このページでは、法律で作成の義務が課されている契約書やその具体例について解説します。

契約書を作成する理由はさまざまですが、最も単純な理由が、「法律で作成義務があるから」というものです。

契約自由の原則により、契約書は、作成する・しないは、契約当事者が自由に決められます。

ところが、契約自由の原則の例外として、一部の法律では契約書の作成が義務づけられており、しかも、大半が罰則つきです。

このため、事業によっては、契約書を作成せずに口頭で契約を結ぶことや、いい加減な契約書を作成することが、結果的に刑事罰の対象となることもあります。

特に、一般消費者向けの事業では、厳しい規制があることが多いため、慎重な対応をしなければなりません。

このページでは、こうした、法律による作成義務がある契約書について、解説しています。




一部の法契約書は法律による作成の義務がある

契約書は原則として作成する法的義務はない

原則として、契約書を作成する法律上の義務はありません。

ほとんどの契約は、契約自由の原則により、口約束=口頭の合意であっても有効に成立します。

【意味・定義】契約自由の原則とは?

契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則をいう。

契約自由の原則は、改正民法で次のとおり規定されました(第522条については第2項)。

第521条(契約の締結及び内容の自由)

1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。

2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

第522条(契約の成立と方式)

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

契約自由の原則は、さらに次の4種類に分類されます。

4つの契約自由の原則
  1. 締結自由の原則(改正民法第521条第1項)
  2. 相手方自由の原則(改正民法第521条第1項)
  3. 内容自由の原則(改正民法第521条第2項)
  4. 方法自由の原則(改正民法第522条第2項)

この他、契約自由の原則の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】契約自由の原則とは?4つの分類と例外をわかりやすく解説




以上のように、方式自由の原則(民法第522条第2項)により、わざわざ契約書を作成しなくても、契約自体は有効に成立します。

ただし、一部の法律では、契約書の作成義務を課される場合があります。

契約書を作成する理由・目的

法律によって作成が義務づけられた契約書が必要となるから。

大半は契約書作成義務に違反すると罰則がある

契約書作成義務を課している法律は、ほとんどが、弱者を保護するための法律です。

ここでいう弱者とは、消費者や、事業者のなかでも立場が弱い事業者のことを意味します。

逆にいえば、立場が強い事業者の方を規制しているものが多いです。

このため、こうした法律では、契約書の作成義務に違反すると、罰則が課されます。

場合によっては行政処分の対象となることもある

また、こうした法律の大半は、事業に関する許認可の根拠となっているものが多いです。

このため、契約書の作成義務に違反した場合は、何らかの行政処分の対象となることもあります。

しかも、単に契約書を作成することそのものが義務づけられているだけではなく、契約書に記載するべき事項まで、細かく法律で規定されています。

このため、こうした規制を守らなければ、これもまた行政処分の対象となる可能性があります。

ポイント
  • 契約書は、原則として作成する法的な義務はないが、一部の法律により、契約書の作成義務がある場合もある。
  • 法律上の契約書作成義務に違反すると、ほとんどの場合は罰則がある。
  • 許認可の根拠となっている法律の義務の場合は、行政処分の対象となる。





契約書を作成しないと成立しない契約もある

要式契約とは?

契約の中には、そもそも契約書を作成しないと成立しないものもあります。

このように、契約の成立に契約書の作成・取交しが必要なものを要式契約といいます。

 

【意味・定義】要式契約とは?

要式契約とは、契約の成立に契約書の作成・取交しが必要なものをいう。

例えば、保証契約は典型的な要式契約です。

不要式契約とは?

これに対し、契約の成立に契約書の作成・取交しが必要でないものを不要式契約といいます。

【意味・定義】不要式契約とは?

不要式契約とは、契約の成立に契約書の作成・取交しが必要でないものをいう。

例えば、一般的な売買契約は、典型的な不要式契約です。

ほとんどの契約は契約の成立には契約書の作成に影響を与えない

なお、法律上、契約書の作成が義務づけられている契約は、その大半は、契約書の作成が契約の成立の要件とはなっていません。

つまり、法律で契約書の作成・取交しが義務づけられているからといって、契約の成立そのものと契約書の作成・取交しが関係しないことが多いのです。

このため、法律によって契約書の作成が義務づけられている場合に、契約書の作成・取交しがなかったとしても、契約そのものは、有効に成立することがほとんどです。

ポイント
  • 要式契約は、契約の成立に契約書の作成・取交しが必要な契約。
  • 不要式契約は、契約の成立に契約書の作成・取交しが必要でない契約。
  • 実は法律で契約書の作成・取交しが義務づけられていても、契約自体は、契約書なしでも成立することが多い。





法律での作成義務がある契約書の具体例は?

作成+記載事項の義務がある契約書

法律で義務づけられている契約書の具体例は、次のとおりです。

法律により作成義務がある契約書
  • 一部の業務委託契約書(三条書面)等(下請法)
  • 建設工事請負契約書(建設業法)
  • 家内労働手帳(家内労働法)
  • 建設工事設計受託契約書・建設工事監理受託契約書(建築士法)
  • 雇用契約書・労働契約書・労働条件通知書(労働基準法・労働契約法)
  • 労働者派遣契約書(労働者派遣業法)
  • 一部の消費者・事業者向けの契約書(特定商取引法・割賦販売法)
  • 金融商品取引契約書(金融商品取引法等)
  • 投資顧問契約書(同上)
  • 探偵業務委託契約書(探偵業法)
  • 住宅宿泊管理受託契約書(住宅宿泊事業法)
  • 保険契約書・保険約款(保険業法)
  • 信託契約書(信託業法)
  • マンション管理委託契約書(マンション管理適正化法)
  • 不動産特定共同事業契約書不動産特定共同事業法)
  • ゴルフ場会員契約書(ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律)
  • 商品投資顧問契約書(商品投資に係る事業の規制に関する法律)
  • 定期建物賃貸借契約書(借地借家法)
  • 特定商品等預託等取引契約書(特定商品等の預託等取引契約に関する法律)
  • 貸金業者による金銭消費貸借契約書(貸金業法)
  • 一部のフランチャイズ契約書(中小小売商業振興法)
  • 積立式宅地建物販売契約書(積立式宅地建物販売業法)
  • 警備契約書(警備業法)
  • 熱供給契約書・約款(熱供給事業法)
  • 電力小売供給契約書・約款(電気事業法)
  • ガス小売供給契約書・約款(ガス事業法)
  • 産業廃棄物処理契約書(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
  • 不動産の売買・交換・賃貸に関する契約書(宅建業法)
  • 企画旅行契約書・手配旅行契約書等(旅行業法)
  • 福祉サービス利用契約書(社会福祉法)
  • 商品取引契約書(商品先物取引法)




これらの契約書は、作成自体が義務づけられいますが、単に作成すればいい、というわけではありません。

これらの契約書は、記載すべき事項についても、法律で義務づけられています。

また、作成したうえで、相手方に対し、交付または明示の義務があります。

このため、根拠となる法律をよくチェックしたうえで、法律に規定されている記載事項を遵守したうえで、契約書を作成する必要があります。

クーリング・オフについては書式の規制もある

なお、いわゆるクーリング・オフに関する規制など、重要な法規制がある法律では、さらに厳しい規制があります。

具体的には、契約書作成の義務や記載事項の義務だけではなく、書式の指定があります。

こうした契約書の具体例は、次のとおりです。

法律によって書式に規制がある契約書
  • 一部の消費者向けの契約書(特定商取引法施行規則・割賦販売法施行規則)
  • 貸金業者による金銭消費貸借契約書その他の書面(貸金業法施行規則)
  • 保険契約書・保険約款(中小企業等協同組合法施行規則・認可特定保険業者等に関する命令)
  • 金融商品取引契約書(銀行法施行規則・信用金庫法施行規則・中小企業等協同組合法施行規則・保険業法施行規則・信託業法施行規則・金融機関の信託業務の兼営等に関する法律施行規則・労働金庫法施行規則・農林中央金庫法施行規則・協同組合による金融事業に関する法律施行規則・水産業協同組合法施行規則・農業協同組合及び農業協同組合連合会の信用事業に関する命令・漁業協同組合等の信用事業等に関する命令)
  • 共済契約書・特定共済契約書(水産業協同組合法施行規則・農業協同組合法施行規則)
  • 商品取引契約書(商品先物取引法施行規則)
  • ゴルフ場会員契約書(ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律施行規則)
  • 商品投資顧問契約書(商品投資顧問業者の業務に関する省令)
  • 特定商品等預託等取引契約(特定商品等の預託等取引契約に関する法律施行規則)
  • 電気通信役務の提供に関する契約書(電気通信事業法施行規則)




これらの規定は、主に重要な契約条項(特にクーリング・オフ)に関する注意喚起のため、文字の大きさを一定以上(例:日本工業規格の8ポイントまたは12ポイント)としています。

また、ものによっては、枠の記載を義務づけていたり、文字の色(赤)を指定するものもあります。

当然ながら、こうした規制に反する契約書を使用した場合は、罰則が課されます。

ポイント
  • 契約書の作成義務は、より正確には、作成そのものの義務と、最低限の記載事項と、相手方に対する交付・明示の義務がある。
  • 場合によっては、重要な契約条項については、文字の大きさ・色・枠などの指定がある。





契約書は法律を守っている証拠となる

実は法律上は契約書ではなく「書面」であることが多い

このように、法律により作成が義務づけられた契約書は意外に多くあります。

ただ、実はこれらの法律の条文では、「契約書」という表現ではなく、「書面」とされていることがほとんどです。

このため、法律の確認に慣れていないと、「書面」の規定を見逃すことがあります。

また、あたかも契約書を作成しなくてもいいように誤解することがあります。

しかし、実務上は、こうした法律にもとづく書面の作成義務がある場合は、契約書を作成します。

法律上は一方的に交付・明示をすればよい

また、実際に作成した「書面」=契約書についても、相互に交付する義務を規定した法律は、実は、ほとんどありません。

たいていの法律では、作成義務がある当事者から、相手方に対し、書面の交付や明示をすることだけが義務とされています。

ごく一部の法律だけが、契約書を相互に交付することを義務づけているだけに過ぎません(建設業法第19条第2項など)。

建設業法第19条

建設業法第19条(建設工事の請負契約の内容

1 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

(1)工事内容

(2)請負代金の額

(3)工事着手の時期及び工事完成の時期

(4)工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容

(5)請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

(6)当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

(7)天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

(8)価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

(9)工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

(10)注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

(11)注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

(12)工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

(13)工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

(14)各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

(15)契約に関する紛争の解決方法

(16)その他国土交通省令で定める事項

2 請負契約の当事者は、請負契約の内容で前項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

3 建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。

つまり、厳密には、契約書を当事者の数だけ作成し、各当事者が1通ずつ保管することまでは、義務づけられていない法律がほとんどです。

相互に契約書を交付するのは証拠を残すため

では、契約書の作成・交付・明示の義務がある場合、法律の規定どおりに、相手方に対して、一方的に書面の交付・明示をするだけでいいのかといえば、そうではありません。

このように、単に一方的に書面を交付するだけだと、「書面」=契約書を作成し、相手方に対し、交付・明示をした証拠が残りません。

そこで、書面を作成し、相手方に対し確実に交付・明示をした証拠として、契約書を相互に交付するのです。

逆にいえば、手元に残った契約書の原本を、相手方が契約書の交付・明示を受けた証拠(一種の受領証書)とします。

契約書を作成する理由・目的

法律で作成・交付・明示を義務づけられている書面を交付・明示した証拠として契約書が必要となるから。

契約書の作成により罰則や行政処分を回避する

このように、契約書を作成し、相互に交付することは、「書面」の作成・交付・明示の義務を果たしてる、重要な証拠となります。

この契約書を残すことによって、法律による罰則や行政処分を回避することができます、

なお、こうした法律でわざわざ契約書の作成・交付・明示の義務を課しているのは、それだけトラブルが多い契約だからです。

このため、罰則や行政処分の回避だけではなく、契約上のリスクやトラブルを回避するためにも、ぜひ契約書を活用してください。

ポイント
  • 実は法律上の規定としては、契約書ではなく「書面」であることが多いため、見逃しに注意する。
  • ほとんどの法律では、一方的に交付・明示をすればよいことになっているが、それでは交付・明示した証拠が残らない。
  • 相互に契約書を交付するのは、交付・明示をした証拠を残すため。
  • 契約書の作成により、罰則や行政処分を回避できる。





契約書の作成義務に関するよくある質問

契約書は何のために作成するのですか?
契約書は、作成を義務づけられている法律を順守するために作成します。
作成が義務づけている契約書と法律の具体例を教えて下さい。
作成が義務づけている契約書と法律の具体例は、以下のとおりです(一部)。

  • 一部の業務委託契約書(三条書面)等(下請法)
  • 建設工事請負契約書(建設業法)
  • 家内労働手帳(家内労働法)
  • 建設工事設計受託契約書・建設工事監理受託契約書(建築士法)
  • 雇用契約書・労働契約書・労働条件通知書(労働基準法・労働契約法)
  • 労働者派遣契約書(労働者派遣業法)
  • 一部の消費者向けの契約書(特定商取引法・割賦販売法)
  • 金融商品取引契約書(金融商品取引法等)
  • 投資顧問契約書(同上)
  • 探偵業務委託契約書(探偵業法)
  • 住宅宿泊管理受託契約書(住宅宿泊事業法)
  • 保険契約書・保険約款(保険業法)
  • 信託契約書(信託業法)
  • マンション管理委託契約書(マンション管理適正化法)
  • 不動産特定共同事業契約書不動産特定共同事業法)
  • ゴルフ場会員契約書(ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律)
  • 商品投資顧問契約書(商品投資に係る事業の規制に関する法律)
  • 定期建物賃貸借契約書(借地借家法)
  • 特定商品等預託等取引契約書(特定商品等の預託等取引契約に関する法律)
  • 貸金業者による金銭消費貸借契約書(貸金業法)
  • 一部のフランチャイズ契約書(中小小売商業振興法)
  • 積立式宅地建物販売契約書(積立式宅地建物販売業法)
  • 警備契約書(警備業法)
  • 熱供給契約書・約款(熱供給事業法)
  • 電力小売供給契約書・約款(電気事業法)
  • ガス小売供給契約書・約款(ガス事業法)
  • 産業廃棄物処理契約書(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
  • 不動産の売買・交換・賃貸に関する契約書(宅建業法)
  • 企画旅行契約書・手配旅行契約書等(旅行業法)
  • 福祉サービス利用契約書(社会福祉法)
  • 商品取引契約書(商品先物取引法)