このページでは、契約書の書き方のうち、当事者の書き方について解説しています。

契約書では、なんらかの形で当事者を特定します。

一般的な契約書では、前文の中で当事者の商号・屋号(消費者の場合は氏名)と略称と記載します。

また、署名欄では、あらためて商号と住所を表記し、署名者の署名または記名および押印をして、当事者を特定します。

このページでは、こうした契約書における当事者の書き方について、解説しています。




当事者は前文に記載する

契約当事者の特定は極めて重要

契約当事者が誰であるかは、言うまでもなく、契約書では、非常に重要です。

ただ、当事者を正確に特定するのは、主に署名欄での署名や押印(特に実印によるもの)によります。

契約書の署名欄のサインのしかた・書き方・押印のしかたは?

このページでは、こうした契約当事者の特定についてではなく、あくまで、契約書の文章における当事者の表記について解説します。

誰がどのような立場かを前文で明らかにする

法人は法人名(商号)・消費者は氏名を記載する

契約当事者は、通常は、契約書の前文の書き出しに規定します。

【意味・定義】前文(契約書)とは?

契約書の前文(ぜんぶん・まえぶん)とは、タイトル・表題の直後に書かれている文章であって、契約の当事者や概要が記載されたものをいう。

この際、法人の場合は、正式な法人名(商号)を記載します。

契約条項の記載例・書き方
取引基本契約

株式会社◯◯商事(以下、「甲」という。)と株式会社◯◯工業(以下、「乙」という。)とは、物品の製造請負契約の基本的事項を規定することを目的として、この契約を締結する。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

また、消費者としての個人の場合は、氏名を記載ます。

契約条項の記載例・書き方
金銭消費貸借契約

山田一郎(以下、「甲」という。)と佐藤花子(以下、「乙」という。)とは、次のとおり、金銭消費貸借契約を締結する。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




個人事業者は屋号+氏名と個人事業者であることを明記する

注意するべきなのは、個人事業者が相手方の場合です。

この場合は、「屋号こと氏名」「雅号こと氏名」「芸名こと氏名」等に加えて、個人事業者であることを明記します。

具体的な記載例は、次のとおりです。

契約条項の記載例・書き方
売買契約

株式会社◯◯商事(以下、「甲」という。)と個人事業者である鈴木商店こと鈴木太郎(以下、「乙」という。)とは、次のとおり、売買契約を締結する。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




このような表記をする理由は、この契約が事業上のものであり、鈴木太郎氏は、消費者ではなく、事業者としてこの契約を締結したことを明らかにするからです。

これにより、この契約には、消費者契約法などの法律が適用されなくなります。

このように、個人事業者を相手に契約を締結する場合は、事業上の取引であることを明らかにする必要があります。

表紙に当事者の表記があると便利

なお、契約書に表紙をつける場合は、前文だけでなく、表紙にも当事者の表記があったほうが便利です。

というのも、契約書に表紙をつけた場合、当事者の表記をしていないと、誰との契約書であるのかを確認する際、いちいちページをめくって確認しなければなりません。

このため、契約書に表紙をつける際には、当事者を表記する欄を設けるのは必須といえます。

逆に、表紙をつけない場合は、当事者がすぐにわかるように、1ページめの右上などに、前文とは別に、当事者を表記する場合があります。

契約条項の記載例・書き方
取引基本契約
甲:株式会社◯◯商事
乙:株式会社◯◯工業

株式会社◯◯商事(以下、「甲」という。)と株式会社◯◯工業(以下、「乙」という。)とは、物品の製造請負契約の基本的事項を規定することを目的として、この契約を締結する。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




ポイント
  • 契約当事者の特定は極めて重要であるため、署名欄で必ず特定すること。
  • 前文での当事者の表記では、誰がどのような立場か、特に個人が契約当事者となる場合は、消費者か個人事業者かを明らかにする。
  • 法人が当事者の場合は、正式な法人名(商号)を記載する。
  • 個人(消費者)が当事者の場合は、氏名を記載する。
  • 個人事業者が当事者の場合は、個人事業者である旨と、屋号と氏名を記載する。




当事者の略称はわかりやすいものにする

前文では当事者の略称も規定する

また、記載例にもあるとおり、前分では、各当事者の略称を規定します。

略称としては、いわゆる「甲乙表記」が有名ですが、わかりやすければ何でもかまいません。

また、甲乙表記では、どちらが誰だったか誤解しやすいため、当事者の関係性が分かりやすい略称(例:発注者・受注者)のほうが、ミスが少なくなります。

この他には、具体的には、次のようなものがあります。

契約当事者の略称の例
  • 発注者・受注者:企業間契約
  • 一方の当事者・他方の当事者:契約全般
  • 買主・売主:売買契約
  • 委託者・受託者:業務委託契約
  • 注文者・請負人:請負契約
  • 委任者・受任者:(準)委任契約
  • 貸主・借主:貸借契約
  • 使用者・労働者:雇用契約・労働契約
  • 開示者・被開示者(受領者):秘密保持契約
  • ライセンサー・ライセンシー:ライセンス契約
  • フランチャイザー(本部)・フランチャイジー(加盟店):フランチャイズ契約
  • 本部(サプライヤー)・代理店:代理店契約
  • 本部(サプライヤー)・販売店:販売店契約

甲乙はどちらでも契約上の立場に関係ない

契約書を提示した相手方(略称が乙の場合)から、「甲乙の表記を逆にしてくれ」と要求されることがあります。

この話は、企業間の契約実務に関わっていれば、必ず1回は経験することだと思います。

当然ながら、甲乙の順番は、契約の内容には、まったく関係ない話です。

甲のほうが有利で、乙のほうが不利というわけではありません、

逆にいえば、相手方の表記が乙側になった契約書が出てきたとしても、特に譲歩したり謙遜しているわけではない、ということです。

ポイント
  • 略称は、わかりやすければ何でもかまわない。
  • 甲乙表記には、優劣関係はない。甲だから有利、乙だから不利ということもない。




住所は前文ではなく署名欄でかまわない

英文の契約書では、前文での当事者の表記では、「◯◯国◯◯州◯◯に主たる事務所がある◯◯, Inc.は…」と表現することがあります。

これは、少なくとも国内取引では特に記載する必要はありませんので、住所は署名欄だけで十分です。

また、同様に、「◯◯州法にもとづき有効に設立された◯◯, Inc.は…」のように、設立の根拠となった法律が記載されることがあります。

これも、国内取引の場合は、特に「日本法の会社法(平成十七年法律第八十六号)にもとづき有効に設立された…」という記載は必要ありません。

もちろん、取引によっては、登記事項等を確認し、実際に設立されている有効な法人であることを確認するべきではあります。

ポイント
  • 国内取引の契約書では、住所の表記は、前文には必要なく、署名欄に記載してかまわない。
  • 国内取引の契約書では、法人設立の根拠法は、記載する必要ない。