります。
このページでは、こうした期日・期間・期限・時刻の書き方について、解説します。
期日・期限・期間・時刻とは?
期日・期限・期間・時刻は、それぞれ似たような表現ですが、それぞれ別の意味があります。
まずは、これらの用語について、正確な定義を確認しましょう。
【意味・定義】期日とは?
【意味・定義】期日とは?
期日とは、特定の日のことをいう。
期日は、例えば、「4月12日」のように、ピンポイントで指定された特定の日のことを意味します。
【意味・定義】期限とは?
【意味・定義】期限とは?
期限とは、ある時点までのことをいう。
期限は、例えば「3月末日まで」や、「1月31日正午まで」のように、特定の時点(必ずしも日に限りません)までのことをいいます。
【意味・定義】期間とは?
【意味・定義】期間とは?
期間とは、ある特定の時点から他の特定の時点までの時間の区分のことをいう。
期間は、例えば「4月1日から5月31日まで」のように、絶対表記で具体的に日付を特定して規定します。
あるいは、「4月1日の正午から起算して48時間」や「4月1日から計算して3ヶ月間」のように、相対表記で計算方法によって規定する方法もあります。
なお、例えば「午前9時から午後5時まで」というような時間帯も、広い意味では期間に該当します。
【意味・定義】時刻とは?
【意味・定義】時刻とは?
時刻とは、ある特定の時点をいう。
時刻は、例えば「午前10時30分」のように、ピンポイントで指定された特定の時点のことを意味します。
【補足】締切・締切日とは?
締切・締切日=一部の業界の納期
なお、一般的な用語として、「締切」「締切日」という言葉があります。
この締切・締切日は、一般的には、期限と同様に使われている言葉です。
特に、出版業界やウェブライティングの業界では、いわゆる「納期」と同じ意味で使われています。
この他、締切日につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
一般的な契約実務における締切=締切計算のこと
ただ、法令用語としての締切は、必ずしも期限と同様に使われているわけではありません。
特に、いわゆる「締切計算」で使われる締切は、期限とは明確に異なる意味となります。
具体的には、次のような締切計算の条項で使うことが多いです。
「月末締め翌月末払い」の書き方
第○条(委託料の計算および支払期限)
本件製品の委託料の計算は、暦月ごとの締切計算とし、委託者は、受託者に対し、当月において納入されたものについて締切り、翌月末日までに当該委託料を支払うものとする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
このため、契約書の表現としては、少なくとも期限と同じ意味としては、締切を使うべきではありません。
ポイント
- 期日とは、特定の日のことをいう。
- 期限とは、ある時点までのことをいう。
- 期間とは、ある特定の時点から他の特定の時点までの時間の区分のことをいう。
- 時刻とは、ある特定の時点をいう。
期日と期限の違いは?
期日は特定の日・期限はその時点まで
以上のように、期日は、あるピンポイントの特定の日のことを意味します。
これに対し、期限は、一般的な契約実務では、ある特定の時点”まで”のことを意味します。
期日と期限の違い
期日はピンポイントの特定の日であるのに対し、期限は特定の日までのこと。
この他、期日・期限の定義や違いについては、詳しくは、次のページをご覧ください。
納入期日と納入期限は別物
「納入期日」では早く納入してもいけない
このように、期日は期限は別物ですので、納入期日と納入期限は別物です。
納入期日と納入期限の違い
- 納入期日は「期日」なので、指定されたピンポイントの「日」に納入するという意味。
- 納入期限は「期限」なので、指定された「日まで」に納入するという意味。
契約書に「納入期日」と書いているにもかかわらず、その納入期日よりも前に納入した場合は、厳密には契約違反となります。
これは、特に製造請負契約の場合に問題なります。
製造請負契約では、注文者(委託者)の側で、物品・製品の保管や受け入れ体制が整っていなければ、いくら早く納入されても、困ることがあります。
このため、大量の物品・製品や、特殊な管理が必要な物品・製品の製造請負契約の場合は、納入期限ではなく、納入期日を設定することがあります。
契約書の条文に「納期」と書いてはいけない
このように、納入期日と納入期限では、意味が大きく違ってきます。
このため、契約書の条項として、「納期」という表現は、安直に使ってはいけません。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納期)
本件製品の納期は、2022年9月30日とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
このような記載では、この日付が「納入期限」なのか「納入期日」なのかが、ハッキリしません。
ですから、「納期」ではなく、「納入期限」「納入期日」なのかを明確に記載するべきです。
支払期日・支払期限はどちらでも問題ない
一方で、支払いについては、支払期日・支払期限のどちらでも、実質的には問題となりません。
【意味・定義】支払期限・支払期日とは?
- 「支払期日」とは、支払いの期日、つまり、金銭債権の債務者が債権者に対して、支払いの義務を負う「特定の期日」のことをいう。
- 「支払期限」とは、支払いの期限、つまり、金銭債権の債務者が債権者に対して、支払いの義務を負う「期限」のことをいう、
厳密には、このような定義となりますが、仮に契約書に「支払期日」と記載した場合に、その期日よりも早く支払ったとしても、納入期日のような問題は発生しません。
このため、契約書には、支払期日・支払期限のどちらを書いてもかまいませんが、なるべく、より正確な「支払期限」のほうを書くべきです。
もっとも、外貨での決済、仮想通貨・暗号通貨での決済のように、為替変動・価格変動のリスクがある決済方法の場合は、支払期日を指定するか、または為替・価格の変動リスクについて規定するべきです。
ポイント
- 期日は「特定の日」のこと。期限は(契約実務では)「その日時点まで」のこと。
- 納入期日と納入期限は別物。それぞれの意味をよく理解して契約書に記載する。
- 契約書の条文に「納期」と書くと、納入期日と納入期限のどちらかがハッキリしないため、「納期」と書いてはいけない。
- 支払期日と支払期限は、どちらでも問題ない。ただし、外貨決済や仮想通貨・暗号通貨での決済の場合は別。
契約書では期日・期限・期間・時刻は誤解ないように規定する
計算方法による期限・期間・時刻の規定はなるべく避ける
契約書に期日・期限・期間・時刻を規定する場合は、それぞれの契約当事者が誤解をしないように規定する、というのが鉄則です。
特に、計算方法による期限・期間の規定は、誤解の原因となりますので、なるべく避けるべきです。
例えば、次のような条文の書き方があります。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約不適合責任の期間に関する条項
第○条(契約不適合責任の期間)
請負人が負う契約不適合責任の期間は、本件製品の納入の日から起算して1ヶ月間とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
よくありがちな契約不適合責任の期間の設定ですが、この場合、例えば、4月3日が「納入の日」だった場合、契約不適合責任の期間の満了日は、いつでしょうか?
答えは、5月3日です。
まず、納入の日である4月3日は、期間には算入しません。これを「初日不算入の原則」としいます(民法第140条)。
民法第140条(初日不算入の原則)
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
【意味・定義】初日不算入の原則とは?
初日不算入の原則とは、日、週、月または年によって期間を定めた場合、期間の初日は算入しない原則をいう。
よって、4月4日から1ヶ月後の5月4日が期間の満了日かと思いがちですが、実は、月で計算していますので、その前日である5月3日が満了日となります(民法第143条第2項)。
民法第第143条(暦による期間の計算)
1 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
期間・期限はできる限り年月日=日付で指定する
このように、民法上は、期間の計算のしかたが決まっていますが、意外に複雑ですので、誤解されがちです。
このため、契約書になんらかの期間・期限を書く場合は、なるべく計算方法を使うのではなく、年月日=日付で特定するべきです。
例えば、支払期限については、「納入の日から1ヶ月後」ではなく、「平成○年○月○日」や、「平成○年○月末日」のように書くべきです。
このような書き方とすることで、誰が読んでも誤解はなくなります。
計算方法によって期間・期限を設定するのは、どうしてもそうしないと規定できない場合に限定するべきです。
ポイント
- 計算方法による期限・期間の規定は、誤解の原因となるリスクがあるため、なるべく避けるべき。
- 期間・期限は、できる限り年月日=日付で指定して、誤解のないようにする。
契約書では「直ちに・遅滞なく・速やかに」はなるべく使わない
【意味・定義】直ちに・遅滞なく・速やかにとは?
なお、主に期限の速さを意味する法令用語として、直ちに・遅滞なく・速やかに、という用語があります。
これらの定義は、それぞれ、次のとおりです。
【意味・定義】直ちにとは?
「直ちに」とは、即時に、すぐに、ということ。
直ちにの場合は、どのような理由があっても遅れは許されない、ということになります。
【意味・定義】遅滞なくとは?
「遅滞なく」とは、遅れずに、ということ。
遅滞なくの場合は、やむを得ない正当な理由がある場合には遅れても許されるものの、それ以外の遅れは許されません。
【意味・定義】速やかにとは?
「速やかに」とは、できるだけ速く、ということ。
速やかにの場合は、「直ちに」「遅滞なく」とは異なり、仮に違反した場合であっても、契約違反=債務不履行とはならない、という解釈が有力です。
つまり、いわゆる「訓示規定」である、という説です。
直ちに・遅滞なく・速やかにはトラブルのもと
このように、直ちに・遅滞なく・速やかには、法令用語といえ、その定義は非常にあいまいです。
例えば、商法第509条には、「遅滞なく」という表現が出てきます。
商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)
1 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。
2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。
引用元:商法 | e-Gov法令検索
この規定は、受発注の成立に関する重要な規定ですが、この表現では、いつまでに「契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない」のかが、必ずしも明らかではありません。
このため、第2項の「契約の申込みを承諾したものとみなす」(=契約の成立の)時期もまた明確になりません。
このように、直ちに・遅滞なく・速やかに、という表現は明確な計算方法や基準がありませんので、契約書にはなるべく使うべきではありません。
仮に使う場合は、意図的に速度を曖昧にしたい場合に限って使うべきです。
ポイント
- 直ちにとは、即時に、すぐに、ということ。
- 遅滞なくとは、遅れずに、ということ。
- 速やかにとは、できるだけ速く、ということ。
- 「直ちに・遅滞なく・速やかに」は、いずれも定義が曖昧なため、なるべく契約書には使わない。
契約書の期日・期間・期限・時刻に関するよくある質問
- 期日・期間・期限・時刻とは何ですか?
- 期日・期間・期限・時刻とは、それぞれ以下のとおりです。
- 期日とは、特定の日のことをいう。
- 期限とは、ある時点までのことをいう。
- 期間とは、ある特定の時点から他の特定の時点までの時間の区分のことをいう。
- 時刻とは、ある特定の時点をいう。
- 契約書で期日・期間・期限・時刻を規定する場合は、何に注意するべきですか?
- 契約書に期日・期限・期間・時刻を規定する場合は、それぞれの契約当事者が誤解をしないように規定します。