このページでは、いわゆる「仮契約書」のリスクについて、解説しています。

仮契約書とは、一般的には、通常の契約書に比べて、効力が弱い契約書と思われがちです。

しかし、実は、仮契約書は、法的な定義ある書面ではありません。

つまり、法的な効力や法的拘束力という点では、通常の契約書と同じとも解釈できます。

このような事情があるため、仮契約書の法的有効性を巡って、トラブルになることが多いです。




仮契約・仮契約書とは?

仮契約・仮契約書は法律上の定義がない

仮契約や仮契約書という言葉は、一般的にはよくビジネス用語です。

【意味・定義】仮契約とは?

仮契約とは、一般に、後に本契約を締結する前提で、仮に締結する契約をいう。

仮契約の内容は、実質的に本契約と同等のものや、本契約の重要な一部の内容のみのものまで、さまざまです。

そして、仮契約が記載された契約書が、仮契約書です。

【意味・定義】仮契約書とは?

仮契約書とは、仮契約が記載された契約書をいう。

仮契約や仮契約書は、意味はない・効力がないなど、通常の契約書に比べて、法的効果や法的拘束力が薄い・無いかのような意味で使われています。

ただ、実は、仮契約は、法律の規定や定義がある用語ではありません(一部の政省令にはあります)。

このため、そもそも仮契約や仮契約書が何なのか、法律で決まっているものではありません。

仮契約も本契約も契約であり法的拘束力がある

では、仮契約や仮契約書は、本当に法的効果や法的拘束力が薄い、または無いのでしょうか?

この点について、仮契約であろうと、本契約であろうと、契約は契約です。

ですから、仮契約も、通常の契約と同じ法的効果がありますし、法的拘束力もあります。

ただし、仮契約書に法的効果・法的拘束力がないことが明記されたものを除きます。

仮契約の法的効果

仮契約は、通常の契約書と同様の法的効果や法的拘束力がある。ただし、仮契約書に法的効果・法的拘束力がないことが明記されている場合を除く。

そもそも、原則として、契約は契約自由の原則のうち、方法自由の原則により、口頭=契約書がなくても成立するものです。

【意味・定義】方法自由の原則とは?

方法自由の原則とは、契約締結の方法を自由に決定できる原則をいう。

第522条(契約の成立と方式)

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

このため、仮契約書に限って法的効果が薄い、法的拘束力がない、ということはありません。

仮契約書はリスクが高い契約で気軽に署名・サインさせるもの

それにもかかわらず、実際のビジネスの現場では、仮契約書が使われることがあります。

なんとなく「法的効果が薄い、法的拘束力がない」というイメージがある仮契約書を使うことで、気軽に署名・サインをさせることを目的としています。

すでに触れたとおり、仮契約書であっても、通常の契約と同様の法的効果はありますし、法的拘束力があります。

このため、仮契約書への安易な署名・サインは、契約実務上、極めて危険なことです。

仮契約はトラブルになると当事者が都合のいいように解釈する

すでに触れたとおり、仮契約や仮契約書には定義がないため、トラブルになった際には、契約当事者が、それぞれ自分にとって都合のいいように解釈します。

トラブルになった仮契約におけるそれぞれの主張
  • 契約を迫る側:「あくまで仮のものだから・・・」と、契約を迫ることができる一方で、いざというときは、「これはちゃんとした契約ですよ」と契約が成立したものと主張する。
  • 契約を迫られた側:「仮のものならば・・・」と、抵抗なく契約を結ぶことができる一方で、いざというときは、「これは仮の契約ですから」と契約が成立していないものと主張する。

このように、仮契約書には、契約の有効性そのものを巡ってトラブルになるリスクがあります。

ポイント
  • 仮契約・仮契約書という言葉は、法律上の定義がない。
  • 仮契約でも契約である以上は法的効果・法的拘束力がある。
  • 仮契約書は、本来であればリスクが高いために、署名・サインをためらう契約で、気軽に署名・サインさせるために使うもの。
  • 仮契約書にもとづいてトラブルが発生した場合、契約当事者が、それぞれ都合のいい主張をする。





仮契約書は悪質業者が悪用する

タイトルが「仮」でも法的効果・法的拘束力はある

契約書は、特別なことが記載されていなければ、原則として、すべて法的に有効です。

すでに触れたとおり、タイトルに「仮」がついていようとも、契約書は契約書ですので、効果は同様です。

ですから、法的効果・法的拘束力についての規定がない仮契約書は、法的効果・法的拘束力があるものとみなされます。

なお、契約書のタイトルにつきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

契約書や覚書のタイトル・表題・件名の効力・効果・書き方は?

仮契約書は悪質業者が「仮のもの」として使いたがる

仮契約書は、悪質な建設業者や不動産業者が、使うことがあります。

具体的には、建物の建設工事請負契約や不動産売買契約などで、専門知識に乏しい一般消費者に対して、仮契約書を提示し、「仮のものですから…」と署名・サインを迫ります。

その後、実際に契約交渉を進め、最終的な契約条件を検討した結果、最終的には「本契約」の合意に至らないことがあります。

このような場合、仮契約書の存在が問題となります。

当然、悪質な建設業者や不動産業者は仮契約書が有効であると主張しますし、顧客の側は仮契約書が無効であると主張します。

「仮契約が無効」という主張は通らない可能性がある

すでに触れたとおり、仮契約書といえども、法的には有効となる可能性が高いです。

ですから、仮契約書に法的効果・法的拘束力がない旨が記載されていない限り、顧客の「仮契約書が無効である」という主張は通らないこともあります。

このようなトラブルを防ぐためには、仮契約書にサインする前に、本当にその契約書が「仮」であるのかどうか、つまり、法的効果の有無が記載されているかどうかをチェックする必要があります。

また、法的効果がない旨が記載されていないのであれば、その旨を追記したうえでサインするべきです。

本当に仮契約書を仮のものとして使用するつもりであれば、相手方もこれを拒否する理由はありません。

ポイント
  • タイトルが「仮契約書」でも、法的効果・法的拘束力はある。
  • 仮契約書は、悪質業者が「仮のもの」として使いたがる。
  • トラブルになった場合は、「仮契約が無効である」という主張は通らない可能性がある。





仮契約書ではなく条件付き契約書を使う

本来は「仮契約書」ではなく(条件付きの)普通の契約書を使う

今どきの普通の事業者は、「仮契約書」のような怪しいタイトルの契約書など、まず使いません。

通常であれば、法的効果・法的拘束力がある契約書を使いつつ、すでに触れたような、前提条件を規定します。

そのうえで、この前提条件が満たされなかった場合は、契約が失効したり、契約解除ができるような内容とします。

なにもわざわざ仮契約書など使わなくても、こうした法的効果・法的拘束力がある契約書は、作成可能です。

銀行の融資に必要な場合は仮契約ではなく条件付きの契約とする

この点は、銀行の融資の審査に必要な書類にも該当します。

建物の建設工事請負契約や、不動産売買契約では、銀行からの融資の際に、銀行からこれらの契約の契約書の提示を求められる場合もあります。

このような場合、仮契約書を取交さずに、銀行からの融資を前提条件とした、条件付の契約書とするべきです。

具体的には、銀行の融資を条件として、融資があった場合には法的効果が発生し(=契約が有効に成立)、融資がなかった場合は、法的効果が発生しない(=契約が成立しない)ようにします。

このように、仮契約書とするのではなく、より具体的に契約が有効となる条件を明記することが重要です。

ポイント
  • 普通の事業者は、「仮契約書」など使わずに、条件付きの契約書を使う。
  • 銀行の融資の審査に必要な場合は、仮契約書ではなく条件付き契約書を使う。





【補足】仮注文・仮発注も同じ

なお、仮契約と同じような言葉として、仮注文や仮発注という言葉があります。

これらも、仮契約と同じで、法的効果・法的拘束力があるものです。

同様に、仮注文書や仮発注書も、仮契約書と同じく、法的効果・法的拘束力があります。

このため、特に企業間取引で、仮発注書や仮注文書のような書類が出てきたときは、通常の発注書や注文書よりも、警戒しながら、条件をよく確認するべきです。

ポイント

仮注文・仮発注や仮注文書・仮発注書も、仮契約・仮契約書と同じく、法的効果・法的拘束力がある。