
契約書の文章は、一般的な日本語ではなく、法律用語や独特な契約実務の慣例・ルールを使って表現します。
つまり、契約書で使われる言語は、日常的な日本語とは違った、一種の別の言語です。
このため、こうした法律用語や慣例・ルールに従った書き方をしないと、いざというときに、契約書が機能しなくなります。
それどころか、専門的な書き方をしていないと「専門家が作成していない契約書」であることがバレてしまいます。
このページでは、こうした契約書の文章の書き方について、解説します。
契約書は「日本語を使ってはいけない」?
契約書の文章には独自の慣例・ルールがある
契約書の文章は、法律によって書き方が決まっているわけではありません。
契約書は、契約自由の原則のうちの方式自由の原則により、自由に表現することができます。
ただ、専門家が契約書の文章を書く際は、法律用語を使い一定の慣例やルールに従った書き方をします。
極端な言い方になりますが、通常の日本語を使った書き方はしません。
実は、法律用語を使ったり、慣例・ルールに従った書き方をしているかどうかは、非常に重要となります。
法律用語を使わず慣例・ルールに従わないとどうなる?
契約書で法律用語が使われ、慣例・ルールに従った書き方がされている場合、相手方がリーガルチェクをした際に、「相手も専門家が作成している」と判断します。
ところが、契約書で法律用語が使われておらず、慣例・ルールに従った書き方もされていないと、リーガルチェクの際に、「もしかしたら相手には専門家いないかも?」と判断します。
つまり、相手方に対し、ヘタに慣例・ルールに従っていない契約書を提示してしまうと、「ウチには弁護士などの専門家はついていませんよ」というメッセージを伝えることになります。
慣例・ルールに従っていない契約書のリスク
法律用語が使われず、慣例・ルールに従った書き方がされていない契約書は、「専門家がついていない」というメッセージとなる。
これでは、契約交渉で、非常に不利な状況になってしまいます。
専門知識がないと問題点には気づかない
こうした慣例・ルールに従って書かれているかどうかは、専門知識があり、経験を積んでいないと、なかなか気づきません。
ましてや、相当に経験を積んでいないと、契約実務の慣例・ルールに従った書き方はできません。
例えば、「その他」と「その他の」、「時」と「とき」、「前項の場合」と「前項に規定する場合」は、それぞれ別の意味です。
これらは、あくまで初歩的なルールや慣例ですが、こうした個々の慣例・ルールは、知らなければ、気づかないものです。
ポイント
- 契約書の文章には独自の慣例・ルールがあり、これに従って契約書を書くのが鉄則。
- 法律用語が使われず、慣例・ルールに従った書き方がされていない契約書は、「専門家がついていない」というメッセージとなる。
- 専門知識がないと、「法律用語を使っていない」「契約実務の慣例・ルールに従っていない」問題点には気づかない
契約書独特の書き方の慣例・ルールは?
具体的には、契約書の文章の書き方には、次のような独自の慣例・ルールがあります。
契約書独特の文章の慣例・ルールは?
- 横書きの契約書では、条番号(「第1条」「第2条」)・項番号(「1」「2」)・号番号(「(1)」「(2)」)はアラビア数字で記載する。
- 号よりも下位の細分は、「ア」「イ」「ウ」または「イ」「ロ」「ハ」で記載する。
- 項番号には、「1.」「2.」のようなピリオドは打たない。
- 条、項、号は、「第2条第3項第6号」のように、必ず「第」をつける。
- 項は文章で書く。
- 号と細分は名詞または体言止めの名詞節で書き、文章では書かない。
- 号と細分は「こと。」「とき。」だけ句点(。)を打つ。それ以外は句点を打たない。
- 主語の直後には必ず読点(、)を打つ。
- 「場合、」「この場合において、」「ときは、」「場合に限り、」「ただし、」には読点(、)を打つ。
- (…という。)のように、丸括弧内は、用言の場合は句点(。)を打つ。名詞の場合は句点は打たない。
- 「または」「および」は単独で使うこともあるが、「もしくは」「ならびに」は単独では使わない。
- 「または」「もしくは」は、「または」が、より上位の階層をつなぐ。
- 「および」「ならびに」は、「ならびに」が、より上位の階層をつなぐ。
- 「または」「もしくは」「および」「ならびに」で3以上の用語をつなぐ場合は、「A、B、CまたはD」のように、それぞれの用語を句点(、)でつなぎ、最後に「または」等でつなぐ。
- 「または」「もしくは」・「および」「ならびに」・「かつ」は、名詞や体言止めの名詞節をつなぐ場合は、句点(、)を打たず、用言をつなぐ場合は句点(、)を打つ。
- 1段階の条件を規定する場合は、「場合」を使う。
- 2段階の条件を規定する場合は、上位の条件には「場合において」、下位の条件には「ときは」を使う。
- 3段階の条件を規定する場合は、上位の条件には「場合において」、中位の条件には「ときは」、下位の条件には「場合に限り」を使う。
(※あくまでこの慣例・ルールは一部のものです。この他にも、独特な慣例・ルールがあります)
このような、独特の表現・用語を正確に使いこなし、慣例・ルールに従った表現がされてないと、専門家が作成していない契約書と判断される可能性があります。
ポイント
- 契約書は、文章の書き方にしても、細かな慣例・ルールがあり、これらの慣例・ルールに従って書く必要がある。
契約書でよく使われる表現・用語とは?
また、日本語の契約書は、次のような表現・用語が、特によく使われます。
契約書でよく使われる表現・用語
- 「その他」「その他の」
- 「係る」「関する」
- 「場合」「とき」「場合に限り」「時」
- 「前項の場合」「前項に規定する場合」
- 「者」「物」「もの」
- 「以前」「前」「以後」「後」「以降」
- 「以上」「超」「以下」「未満」
- 「直ちに」「遅滞なく」「速やかに」
- 「この限りでない」「前項ただし書きの規定」「妨げない」
- 「ただし」「この場合において」
- 「期日」「期限」「期間」
- 「および」「ならびに」「かつ」
- 「または」「もしくは」
- 「推定する」「みなす」
- 「同」「当該」
- 「使用」「利用」
- 「善良な管理者の注意」「自己のためにすると同一の注意」
- 「から」「より」
- 「捺印」「押印」「消印」「契印」「割印」「捨印」「止印」
(※あくまでこの表現・用語は一部のものです。この他にも、独特な表現・用語があります)
これらの表現や用語は、それぞれ別々の意味があり、使い方も独特です。
また、使い方にも、次項にあるとおり、独特のルールがあります。
契約書は必ずリーガルチェックを受ける
さて、一部のものではありますが、法律用語や慣例・ルールを紹介してきました。
繰り返しになりますが、こうした法律用語や慣例・ルールに従った書き方をしないと、専門知識・経験がある人が確認した場合、「専門家が作成していない」と判断されます。
契約交渉の際、「自社に専門家がついていない」ことが相手方バレた場合、交渉の主導権が握られるリスクがあります。
何よりも、実際に契約書を使わざる得ない状況(=トラブル)になった場合、契約書が想定したとおり機能してくれないリスクがあります。
このため、契約書を作成した場合は、相手方に提示する前に、必ず専門知識と経験がある専門家にリーガルチェックをしてもらってください。
なお、弊所でも、リーガルチェックサービスを実施していますので、お気軽にお申し込みください。
ポイント
相手方に「専門家がついていない」ことがバレないように、また、いざとなった場合にも契約書が機能するように、契約書は、必ず専門家のリーガルチェックを受ける。
契約書の文章の書き方に関するよくある質問
- 契約書の文章は、どのように書くのですか?
- 契約書の文章は、一般的な日本語の文章とは異なる、次のような独特のルール・慣例に従って書きます。
- 横書きの契約書では、条番号(「第1条」「第2条」)・項番号(「1」「2」)・号番号(「(1)」「(2)」)はアラビア数字で記載する。
- 号よりも下位の細分は、「ア」「イ」「ウ」または「イ」「ロ」「ハ」で記載する。
- 項番号には、「1.」「2.」のようなピリオドは打たない。
- 条、項、号は、「第2条第3項第6号」のように、必ず「第」をつける。
- 項は文章で書く。
- 号と細分は名詞または体言止めの名詞節で書き、文章では書かない。
- 号と細分は「こと。」「とき。」だけ句点(。)を打つ。それ以外は句点を打たない。
- 主語の直後には必ず読点(、)を打つ。
- 「場合、」「この場合において、」「ときは、」「場合に限り、」「ただし、」には読点(、)を打つ。
- (…という。)のように、丸括弧内は、用言の場合は句点(。)を打つ。名詞の場合は句点は打たない。
- 「または」「および」は単独で使うこともあるが、「もしくは」「ならびに」は単独では使わない。
- 「または」「もしくは」は、「または」が、より上位の階層をつなぐ。
- 「および」「ならびに」は、「ならびに」が、より上位の階層をつなぐ。
- 「または」「もしくは」「および」「ならびに」で3以上の用語をつなぐ場合は、「A、B、CまたはD」のように、それぞれの用語を句点(、)でつなぎ、最後に「または」等でつなぐ。
- 「または」「もしくは」・「および」「ならびに」・「かつ」は、名詞や体言止めの名詞節をつなぐ場合は、句点(、)を打たず、用言をつなぐ場合は句点(、)を打つ。
- 1段階の条件を規定する場合は、「場合」を使う。
- 2段階の条件を規定する場合は、上位の条件には「場合において」、下位の条件には「ときは」を使う。
- 3段階の条件を規定する場合は、上位の条件には「場合において」、中位の条件には「ときは」、下位の条件には「場合に限り」を使う。
- 契約書で使用する特殊な表現には、どのようなものがありますか?
- 日本語の契約書では、次のような表現を使います。
- 「その他」「その他の」
- 「係る」「関する」
- 「場合」「とき」「場合に限り」「時」
- 「前項の場合」「前項に規定する場合」
- 「者」「物」「もの」
- 「以前」「前」「以後」「後」「以降」
- 「以上」「超」「以下」「未満」
- 「直ちに」「遅滞なく」「速やかに」
- 「この限りでない」「前項ただし書きの規定」「妨げない」
- 「ただし」「この場合において」
- 「期日」「期限」「期間」
- 「および」「ならびに」「かつ」
- 「または」「もしくは」
- 「推定する」「みなす」
- 「同」「当該」
- 「使用」「利用」
- 「善良な管理者の注意」「自己のためにすると同一の注意」
- 「から」「より」
- 「捺印」「押印」「消印」「契印」「割印」「捨印」「止印」