このページでは、業務委託契約の基本的なポイントについて、解説しています。
一般的に、業務委託契約は、企業間の業務委託についての規定した契約です。
ただ、実は、法律的には「業務委託契約」という名前の契約ありません。
このため、実際の業務委託契約は、内容によって様々で、個々の案件ごとによく確認しなければならない契約です。
このページでは、こうした業務委託契約のポイントについて、わかりやすく解説します。
業務委託契約は定義がない
業務委託契約は民法・判例・学説とも定義がない
「業務委託契約」や「業務委託」という言葉は、民法では出てきません。
判例や学説としても、特に統一的な定義はありません。
このように、業務委託契約は、そもそも定義がない契約です。
一般的なビジネス用語としては、「企業間で締結される業務の委託・受託の契約」という程度の意味でしょう。
ただ、これも法的な定義にはなっていません。
通常は民法上の請負契約か(準)委任契約のいずれか
一般的な業務委託契約の内容は、民法上の請負契約か、委任契約(準委任契約)のいずれかに該当します。
請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として報酬を支払うことを約束する契約。
委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約。
準委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約。
なお、請負契約と(準)委任契約の違いにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
業務委託契約は大きく分けて7パターン
業務委託契約は、請負契約や(準)委任契約を含めると、次の契約に該当する可能性があります。
- 請負契約である業務委託契約
- 委任契約・準委任契約である業務委託契約
- 寄託契約である業務委託契約
- 組合契約である業務委託契約
- 実は雇用契約・労働契約である業務委託契約
- 実は労働者派遣契約である業務委託契約(偽造請負)
- 売買契約・譲渡契約が含まれる業務委託契約
もちろん、これらに該当しない、非常に特殊な業務委託契約もあるでしょう。
また、知的財産権の使用・利用が関係してくる業務委託契約となると、ライセンス契約の要素も含まれてきます。
「業務委託契約書」のタイトル・表題に惑わされない
このように、業務委託契約は、契約内容によって、性質が異なります。
そういう意味では、「業務委託契約書」というタイトル・表題を鵜呑みにしてはいけません。
もっといえば、「業務委託契約書」という契約書のタイトル・表題は、何も表現していないのと同じことです。
業務委託契約書こそ、タイトル・表題ではなく、その内容をしっかりと見極めることが重要です。
- 業務委託契約には法的な定義がない。
- 一般的な業務委託契約は、民法上の請負契約か準委任契約のいずれか。
- ただし、業務委託契約は、他の契約に該当する場合もある。
- 特に業務委託契約書は、タイトル・表題ではなく、内容で判断する。
内容によって適用される法律・責任が変わる
請負契約・(準)委任契約によって責任の性質が変わる
瑕疵担保責任か善管注意義務が課される
業務委託契約は、内容によって、適用される法律が違ってきます。
すでに触れたとおり、一般的な業務委託契約は、請負契約か(準)委任契約のいずれかの契約です。
これらの契約は、それぞれ、瑕疵担保責任または善管注意義務の責任が発生します。
仕事の目的物に瑕疵(ミス・欠陥)があった場合において、注文者から請求された、瑕疵(ミス・欠陥)の修補・損害賠償・契約解除の請求に応じる、請負人の責任をいう。(民法第634条・民法第635条)。
善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。
瑕疵担保責任と善管注意義務の違いは?
瑕疵担保責任と善管注意義務は、性質がまったく異なる責任です。
- 瑕疵担保責任の性質:受託者が仕事の結果に対して負う責任。
- 善管注意義務の性質:受託者が仕事の過程に対して負う責任。
このため、業務委託契約では、契約形態を請負契約か(準)委任契約かを決めていないと、特に仕事の結果が失敗に終わった場合に問題となります。
例えば、契約形態を決めていないシステム開発の業務委託契約で、結果的にシステムが完成しなかった場合、次のように、委託側と受託側で主張が対立します。
- 委託者(ユーザ):このシステム開発の契約は請負契約だから、システムを完成させる責任がある。よって、システムが完成しないと料金は払わない。
- 受託者(ベンダ):このシステム開発の契約は準委任契約だから、システム開発の作業を提供するだけ。よって、システムを完成させる責任は負わないし、作業の料金を請求できる。
当事者の資本金と業務内容によって下請法が適用される
また、委託者・受託者の資本金の金額と業務内容によっては、下請法が適用されます。
下請法は、正式には、「下請代金支払遅延等防止法」といいます。
下請法が適用される場合、委託者は「親事業者」ということになり、様々な規制や禁止行為が適用されます。
代表的なものとしては、親事業者である委託者は、下請事業者である受託者に対し、下請法第3条にもとづく書面(いわゆる三条書面)を交付しなければなりません。
このため、契約実務では、三条書面の基準を満たすように、業務委託契約書を作成する必要があります。
- 請負契約か準委任契約かによって、受託者が果たす責任・義務は、瑕疵担保責任か善管注意義務のいずれかになる。
- 瑕疵担保責任は仕事の結果に対する責任であり、善管注意義務は仕事の過程に対する責任。
- 契約形態を決めていないと、トラブルになった際に、委託者・受託者ともに自分にとって都合のいい主張をする。
- 委託者・受託者の資本金と業務内容によっては、下請法が適用される。
業務委託契約書では業務内容の規定に注意する
業務内容の明確化がトラブルの防止の第一歩
業務委託契約書を作成する際には、業務内容を明確化することが重要となります。
業務委託契約には、さまざまなトラブルがありますが、最も典型的なものは、業務の実施ができたかどうかを巡って、委託者と受託者の間で解釈が割れるトラブルです。
このトラブルの原因としては、もちろん、委託側の要求水準のハードルが極端に高い、あるいは、受託側の業務の実施能力が極端に低い、ということもあり得ます。
しかし、通常は、そもそも業務内容が曖昧であるために、当初想定した「業務の実施」が何なのかが決まっていない、という点に問題があります。
このようなトラブルを防止するためにも、なるべく業務内容は、一義的かつ客観的に規定するべきです。
できるだけ検査仕様も決めておく
また、業務内容が曖昧な場合、実施された業務が検査に合格するかどうか、という点でもトラブルになります。
大半の業務委託契約では、実施された業務について検査がおこなわれます。
この検査でも、業務内容の問題点と同じく、実施された業務が合格か不合格かを巡って、委託者と受託者が揉めることがあります。
このため、なるべく、業務委託契約では、明確な検査仕様(検査項目・検査方法・検査基準)を決めておき、一義的かつ客観的な検査ができるようにしておくべきです。
なお、業務委託契約書について、さらに詳しい情報をお求めの場合は、姉妹サイト「業務委託契約書の達人」をご覧ください。
- 業務委託契約書では、業務内容を明記することで、契約当事者間のトラブルを予防できる。
- なるべく検査仕様(検査項目・検査方法・検査基準)を決めておくことで、検査結果の合格・不合格を巡るトラブルを予防できる。